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そうはちぼん

昼間の日本上空の成層圏を、スポーツスタジアム並みの大きさの『円盤状物体』がゆっくり回転しながら飛行していた。

円盤状物体は奇妙な光を纏い、傍目にはほぼ透けて見えている。その内部では・・


「むぐぅーっ! むぐぅーっ!!」


猿ぐつわを噛まされた全裸の男が抽象化されたような手術台の上に拘束されていた。必死でもがく男。その部屋は無機質で、およそオペ室には見えない。

手術台の左右にはかなりレトロな『宇宙人風』のコスプレをした中年男2人がメスと鉗子(かんし)(X型の挟む器具)を持って立っていた。


「被験者っ! 地球っ、日本地域っ、ポイント88で生息っ!! 氏名ヒツジカメ・ジロウっ!! 職業、自称投稿作家っ!!!」


「ほほう、とんだ犬のクソですね」


宇宙人コスプレの中年男2人は平然とした顔をしている。


「むぐぅーっ! むぐぅーっ!!」


もがくヒツジカメ・ジロウ。


「これより第5回っ、キャトルミューティレーション処置を開始するっ!!」


「地球人の身体構造、興味深い」


麻酔も何もせずに開腹(かいふく)処置を始める宇宙人コスプレの2人。血が飛び散り、溢れる。


「むぐぅぶぅううーーーっっ?!!!!」


ヒツジカメ・ジロウの声にならない絶叫が響く。その様子を、無機質な部屋の片隅におかれた小さなティーテーブルの席に座り、珈琲を飲みながら見ている者がいた。


「あ、このインスタントコーヒーは当たりだ。『(まめ)み』を感じる」


その者は背広を着た鰐人間だった。


「スズキくーん、タナカくーん。だいぶ『そうはちぼん』の力の使い方、覚えたみたいだし、そろそろ大量に、どーんっ! と拉致ってみない?」


「拉致ではないっ! キャトルミューティレーション処置だっ」


小型チェーンソーを機動させる『スズキ』。


「崇高な宇宙開拓者として、純粋に地球の現地類人猿の調査をしているのです」


ハンドドリルを機動させる『タナカ』。


「わかったわかった、それでいい。とにかく折角、施設と座敷牢から出してあげたんだからさっ? 愉しく殺ろうよ? ね?」


コーヒーカップ片手に、柔らかに笑い掛ける背広の鰐人間。


「実施に賛同するっ!」


「大量に検体が手に入るなら我々の宇宙船を改造しないといけませんね。おっと、スズキくんっ。いきなり心臓はダメです。すぐ死んでしまいます。大事に扱ってください」


哀れなヒツジカメ・ジロウはそれから約2時間。器用に止血処置と輸血を繰返されながら解体されていった。



異界、御山の中腹には温泉町があり、そこの『雀のお宿』の一軒がヘビ子達の常宿である。

従業員は主に雀の怪異で、ほぼ人間の姿で働いている者も少なくなかったが、中に鳥の着ぐるみを着ているような姿の者もいた。

3人組と、訪れていたトラ子は、浴衣を着てリラックスした様子で夕陽の差す畳の上に拡げた巻物を囲んでいたが、メ子は市販のタブレットPCを持ち、カタメ子はヌリカベ族固有のスマートフォン『カベフォン』を操作していた。


「うーん、そうはちぼんの次の出現場所、1つに絞りきれないッス」


「3ヵ所、だね。どれも人が多い」


「廓童子の情報なんかは早いけど精度が微妙ですっ」


「私はまだ見習いだ。2班にしか分けられないんじゃないか?」


わりと大きい為、風呂上がりで蒸すらしい胸元を少し開けて団扇で扇いでいるトラ子。


「1ヵ所は別の組に頼むか、いっそヤバそうな日は纏めて避難させるなり『人払(ひとばら)い』するなりした方がいいかもなぁ」


水虎は引き続きトラ子の左腕になっていて、手の甲の辺りに顔を出して話している。ヘビ子達とは憑き方に違いがあるようであった。


「班分けどうします?」


「プラネタリウム、UFO研究会が活発な大学、観光農園・・むぅ、固めきれない」


「そうはちぼんはすぐ逃げるから、待ち構えないと無理ッスよ?」


ヘビ子は蛇化させた右腕を伸ばしテーブルの上の木鉢に入れられた煎餅を1枚取り、顔の口まで持っていって噛りつつ、思案していた。



後日の夜、某市の某大学の既に閉まった食堂横のバーベキュースペースに学生50数名と講師1人、そしてそれぞれ量販店で適当に買った風の私服を着たカタメ子とメ子が集まっていた。


「は~い。今夜は、UFO研恒例の『バーベキュー&UFO招来会』の開催ですっ!」


UFO研究会の会長が挨拶を始めていた。盛り上がる学生達。


「今回はお目付け役のモガ先生と、特撮研と漫研とアニ研とオカルト研とアイドル研と鉄道研と文芸サーと模型サーとコスプレサーとサバゲーサーの有志、それから姉妹校からカタメ子さんとメ子さんに来てもらいましたぁっ!!」


「カタメ子だ。芸名ではないぞ」


「メ子です。名字じゃないです」


盛り上がる学生たち。


「メ子ちゃんホントに大学生? 小っちゃくない??」


「次言ったらブチのめしますよ?」


「カタメ子さん、ギター弾けんの?」


「これはギター型の『猫背矯正器』で弾くと爆発する」


学生達は大いに盛り上がった。

ヘビ子とトラ子はプラネタリウムに潜入していた。かなり離れているが、カタメ子達の大学も同じ市の施設であった。


「思ったより人が多いッス」


「客がいないと逃げられるし、厄介だな」


「トラ子と違って特定の対象に執着するタイプじゃないしよ」


「蒸し返すなっ」


「イヒヒ」


ヘビ子達は片耳に付けた霊器(れいき)木霊(こだま)のボタン』と、『木霊の指輪』で小声で会話していた。インカムと同じように使える。

開演前のまだ戸の開いた観覧室にいるヘビ子はいつもの着崩した体操服であったが、ロビーのトラ子は身体にフィットしたストレッチ生地の学ランを着ていた。

スタイルが良い為、トラ子は男装にもなっておらず目立ってしまうところだが、2人は3等品ながら霊器『隠行札(おんぎょうふだ)』背に貼っていた為、大きな物音を立てたりしない限りは認識され難くなっていた。

と、プラネタリウム館の全ての窓から眩しい光が差し込んだ。


「っ!」


「なっ?」


「おおうっ?!」


プラネタリウム館の真上に発光する巨大円盤状物体。怪異・そうはちぼんが飛来し、浮遊していた。

館内及び館の外周にいた人々は全員光に包まれてワケもわからずその場に浮き上がった。ヘビ子達も例外ではなかった。


「こんなパワーあったッスかっ??!!」


「手口が雑過ぎるっ!」


「契約者の気質と狂気だっ! こりゃ複数かもしれ」


水虎が言い終わらぬ内に、光に包まれた全員が、そうはちぼんの体内にテレポートさせられた。

一方、カタメ子とメ子は学生達と『パラパラ』を踊っていた。概ね2ステップを踏みながら上半身は緩いほぼ腕だけの簡単な振り付けの奇妙なダンス。BGMは古臭いユーロビート。

カタメ子は東京タワーの着ぐるみを着せられ、メ子はイクラの軍艦巻きの着ぐるみを着せられていた。

学生達も思い思いの扮装をしている。これでUFOを呼ぶ(てい)だが、ようはバーベキュー大会前の腹ごなしであった。


「・・・」


「・・・」


2人とも全力で無表情をキープしたが久し振りに楽しくなってしまい、ダンスに集中していた。

結果、同じ市の遠い空に一瞬走った異様な光や気配にさっぱり気付かなかった。2人も身に付けている木霊の通信霊器も範囲外だった・・。



ヘビ子とトラ子がテレポートで送られたのは半球型の扉の無い部屋だった。この部屋に人間は飛ばされていない。

既に認識されてしまったことで背中の隠行札は焼けるようにして滅びて効果を失った。

部屋の中には穴を出せるが外は認識し辛く、出せないことを手早く確認するヘビ子。


「マズい、よな? これは」


戸惑うトラ子。


「オレ達だけだったらちょっと考えるとこだろうけどよ」


「ッスねっ」


ヘビ子は両目を爬虫類化させて周囲を見た。


「人間達の『命の気配』が3ヵ所で見えるッス! 一番近いのは・・あっちっ!!」


壁の1つの方向を差すヘビ子。


「トラ子っ、御山で散々修行した『残虐トラ子クロー』をお見舞いしてやれっ!」


「恥ずかしい技名つけないでくれ」


左腕を袖ごと逆巻く水に変え、水の鉤爪を放って壁を粉砕するトラ子。大半の水はすぐに左腕に収束し、水虎の頭部の形を成した。


「いい感じッスっ、トラ子! 急ぐッス!!」


ヘビ子達は崩れた壁から飛び出していった。

通路には、かなりレトロなSF風の触覚を頭に生やした鰐人間達が待ち受けていた。


「御飯は現地調達ッス!!」


両腕を大蛇と化して巻き付けるようにして放ち、通路のSF風鰐人間達を喰い散らかして一掃するヘビ子。


「よく喰えるな・・」


少なからず引くトラ子。


「ウワバミは底無しだ。悪食の関しちゃ八巻きの怪に匹敵するんだぜ?」


「・・・」


益々引くトラ子。

最初の部屋のプラネタリウムの客や職員、たまたま近くを通り掛かった人間達は檻に容れられていた。

牢番の浮遊する玩具のようなUFOと一体化した鰐人間達をヘビ子が仕止め、檻は水の爪で破壊して中の混乱する人間達は問答無用にヘビ子の穴の中に纏めて放り込まれた。


「空気のある『胃袋』に入れといたッス。中は『眠たくなる甘い臭いのガス』を入れてあるッスっ!」


「凄い『敵の技』感だ」


「敵じゃないッス・・」


ともかく、他の2ヵ所の部屋に捕えられていた人々も次々と解放し、ヘビ子の穴に放り込んでいった。



ジューっ!! 大学ではクライマックスのバーベキュー大会が開催されだしていた。

牛肉、牛モツ、骨付き鳥、目玉焼きを乗せた焼きソバ、ソーセージ、ベーコンブロック、シーフード、タラコの炙り、ピザ、野菜、マシュマロ、大雑把に作られたカレーライス、フルーツポンチ、箱アイス、特大袋ポテトチップス、ソフトドリンク、酒酒酒・・・料理と言う程の料理は出ない、プリミティブな感覚の食の宴が開催されていた。

酔った鉄道研の者達が電車ゴッコをしだしてあちこち走り回り顰蹙(ひんしゅく)を買ったり、講師のモガが「今年一杯で雇い止めだから田舎に帰って米作るっ!」と男泣きして同情されたりいた。


「今の所、こっちはハズレっぽいけど、ヘビ子達の方はどうかな?」


着ぐるみは脱いだが頭にUFOの帽子を被せられておるカタメ子は、牛モツ焼きとピーマン焼きを交互に摘まみながらカベフォンを取り出して電話を掛けてみた。

同じく着ぐるみは脱いだが典型的な『宇宙人グレイ』のイラストの描かれた大き過ぎるTシャツを着せられたメ子は、座ってる丸椅子の下にこっそり出した小さな目玉達に焼きソバを与えていた。

玉の表面に牙だらけの口をだしてガッつく小さな目玉達。


「・・ん? 圏外? アイツまた穴の中に『ヘビフォン』入れてんじゃないだろうな? 一切っ、繋がらんっ!」


カタメ子はカベフォンを切った。



ヘビ子とカタメ子はスズキとタナカのいる部屋の壁をブチ破って突入していた。


「ッス??」


「契約者かっ?」


「願望を具現化させるタイプだぜっ!」


スズキとタナカの宇宙人風の格好に困惑するヘビ子達。


「お前達の戦いぶりは観察させてもらったっ!!」


「『直に殴って強い』単純ですね」


スズキとタナカはニッと笑うと、即座にその陰から触覚持ち鰐人間群と複数のUFO型鰐人間を放ってきた。

応戦するヘビ子とトラ子。


「百番手形っ、72番っ! ウワバミ憑きっ、ヘビ子ッス!!!」


触覚持ち鰐人間を、蹴る勢いで放った大蛇化した右足で派手に喰い散らかしながら名乗るヘビ子。


「暫定31番、水虎憑き、トラ子だ」


左腕の水虎の口から圧縮した水の矢を連射してUFO型鰐人間を撃墜してゆくとトラ子。


「我々は完全に力を使いこなしているっ!!」


「脳筋の君達とは違いますよ?」


スズキとタナカの妖力が高まりスズキは『タコ型』、タナカは『イカ型』、の宇宙人? のような姿に変わった。

2人とも胸部から半分は機械化された大きな肉の鰐を、顔だけでなく両腕と背面からは長い尾まで迫り出させた。


「っ? 心臓の鰐が侵食してるッス!!」


「あんなことになるのかっ?! ええ・・嫌だ」


「もう分離できねぇっ!」


鰐人間達を蹴散らしながら驚くヘビ子達。


「対百番手形防衛技術は確立済みだぁっ!!」


「受けなさい、私、タナカとっ!」


「スズキのっ!」


「合体妖術ぅーっ!!!」


声を揃え、さらに妖力を高めるスズキとタナカ。

ヘビ子は一気に残りの鰐人間達全てを手足を大蛇化して始末しに掛かった。水虎は攻撃を止め、逆巻く水の形態でトラ子を守る構えを取る。


宇宙的嗜み(ジェントルガーデン)ッッ!!!!」


ヘビ子が鰐人間達を全滅させると同時にスズキとタナカの妖術が発動した。


「ッスぅっ?!!」


「あっ? おおっ??」


「むぐぅっっ???」


虚空から唐突に出現したねばつく触手に手足を拘束されるヘビ子とトラ子。左腕である水虎はぐるぐる巻きにされて口を塞がれた。

ヘビ子達の背後に巨大は口と触手を持つ異様な生物が出現した。ヘビ子達を拘束する触手はこの生物によるものだった。


「なんッスかっ!」


「切れないっ、水虎も?!」


「むぐぅっ!!」


単に拘束されただけでなく、ヘビ子達は思うように力を行使できなくなっていた。


「フハハハっ!! 説明しようっ! ジェントルガーデン発動後、フィールドの対戦者の死角にステルス状態で『宇宙イソギンチャク』が出現っ! 宇宙イソギンチャクの触手によって捕獲された怪異は妖術を封じられ、妖力も10分の1に下げられるのだっ!!! フハフハフハァーっっ!!!」


勝ち誇るタコ鰐の姿のスズキ。


「・・なんか、課金カードゲームみたいな解説を始めたぞ?」


「ウチ、ああいうのルール覚えられた試しが無いッス」


「もががっ」


迷惑顔のヘビ子達。


「状況わかってます? 百番手形さん?」


「まったくだっ!」


タコのスズキは鰐の口から猟銃と弾薬ケースを取り出し、一瞬で装填するとタコの腕で器用に狙いを定め、触手で拘束されてヘビ子の眉間に向かって撃った。


ガァンッ!!!


「痛いッスっ!」


「ヘビ子っ?!」


正確に撃たれたヘビ子の眉間はやや赤くなる程度だった。


「私は『宇宙の神秘』と『食人』に目覚めるまでは腕利きの猟師だったっ! こんな硬いヘビを狩るのは初めてだっ。フハハハっ!!!」


高速装填と超精密狙撃でヘビ子の眉間を撃ち続けるタコのスズキ。


「痛タタタタタッスぅ~~~っ!!!!」


思わず半泣きになるヘビ子。


「ヘビ子ぉーーーっ!!!」


「もがぁーーっ!!」


「仲間の心配している場合ですか?」


イカのタナカが言うと同時にトラ子と水虎を拘束する触手から粘液が吹き出し、トラ子の学ランと左腕の水虎を溶かし始めた。


「もがぁーーっ?!!!」


「うわわっ???」


「このジェントルガーデンは本来拘束した対象を溶かす妖術なんですよ? まぁスズキくんにはスズキくんの『スタイル』があるからくそこは口出ししませんが。しかし、妙ですねぇ」


粘液まみれになっても学ランだけしか溶けないトラ子を不思議そうに見るイカのタナカ。


「・・どうやらその服は怪異の体毛か何かを編んだ物のようですね。そうか、この妖術の効果は対象の妖術と妖力のみ、持ち込んだ霊器の類いには効かないか。これは次からは改良の余地がありますね。それにしても」


4割方学ランを溶かされ、恥辱で顔を真っ赤にしているトラ子をうっとりと見詰めるイカのタナカ。


「私は『宇宙の真理』と『人体損壊』に目覚めるまでは溶剤工場で働いていたのですが、いいですねぇ『中々溶けない人間』っ! 貴女方を片付けたら逆にこちらから積極的に百番手形の方々をキャトルミューティレーションしてみましょうか? ふふふっ」


「くっ! やめろっ。汚ならしい触手と粘液で私の身体を蹂躙するなっ!!」


「ほほう、そうは仰いますがねぇ。既に、貴女の白雪のごときプディング姉妹とビューティーキャニオンが見えてしまいそうですねぇ? ふふふふっ」


学ランの下に直に着ていた下着まで溶かされ掛かり悶えるトラ子。


「やめろーっ!! 意志疎通さえ困難な異常極まりない汚らわしい男が鑑賞しながらっ、よく見れば不快な突起物が多数あり、脈打つ生温かい触手で私を力ずくで拘束しっ、ほのかに生臭く刺激臭さえ漂わせる濃厚かつ大量の粘液でっ、私の清浄な選ばれし女以外は一切触れることの許されない身体を隅々まで執拗に蹂躙するのをやめろぉーーーっ!!!!!」


「ほほう、ほほうですね」


「や、め・・」


「ほほう?」


「はぅっ?! それはっ」


「ほほ



「「「いい加減にしろッスっ!!!」」」



連射で額から流血しつつ、ツッコまずにいられなかったヘビ子。なんとなく手を止めざるを得ないタコのスズキ。


「トラ子っ! 何ちょっと『成立してる感じ』になってるッスかっ。百合はどうしたんッスかっ?!」


「いや・・だから、『百合なのに』という『フック』が以外と利いてしまって」


「『 痴百合(ちゆり)』ッスかっ!」


「痴百合っ?! それは語弊があるっ」


「水虎溶けてるんッスよっ?」


「えっ? あ! 水虎ぉーっ!!」


拘束されて実体化した状態で半ばドロドロにされて昏倒していた水虎。


「・・おふざけは」


「ッスっ!」


「っ!!」


イカのタナカが妖力を高め、呼応してタコのスズキも妖力を高めた。


「そろそろ終わりでよろしいかな?」


「中々楽しめたぞっ!」


トラ子と水虎を拘束する触手が異様に膨らみ内部の粘液が今にも噴き出しそうになり、タコのスズキが構えた猟銃と一体化して銃自体を怪異化させた。


「溶けて宇宙に還って下さい」


「怪異も宇宙食に加工してみようっ! フハハハっ!!!」


スズキとタナカは(とど)めの一撃を放とうとした、その時、


「ニョロ」


ヘビ子の呟きと共にヘビ子を中心に凄まじい妖力を帯びた無数の蛇が爆発的に乱舞し、ヘビ子達を拘束していた全ての触手と宇宙イソギンチャクとタコのスズキの銃身を引き裂いた。


「ぎゃっ?!!」


「なんですとっ??!!!」


鞭の様に周囲を飛び交い続ける無数の蛇達の中心に、全身を爬虫類化して無数の蛇の髪を持ち、額に第三の瞳を持つヘビ子がいた。


「三つ目っ?!」


「八巻きの?!」


額の眼で睨まれた瞬間、タコのスズキとイカのタナカは見えざるウワバミ達の大口で全身と胸部の鰐をズタズタに喰われ、絶命させられた。


「誰が八巻きッスかっ! 三つ目の怪異なんて珍しくないッスっ」


ムッとしている『蛇体化(じゃたいか)』したヘビ子。


「変身して強くなれるなら早くすればいい」


トラ子は学ランの上着だけ復元させて、裸身の上から着込む格好を取り、袖を捲った溶けかかった水虎の左腕には宙に発生させた水の渦から取り出した『3等品・若水(わかみず)』の瓶を取り出して振り掛け、再生させだした。


「コレ、お腹凄く空くし、好きじゃないッス。それに変な術掛けられてすぐに変化できなかったッス」


徐々に元の姿に戻ってゆくヘビ子。早速腹が鳴り、うっ、と身を屈めるヘビ子。


「あーっ、死ぬかと思ったぜっ!」


水虎も復活した。と、スズキとタナカの死骸から2つの光が浮き上がり、合わさって強く発光し、小さな光るデフォルメされたUFOとも楽器のシンバルとも知れない怪異、そうはちぼんが姿を表した。


「最悪だったよっ! オェーッッッ!!」


いきなりシンバルみたいな部位を開いて嘔吐する、そうはちぼん。よく見るとシンバル部位の上辺に目が2つと鼻の穴らしき物も2つあった。


「ボクっ、こんな酷いヤツらと契約させらたの200年ぶりくらいだよっ!」


怒り心頭のそうはちぼん。


「でも、ウチ達がもうちょい徳が高かったらコイツらもいい感じに改心させられたかも? ッスけど・・」


やや気まずそうに結晶化した灰のようになって塵と消えてゆくスズキとタナカの死骸を見詰めるヘビ子。


「いいって! いいって! 人間だった頃から極悪だったしっ。それより、今ちょっとヤバい状況だからっ」


「ニョロ?」


「何がだ?」


「おうっ?」


目の前にいるのもそうはちぼんであるはずでったが、ヘビ子達が乗っている(・・・・・)巨大そうはちぼんが、突然揺れだし、壁や床や天井にヒビが入り始めた。


「っ?!」


「この『UFO風のそうはちぼん』、殆んどあの2人の妖術で造ってたんだ。ボクにはここまでデカいの造るパワー無いんだよっ」


「墜ちるのかっ?!」


「あ、でもウチ、『大きい蛇』の姿なら飛べるッス。皆を穴にしまって」


「無理」


「ニョっ?」


「今飛んでるの、宇宙なんだ」


宙に外の画像を映す、そうはちぼん。『青い地球』が見えた。


「えーっ??!!!!」


絶叫するヘビ子達。そう、ヒビ割れつつある巨大そうはちぼんUFOは地球の衛星軌道上付近を漂っていた。


「大気圏を突破するパワーが足りないよ。若水、あとどれくらいある?」


「私はさっきので最後だっ」


「ウチ、2等のヤツが1本だけ・・お握りなら3つあるけど」


穴から『2等品・若水』取り出し、ボディバッグからは特大お握りを3つ取り出すヘビ子。


「お握りは君が食べちゃって。若水がどうしよう? ボクかウワバミの君が使ってどうにか皆を連れて地球に帰るしかないと思うんだけど」


「白被りは呼べないのか?」


「トラ子無理だ。白被りは日本の中しか形を保てないし、喚べないぜ?」


「スケールの小さいヤツだ」


「酷ぇこと言ってる」


ヘビ子達は思案したが、話している内に乗っているUFO風そうはちぼんの崩壊が進み、悠長に話してられなくなった。


「よーしっ! これっきゃないッスっ!!」


ヘビ子はお握りを3つ丸飲みするように食べ切り、続けて2等の若水を一気飲みして、力を高めた。


「ふぉおおおーーーーっ!!!!!」


「大丈夫か? そんな飲み干すような物じゃないと思うのだが・・」


「やるっきゃッス!!」


ヘビ子は穴の中にトラ子と水虎、そうはちぼん本体をしまうと、黄金の三つ目の大蛇の姿に変化して浮き上がった。


「皆、よろしくッス!」


ヘビ子が呼び掛けると逆巻く水と光の膜が大蛇化ヘビ子を覆った。


「いざ地球ッスっ!!!」


ヘビ子は木っ端微塵に崩壊して消えゆく巨大そうはちぼん型UFOから飛び出し、地球の大気圏に突入した。



バーベキュー大会は後片付けの段になっていた。許可を取ったとはいえ大学内なのでしっかりやる必要があった。


「お、流れ星だ」


軍手を嵌めてコンロを片付けていたカタメ子はプラネタリウムの方に落ちた流れ星を目に止めていた。


「何願いました?」


小柄な身体に匹敵するクーラーボックスを1人で運んで周囲をヒヤヒヤさせていたメ子。


「取り敢えず世界平和と、鰐全部死ねと、魔円めちゃ稼がせろと」


「欲張りですねぇ」


「総取りだよ。ふふん」


「お~」


「カタメ子ちゃんっ、メ子ちゃんっ、片付けたら花火やろうっ!」


呼ばれた2人。


「まだ遊ぶのかっ?」


「大学生、ハンパ無いですねぇ」


2人は花火に参加する為、いそいそと後片付けに励んだ。



・・ヘビ子はプラネタリウム駐車場に小さめのクレーターを作りつつ、どうにか生還していた。

大蛇化の変化を解き、あちこち焦げて髪もパンチパーマのようになってダウンしている。その側に鈴の音と共に白被りが現れ、周囲に小鬼を放って現状回復をさせつつ、ヘビ子に『1等品・若水』を振り掛けて復活させた。


「ぷはぁっ!」


「お疲れさん。酷い目にあったね」


「・・ッスよ」


ヘビ子を穴をいくつも出して、救出した眠る人間達とトラ子と水虎、そうはちぼんを解放した。


「後処理はこっちでしよう。そうはちぼん、久し振り。契約者はまた探そう。トラ子は逮捕される前に服装をなんとかするといい」


一通り片が付いた流れの中で、ふと思い出したヘビ子は穴からヘビフォンを取り出し、カタメ子に電話を掛けてみた。


「あっ、カタメ子っ! 何してるんッスかっ? 何っ、コスプレダンス? バーベキュー?? 花火???」


ヘビ子は髪を蛇化させて怒髪天した。


「ふざけるなッスぅーーーっっ!!!!」


絶叫が満点の星空にこだました。



その様子を遥か離れた送電鉄塔の天辺で、背広を着た鰐人間が双眼鏡で見ていた。


「あちゃ~っ、宇宙から還って来ちゃったかぁ」


「百番手形の始末する優先順位を変えましょうか?」


影が集まり、側の電線にドレスを着た鰐人間が立っていた。


「回りくどいっ! 早く御山に攻めればよいっ!!!」


鉄塔の根元の闇から巨大鰐が半身と長過ぎる尾の出した。


「暫くは予定通りいこう。主の他の兄弟姉妹の皆様の動きも見ないとね」


「どうして同胞(はらから)同士で毎回(・・)協力できないのでしょうねぇ」


「面倒なことだっ!!」


鰐人間達は闇の暗がりの中に消えていった。

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