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094 新八大将の実力

 タダシ達が魔王城突入の準備を整えていた頃、ポーラ王国での魔王軍の陣形をなんとか整えた八大将ゲンゴは兵を前進させはじめていた。


 人間軍側が有利な状態なので本来なら魔王軍側は慎重に仕掛けるべきなのだろうが、


 「攻めよ!力押しでかまわん!人間軍を粉砕するのだ!進め、進めぇ!」


 と景気よく突撃指示を飛ばしている。


 本人としては有利な陣地を人間軍に取られたとはいえ、個としては数も質も魔王軍の方が上なのだから正面突破で十分だと思っている。いや、思い込もうとしている。


 とにかくこの戦術オタクは相手に好地を取られたという自分の致命的なミスを認めたくないようだ。


 もっとも、魔王軍の攻城兵器は使用する前にすでになくなってしまっていたので兵で攻めるしか手がないのも事実なのだ。


 戦場予定地の地形を入念に下調べしていたエイサイが転移魔法を使って攻城兵器を焼き払うという奇襲を成功させたせいなのだが、この時も「ふっ、ふん!余計な荷物を処分してくれたようだな!」と強がりにもならない強がりを言っていたものだ。


 ちょっと口端がひくひくはしていたが。


 そして何の策もなく正面突破を仕掛けた魔王軍が蹴散らされている(当たり前である)のを見て少し涙目になり、


 「お前たち、何をぼーっとしてるんだ!早く参戦しないか!」


 と他の八大将に当たり散らしはじめている。


 「いや、お前が『俺が司令官だから指示するまで動くな』って…なあ?」と他の三人は困惑しながら顔を見合わせているが、


 「指示しないと動けないのか?全くこれだから指示待ち世代は…」


 自分も同じ世代であり、自分が指示したから留まっていた三人に理不尽な事を言い始める。


 「わかったよ、行ってくればいいんだろ」


 ヒステリーを起こしているゲンゴにこれ以上関わりたくないとばかりにに三人の異世界人は出撃するのだった。


                        *


 魔王軍との戦いは無意味に突撃してくるモンスター兵を集団戦法で相手をする事で初めは人間軍が押していたのだが、八大将三人が参戦したことで戦場の潮目はかわりつつあった。


 「た、大量のゴーレムが出現しました!信じられない数です!」


 伝令の言葉を待つまでもなくエイサイたちの位置からはその様子が見えている。


 ちょうど魔王軍と人間軍が交わり始めた場所に30体近いゴーレムが出現している。地面から急に生まれてきたそれは徐々に数を増やしている。


 「…リキマルだな。ジュウベイ頼めるかな?」


 「わかったよ。八大将の中でもこいつの相手だけは僕って決まってたもんね」


 ゴーレムに対しては圧倒的に有利な能力を持つジュウベイがリキマルを担当する事は前から告げられていたのでジュウベイはすぐに転移魔法で戦場に向かっている。


 新八大将の中で特殊能力が判明しているのは見た目ヤンキーのリキマルだけだったが、それは大量のゴーレムを同時に生み出せるというものだ。


 この『ゴーレムを生み出す』がリキマルの特殊能力であるというのはあくまでエイサイの推測なのだが、通常のゴーレムは一体作るだけでも普通の魔法使いなら半日がかりになるので特殊能力で間違いないだろう。


 要は数の暴力を体現した能力なのだが、リキマルにとっては『俺たちはダチなんだよ!』と集団で相手を倒す戦法フクロともいうは元の世界でもよくやっていたので慣れた戦い方なのだ。


 この能力からわかるようにリキマルはどちらかと言えば後衛タイプだ。


 見た目や言動からはいかにも前衛で戦いそうな雰囲気をかもし出してリキマルだが実際はあまり接近戦は得意ではない。つまりゴーレムすら排除すればジュウベイでも十分戦える相手なのだだ。

 

 ちなみに他の三人は特殊能力を知ることはできなかったが、魔王軍で戦闘訓練をしていた時の印象では、軍事オタクのゲンゴは後衛タイプで、ナルシストのゴンパチは前衛タイプ、そして常に根拠のない自信であふれているサブロウは万能型といったところがエイサイの見立てだ。


 (まあ、そう言っても全員、総合的な戦闘力は八大将としては並み程度なんだよな。戦闘バカのゴウユウなんかと比べると個人戦力としての脅威はかなり低い。まあ特殊能力が不明な点は油断はできないけど)


 エイサイが思っているように特殊能力がわかっているだけにリキマルはまだ対処がしやすい相手なのだ。


 (さて、次はどうするか)と考えていたエイサイの肩をカノンがポンと叩く。


 「私もそろそろ行くわ。左翼が少し押され始めてる。たぶん、そっちにも八大将が出たんでしょうね」


 そう言ってカノンが走り出していくと、


 「では、我々は中央で備えましょう。どうも敵は八大将を分散させて攻めている様子。恐らく次は中央にくるでしょうし、違っていても中央にいたらどちらにも駆け付けやすいですからな」


 イシンもミーシャに目礼するとポーラ王国五人衆を引き連れていく。


 このカノンたちの行動は一見、自分勝手にも見えるが、もともとカノンやイシンといった戦況がある程度見える者には独自の判断で動いてよいと許可を与えてある。


 そんな中我慢できなくなったのか今後はアデリーが騎乗する。


 「俺も出る事にしましょう。せっかく援軍に来たのに指をくわえているわけにはいきませんからね」


 出撃しようとするのでミーシャは慌てて止めに入る。


 「いえ、あなたはここで備えとして残って頂いて…」


 「皆まで言わせませんよ。ミーシャ姫には悪いですが俺はじっとしているのは苦手なんです。『剣聖殿下』の実力をお見せしましょう」


 自信満々に言うアデリーに(困りましたね)とミーシャは思う。アデリーの戦闘能力に不安があるわけではないが一国の王子なのでやはり身の安全も考えてもらわなくてはいけないのだ。


 「ここの守りはあなたと勇者がいれば十分でしょう。大丈夫です。俺は部下を連れて行くし、引き際はわきまえてますよ」


 カッコつけてウインクするとアデリーは配下を引き連れて馬を走らせていく。


 「大丈夫でしょうか?」


 不安そうにその後姿を見送るミーシャに、


 「まあ、大丈夫だろう。あいつの噂はジョウから聞いていたけどあれでなかなか慎重な奴らしいぞ。『臆病ではなくて慎重な人間だわ。その上、実力もあるし困った王子様よ』って言ってたからな。人間なんてどうでもいいと思っているジョウがここまで言うのは珍しいよ」


 エイサイは元の同僚の言葉を添えながら励ましたのものだが、ここにタダシがいたら、


 〔あいつ、フラグ立ててんなあ…〕


 と不穏な()()を出してシリアスな雰囲気をぶち壊していたのは想像に難くないのだった。

 ちょっと短いので次回は3月13日水曜日に更新予定です。その次は16日土曜日に更新します。

 だいぶ終わりが近づいてきましたがブックマークが増えると励みになります。登録して下さった方ありがとうございます。


 次回は095 年配者 です

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