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087 振り分け


 エイサイはセイジュウロウに化けて魔王軍の動向を探り続けていた。


 魔王軍の情報を得るだけなら新八大将であるセイジュウロウ自身に頼めば話は早いようだが、仲間に引き入れたとはいえセイジュウロウには情報収集にあたらせるほどの信用がまだないのだ。


(これが勇者だったら嘘をついていたらすぐにわかるから信用できるんだが…。いや、ダメだな。あれほどスパイに向いていない奴はいないか)


 なにしろこの勇者がスパイ活動なんかしようものなら、〔ゴク秘情報ゲット!〕とか〔まさかこんな事になっていたとは…これは早く帰ってみんなに知らせないと!〕とかいろいろ差し障り過ぎる事が頭上に出てしまう事だろう。


 (まあ、僕以上の適役はいないからな)


 情報収集をするのは危険も伴うが、エイサイはそのスリルを楽しんでいるようなところがある。


 冷静に黙々と任務を遂行するスパイもいるが、エイサイはそういうタイプではない。どんな時でもスリルを楽しめる余裕があるのでかえってそれが堂々とした態度に繋がっている。


 結果として、エイサイには並みの人間なら当然あるはずの敵地に潜入した緊張感からくる不審な挙動が全くない。


 その上元八大将なので魔王軍の内情や魔王城の構造には熟知しているのでスパイ活動と言っても元々知っている自分の庭を歩いているようなものなのだった。


                       *



 ポーラ王国の王宮には重要な会議をする一室がある。


 最近はもっぱら魔王軍に対する戦略を話し合うために使われているが、今日は「緊急事態だ」とエイサイによってポーラ王国の主要な人物がそこに集められていた。


 全員が揃っていることを確認すると、エイサイは話し始める。


 「先日、魔王軍の幹部会議で新八大将たちを主力とした大部隊がポーラ王国に侵攻する事が決定した。もちろん勇者タダシ抹殺がその目的だ」


 魔王軍がタダシを狙っている事は皆知っていた。ついに来た知らせに皆が息をのむ中、「十日後だ」と言い、さらに全員の顔色が変わったところでエイサイは続ける。


 「僕はこの情報を逆手にとって魔王を討ち取る作戦を提案したい。具体的にはシンエイ兄さんから話してもらおうと思う」


 エイサイの後をひきついでシンエイが作戦を説明する。エイサイは事前に今回の事をシンエイと話あっていたようだ。


 「魔王軍の主力が動くとなれば魔王城が手薄になるだろう。だからあえて魔王軍の主力をポーラ王国で引きつけておいて、魔王城に少数精鋭で忍び込んで魔王を直接叩く。どうやら今回の侵攻には魔王は同行しないみたいだからな。リスクは高いと思うが、魔王を倒す千載一遇のチャンスだと思う」


 シンエイの提案にさっそく大臣たちが異論を唱える。


 「魔王軍の大部隊が来る時にこちらの戦力をわけるのか?王国の守りが不十分になってしまうではないか」

 

 「確かに。まずは王国に戦力を集中して迎え撃つべきなのでは」


 そう言いながらチラチラとタダシやカノンの方を見ている。強力な戦力である者たちが抜ける事に不安を抱いているのだ。


 (まあ、当然そういう反応をするよな)


 さてこいつらどう説得しようとシンエイが考えていると、ミーシャが、


 「確かに危険はありますが、このような好機を逃すわけにはいきません。シンエイの作戦を採用します」


 保身に走る大臣たちを鶴の一声で黙らせている。

 

 (大した姫さんだ。役者が違うな)とシンエイは密かに感心して話を続ける。


 「問題は誰が王都に残って、誰が魔王討伐に向かうかだな」


 この戦力の振り分けは大事だ。魔王討伐の者が少なければ魔王を倒しきれないし、王都の守りが薄ければ魔王討伐に成功しても帰る場所がなくなるだろう。


 「まず俺は魔王の特殊能力を封じる役目があるから当然魔王討伐組になる」


 これは間違いないだろう。今回の魔王討伐はシンエイの特殊能力が前提になっている。


 「シンエイ兄さんが魔王の特殊能力を解析する時間稼ぎをする必要があるからやはり勇者は必要だろうね」


 エイサイは単純に戦闘力だけでなくタダシの()()が魔王の気を引くのに役立つと考えているのだ。


 「言われなくてもそのつもりだ。魔王と戦うのは勇者の役目だ」


 キリッとした顔で言うタダシだが、


 〔よっしゃ!まあ当然だよね!ていうかここで俺が行かなかったら主人公の座が危ういからなあ〕


 頭上はいつものようにちょっと軽忽な感じが出ている。


 そんなタダシに少し気勢を削がれそうになるシンエイだが、気を取り直す。


 「首尾よく魔王の特殊能力を封じることができたら前衛は俺と勇者が担当する」


 シンエイは二人で十分だという自信があるわけではない。ただ、他の者ではレベルが違い過ぎて足手まといになると考えているのだ。 


 勇者側の戦力で自分と同レベルにあるのはカノンくらいだが、カノンはポーラ王国の守りに残しておきたいのでシンエイはあらかじめカノンには今回の作戦を説明して、ポーラ王国の守りを頼み込んでいた。こうしておけばうるさ型の大臣たちも少しは納得するだろう。


 話をスムーズに進めるためにこういう小細工をしているところがシンエイらしい。


 「あとはサポート役に強力な魔法使いも同行して欲しいところだが…」


 強力な魔法使いと言いながらミーシャを見るシンエイは(どうせこの姫は自分がついてくることを主張するんだろうなあ)と考えている。


 この勇者大好き王女が付いて来ないわけがないと思っている。ただ、魔法使いとしての実力は確かなのでそれに反対するつもりもないのだ。

 

 しかし、ミーシャの答えは意外なものだった。


 「わたくしは王都に残ります。魔王軍が攻めてくる事がわかっている以上、わたくしはこの国に残って国民を守る義務があります」


 パフィン遺跡の時はソフィーに王都を任せてタダシ達に同行したミーシャだが、今回は魔王軍がポーラ王国に侵攻してくる事が確実なので事情が違うという事だろう。


 シンエイは勝手にミーシャの行動を予想して外してしまったように見えるが事はそう単純でもなかった。


 国民を守る、と凜とした言いたかたをしているミーシャだが、実はその胸の内では、


 (本当はわたくしもついて行くって言いたーい!うう、王女って損な立場です…)


 と未練たらたらなので、どっちに転んでもおかしくなかったのだ。


 しかし、こうなると困るのは予想が外れたシンエイだ。


 「エイサイは…無理だよな?」 


 「本当なら僕も直接魔王と戦いたいところだけど、僕は八大将たちを引き付けるために完全擬態で勇者に化けるつもりなんだよ。そうなると…」


 エイサイはもう一人の候補の方を見るが、


 「あたしはあたしの勇者以外とは魔王と戦うつもりはないよ」


 ソフィーにはあっさりと断られてしまう。


 この三人は勇者サイドの魔法使いとしては飛びぬけて能力が高い。この三人を除くとなるとかなり格が落ちる。


 その後、魔法兵団長エーズやポーラ王国5人衆なかで比較的魔法の得意なイシンの名前が上がるが、どれも決め手に欠けるようだった。


 そんな中ある人物が手を上げる。


 「僕がついて行ってやるよ。女の子がいないのは寂しいけど魔法戦力が必要なら僕なら文句ないだろ」


 セイジュウロウだ。


 「お前か…」


 戦力としては申し分ないがシンエイはいまいち信用しきれていない様子を隠さない。


 しかし、タダシは賛成のようで、


 「俺はセイジュウロウさんが来てくれるなら心強いです。実力的にもこれ以上ない人選です」


 と少し褒めすぎるくらいの言葉をセイジュウロウに返している。まあ、頭上には、


 〔ホントはミーシャ姫と一緒に行きたかったけど、まあ仕方ないよね。王女だし…〕


 と相変わらず本音が出ているが。

 

 結局、魔王討伐組がタダシ、シンエイ、セイジュウロウの三人に決まりかけた時におずおずとレインが声をあげる。 


 「私も魔王討伐組に入れてください。私はこの世界の人間として、タダシ様を召喚した者たちの一人として、魔王討伐を見届ける義務があります」


 タダシ、セイジュウロウといった異世界召喚者たちと、魔族であるシンエイ。この世界の人間を守るために魔王と戦うのがこの部外者の三人だけで当事者である自分たちが一人も参加しないのは無責任だという主張らしい。


 もっともらしい正論ではあるが、レインの本音は別のところにあった。


 レインはタダシにエスケレスの最後の言葉を伝える際に嘘をついた。その嘘の代償に(自分よりも先にタダシ様を死なせない)と心の中で誓っていたのだ。そのためについて行こうとしているのだ。


 悲壮な決意をしているレインに水を差すように、


 「レイン、正直なところ君では足手まといだよ」


 シンエイは言葉を濁さずに事実を率直に伝えている。下手に回りくどい言い方をするよりもこうすればあきらめるだろうと思っている。


 しかし、レインは首を振る。


 「わかっています。ですがついて行きます」


 断られても付いて行くという一歩も引かない態度を崩さないレインに今度はタダシが話しかける。


 「レイン、俺も君にはポーラ王国に残っていてもらいたいんだ」


 〔う~ん、まあシンエイの言う通り足手まといだよなあ。この世界の人間にしてはかなり強い方なんだけど〕


 普段ならタダシの言う事には逆らわないレインだがやはり首を振る。


 その決意の顔からは何が何でもついて行くと思いつめているのがわかる。 


 ただならぬ様子のレインに、今度はミーシャがタダシ達に口添えをする。


 「タダシ様、レインの同行をお許しください。レインが言ったように私たちの世界の人間として魔王と対峙する者がいるべきでしょう。いざとなったら見捨てて頂いても構いません。…レインもそれでよいですね?」


 ミーシャの言葉にレインも黙ってうなずいている。


 これ以上はタダシも何も言えなかったが、


 〔見捨てろって言われてもなあ…。まあ、実際かばう余裕はないかもしれないけど〕


 と考えいる事は筒抜けになっている。


 「まあ、どっちにいても命懸けになるのは確かだよ。それなら一人くらいは人間が魔王討伐組に入るのもいいだろう」


 そう言いながらもエイサイはレインの必死な姿に思う事があったのか、


 (…人間側も必死だな。僕はあいつのところに行ってみるかな。正直、可能性は低いけどやってみる価値はあるだろう)


 ある人物を訪ねる事を決意するのだった。

次回は 088 訪問 です。

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