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08 試練のほこら・勇者


 「では行ってきます!」


 ソフィーに認められたタダシは精悍な態度で試練のほこらに入っていくがその後姿には〔いきなり一人ダンジョンかあ。大丈夫かなあ…〕と不安が頭上に出てしまっている。


 「タダシ様、頑張ってください!」


 そんなタダシにレインはせめて励ましの言葉をかけるのだが、〔頑張れって言うなら付いてきて欲しいよなあ。まあ、勇者が一人で入らないといけない事になっているらしいから一人で行くしかないんだけどさあ・・・〕その背中には愚痴が垂れ流しになっていた。


                        *


 〔中は意外と明るいんだな〕


 ほこらの中に入ったタダシの頭上には見る者がいなくても相変わらず()()が出ていた。


 仮にこのほこらの中が暗くても辺りを照らす魔法を使えるタダシには問題はない。勇者であるタダシは全ての魔法を使う事できるのだ。


 もっとも全ての魔法を使えると言ってもそれはその素質があるだけで、レインとの訓練期間ではその十分の一も実際には使っていない。


 〔よく考えたらここまでの道のりでも敵は現れなかったし、このほこらが初めての実戦になるのか〕


 そう思ったときにタダシは思わず足を止める。


 〔だ、大丈夫かなあ・・・〕


 レインには今まで召喚された勇者と比べても(真面目に戦闘訓練をしたので)十分強くなったと言われていたが、一度も実戦をしないで一人にされると不安になるものだ。


 〔まあでも最初のダンジョンだし。そんな危ない事はないか。そういうもんだし〕


 基本的に楽観的なタダシはすぐに気持ちを切り替えようとするが、


 〔待てよ・・・。でもここは『試練のほこら』だよな。『試練』ってついてるからなあ〕

 

 とまたしてもマイナス思考になっていく。


 洞窟の中を一人で進んでいると人間余計な事を考えてしまうものらしい。

 

 そんな風に考えながらもタダシは再び黙々と歩きはじめる。


 しかし、何も起こらない。


 とりあえず少し早く歩いてみる。だが、何も変わらない。進むスピードは速くなったはずだが全く終わりが見えないのでどこまで進んだのかわからない。


 なんだかんだと真面目なタダシはひたすら歩き続けるが頭上の文字はだんだんと意味のないものになっていく。


〔元の世界に帰れるらしいけど、その時って元の時間に帰れるのかな?〕


〔犬派と猫派ってときどき聞かれるけどあれってなんの意味があるんだろうか。正直どっちもかわいいんだが〕


〔唐揚げ食べたい〕

 

 最後の方にはかなりどうでもいい事を考えていたが、ついに限界が来る。


 「いったいどこまで続くんだよ!ここはー!」


 体力はまだ大丈夫だったが永遠とも思える一本道に精神的に追い詰めれてタダシは思わず声に出して叫んでしまう。


 『半日か。意外と頑張ったな』


 その声の方を見るといつの間にか半透明の男が現れている。


 「ゆ、幽霊?」〔ついに実戦か!でも、最初が幽霊?〕


 『いや、私は勇者の思念だ。やがて魔王が復活した際に現れるであろう次代の勇者のために生命エネルギーの一部を切り離して思念として残したのだ・・・』


 勇者の思念?は説明するが、


 『なーんて、堅苦しい挨拶はこれくらいしておこう。元々俺はそんなキャラじゃないんだ』


 勇者の思念はすぐに軽い調子になっている。


 『しかし、あいつも面白い奴を選んだなあ』  

 

 勇者の思念はタダシの頭上を見ながらニヤニヤしているが、タダシからしたら顔を見られてニヤニヤされているように思える。どうやらタダシの()()は思念体にもしっかり見えるものらしい。 


 〔この場合の面白いって悪い意味じゃないんだろうけど、なんかいやだなあ〕タダシの頭上には困惑が浮かんでいるが勇者の思念は構わず続ける。


  『あっ、あいつってここの管理人のソフィーの事な。ソフィーは元気だったか?元々俺のパーティーにいたエルフなんだがいい女だったろう?』


 勇者は勇者のほこらの管理人の名前を懐かしそう出してくる。


 「ええ、まあ・・・」


 歯切れの悪い答え方をするタダシの頭上には〔完全におばあちゃんなんだよなあ・・・〕という文字と先ほど出会った老婆の姿が浮かんでいる。


 勇者の思念はそれを見て少し怯むが、すぐに笑顔になる。


『ここに来てくれたのが君で良かったよ』


 考えていることが筒抜けになるタダシだからこそ現在のソフィーの姿を見ることができた事を言っているが、タダシにはその意味がわからなかった。


 困惑しきりのタダシだったが勇者の思念は老婆になっても自分との約束を守ってくれているかつての仲間に(ソフィーありがとう・・・)と静かに感謝する。


 「それで試練ってどんなものなんですか?」


〔早く試練を済ませて帰らないとレインもエスケレスさんも心配しているだろうな〕


 わけがわからないながらもタダシが早く試練を受けようとすると勇者の思念は意外そうな顔をする。


 (何もない所をひたすら歩き続けてここに来るのが試練の一つだったんだけど、それは試練だと感じてないんだな、彼は)


 召喚された勇者にとってその膨大な力を使って、派手な事をして力をひけらかすのは簡単だが、力があるだけに地道に物事すすめる事は苦手な者が多い。だが。その地道さこそが本来勇者には必要なのだ。

  

 『試練は色々考えていたんだけど、君はもういいよ。勇者として認めるよ』


 (君の見せてくれたソフィーの姿はおばあさんだったけど、いつものいい顔をしていたからね。あの表情のソフィーを自然と思い浮かべられるだけで君という人間がよくわかるよ)


 美少女のエルフならいざしらず、会ったばかりの老婆に対してそういう反応が素直にできる。タダシをこれ以上試す必要がないと勇者の思念は判断したのだ。


 もっともその勇者の思念が判断した『ソフィーのいつものいい顔』はエスケレスとかけ合いをしていた時のちょっと人の悪い笑顔だったのだが・・・。


 「もういいんですか?」


 〔・・・本当に試練を考えてたのかな?なんか先代は適当な感じがするんだよなあ〕タダシは失礼な事を考えていたのだった。

次回は09 試練のほこら・証 です。土曜深夜更新予定です。

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[良い点] 世界観が面白く、現実味があって馴染みやすいです! 異世界の住民や王やらは、頭の悪いキャラとして書かれる事が多いですが、この作品の異世界では、普通に空気読めて、賢く、親しみやすかったです! …
[良い点] 恐ろしく勇者向きな人柄とギフト(?) [気になる点] でも戦うには向いてないな [一言] でもでもおかしな独り言を言わせずに内心描写はしやすいな
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