085 タダシの能力
あからさまに顔をしかめているミーシャたち。そこにとりなすようにエイサイが口を挟んでくる。
「まあ、不快なのはわかるがそれと仲間にするかは別問題だろう。役に立つと思うぞ」
どうやらエイサイははじめからセイジュウロウをタダシ達の仲間に引き入れるつもりでここに連れて来たらしい。もっとも魔導縄でグルグル巻きにされているその見た目は仲間を連れて来たというよりは完全に捕えられた大罪人なのだが。
「結構です」
真顔で即答するミーシャ。まるで取り付く島もないがエイサイはあきらめない。
「こいつは特殊能力は役に立たないし、この体型だから肉弾戦はあまり得意じゃないが、仮にも八大将だ。魔法においては僕と同レベルくらいだぞ。戦力としては悪くないんだ。少しくらいの欠点は我慢しろよ、強いんだから」
「強いんだから」に力を込めて言うエイサイに続いて、
「そうだな。俺も検討してもいいと思うぞ。好き嫌いではなく、もっと大きな視点で判断した方がいいだろう」
シンエイもそれを後押しする。
この二人は戦力優先でその人間の経歴にはこだわりがない。何しろ自分たち自身が魔族と元八大将なのだ。まあ、ミーシャたちと違って実害を受けていないからという事もあるかもしれないが。
そんな無責任な言動だが、ミーシャは少し考えると、
「タダシ様はどう思われますか?」
あれでセイジュウロウを仲間にする事にすでに賛意を示していたタダシにミーシャはきいている。本当はタダシにきくまでもなく仲間にしたくないのだが、この王女は若いがポーラ王国の軍事を担当してきただけあって、少し冷静になれば私情を抑える事ができていた。
「ミーシャ姫たちが不快に思うのもわかりますが、敵には八大将が増えて戦力が増強されています。こちらも戦力を増やしておく事に越したことはないでしょう。まあ、この人が信じられればの話ですが」
〔仲間にしてもいいかなあ。たぶん、この人は異世界に来てちょっと調子に乗っちゃっただけで根は悪い人じゃないようだし。魔族に騙されてたって話も自分の能力で確認して納得してるみたいだから筋は通ってるよな〕
異世界から来たタダシの見解に、ミーシャは眉間にしわを寄せながらも決断する。
「…わかりました。とりあえず元の世界に送還するのは延期します。仲間にするかは今後の様子を見て決める事にします」
ミーシャは不快な気持ちを必死で抑えながら答えている。なんだかんだ言ってもミーシャはこの中では一番大局を見て判断している。タダシの言うように八大将クラスの戦力が増強できる機会などそうそうない事がわかっているのだ。
そんなミーシャの己を捨てて全体に奉仕する苦しい胸の内を知らないで、タダシは個人的な発言をし始める。
「ところで…シンエイの能力を使ったら俺の特殊能力も解析できるのか?」
タダシの発言に皆、『あっ…』という表情になる。確かに特殊能力を解析する事ができる能力なら『不明』ということなっているタダシの特殊能力もわかるのは道理だ。
〔あれ?なんか俺そんな変な事言ったかな?みんな顔が強張っているんだけど…〕
タダシは目だけ動かして皆の顔色が変わったことを確認している。
ちょっと気まずい空気になったの感じ取ったタダシは「ほら、俺の能力がわかると戦力増強になるだろう?」とそれらしい顔でそれらしい理由をつけ足しているが、〔ついに俺の能力がわかる!どんな能力なんだろう。楽しみだなあ…わくわく〕とその能力は解析するまでもなく頭上に丸見えになっている。
これはまずい事になった、と全員がシンエイの方を見るのだが、当のシンエイは意外と平気な顔だ。自分の能力を明かしてしまえばタダシがこう言い出す事は予想できていたのだ。
「もちろん解析できる。だが、解析はしないほうがいいだろう」
「なんでだよ!」
思わずいつもは言わない強い言葉でツッコむタダシだが、諭すようにシンエイは語り掛ける。
「特殊能力は自分で見つけるものだ。少なくとも真の勇者ならそうするべきだ」
「それは…」
珍しく真面目な顔で言うシンエイに口ごもったタダシはそれ以上は何も言えないが、
〔いやいやいや、そういうのいいから!教えてくれたらいいじゃん!真の勇者って何?俺、けっこう頑張ってますけど!そんな意地悪しないで教えてくれたらいいのに!〕
あれでかなり雄弁に主張している。それを見かねたタダシ大好き王女が、
「わたくしはタダシ様は真の勇者だと思いますけど」
と余計な事を言い出したので、(なんでここで勇者の肩を持つんだよ!こんな能力教えれるわけねーのはお前も知ってるだろ!)とシンエイは舌打ちしながら、用意していた最後の切り札を出す。
「能力が判明することが発動条件の能力だったら、下手に発動したら困るかもしれないだろ」
「発動して困る特殊能力能力なんてあるのか?」
〔そんなのないと思うけどなあ…もしかして本当は解析できないんじゃないの?〕
疑いの目を向け始めるタダシに「はあ~」とシンエイはわざとらしくため息をつく。
「例えばテレパシーのような能力で、しかも自分の考えていることが相手に勝手に伝わる能力だったらどうする?それが発動したらどうなる?しかも自動発動タイプだったら発動後は自分の意思で止められないんだぞ?」
(あっ、それを言っちゃうんだ…)と皆が思ったようになかなか大胆な事を言うシンエイだが、タダシには効果てきめんだったようだ。
「それは…」
〔う…、それは確かにキツイ。っていうかそんな能力だったらこの上ないはずかしめだろ…。いやー、それはマズイ。マジでマズイ。考えているあれやこれやが伝わっているなんてエグすぎるだろ…。自慢じゃないが俺はわりと本心隠して空気読んだ発言するようにしてるんだから!今だってそうだし。ついカッコつけちゃんだよなあ…〕
それは…しか言っていないのにほぼ思っている事が全て伝わっているタダシを見て特殊能力持ちのシンエイ、エイサイ、セイジュウロウ、カノン、ジュウベイの5人は『…あの能力じゃなくて良かった』と心底思っている。
「で、でも、それならシンエイの『封印』の能力で封じてもらえば…」
特殊能力を知るチャンスを逃すまいとタダシは必死に食い下がるが、
「俺の能力を説明した時も言ったが俺の能力では封印できる時間に限りがあるんだよ。最大でも1日くらいしか封印できないからな。いったんは封印してやってもいいが、結局は時間がきたら能力が発動しっぱなしになるぞ。それでもいいのか?」
念押しするシンエイの顔に〔なんかこの顔、屁理屈を言うときのエスケレスさんに似てるなあ〕とタダシは思って観念する。これまでの経験からこの顔をしている相手に言葉で勝てる事はないとわかっているのだ。
「…わかったよ。解析してくれなくていい」
と寂しそうな顔でうなだれるタダシに、
「タダシ様。タダシ様の勇者としての能力はきっとみんなの心を一つにする事です。今だってきっとみんなの気持ちは同じですよ」
励ますようにミーシャがその手を取っている。
普通に考えたら勇者してみんなをまとめている事を表した言葉なのだろうが、今のタダシの場合は文字通り(厄介な能力をもってるなあ)と全員の心を一致させているのだった。
次回は 086 振り分け です。