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083 魔王の能力

 「お前…その感じ、異世界人か?」


 自分が血を吐いた理由を言い当てた青年に興味を抱いたセイジュウロウに、


 「こちらは現在ポーラ王国の正式な勇者として認められているタダシ様です」

 

 レインが誇らしげに鼻を鳴らして答えている。


 (レインちゃんがこんなに嬉しそうに紹介するなんてそんなにすごい奴なのか?)


 それまではミーシャを初めとして女性陣ばかり見ていたので、初めてまともにタダシの顔見たセイジュウロウはあることに気づいたようだ。


 「なあ、こいつの頭の上に出てるやつって…」


 セイジュウロウが何か言いかけたのを遮るようにレインが、


 「そう言えばセイジュウロウ様はこの世界の文字を覚えているんですよね?」


 と話しかける。いまだにセイジュウロウ様と呼ぶレインにセイジュウロウはいい気分になりながら、


 「ああ。僕は天才だから三日でマスターできたな。ところで…」


 「セイジュウロウ様は天才だからわかりますよね?私の言いたい事」


 セイジュウロウに向き合ったまま、あせった顔でタダシの頭上を横目でチラチラと見ているレイン。


 「…なるほどね」

 

 (あれがあいつの特殊能力ってわけか。そしてそれをミーシャたんたちは隠したがっているのだな)


 セイジュウロウは基本的に空気は読めないが、その手の知識が豊富なので妙に察しがいい時がある。


 (隠してやってもいいけど、それはこいつがどんな奴か次第だな)


 「お前、僕の特殊能力をどう思う?」


 「どうって…俺は特殊能力にまだ目覚めてないからよくわからないけど、特殊能力があるだけ正直マシじゃないのか」


 本心を隠してカッコつけるタダシなので、たいして興味がないと受けとられかねない調子で答えているが、


 〔…この能力マジで羨ましいかも。6分の1ミーシャ姫人形は俺もちょっと欲しいし。後で『人形師』発動!ってやってみようかなあ。もしかしたら発動するかもしれない…〕


 と()()が頭上に出ているおかげで余計な誤解を生まないですんでいる。


 「お前なかなか見込みあるな」


 自分の『人形師』を気に入ってくれたのが嬉しかったのかセイジュウロウは普段、男には見せない笑顔をタダシに見せる。まあ、その笑顔もしっかり気持ち悪いのだが。


 (しかしまあ、こいつの考えを見たらミーシャたんもさぞ気持ち悪がるだろうなあ。ぐふふ)


 自分の思いを正直に話した自分の時でもあれだけ気持ち悪がられたのだ。


 このすかした奴が心の中ではそんな事を考えていると知ったらさぞミーシャも幻滅するだろうとセイジュウロウはニヤニヤしながらミーシャの方を見る。


 しかし、ミーシャは怒りもせずに恥ずかしそうに真っ赤になってうつむいているだけだ。しかもその顔は嫌がっているどころか嬉しそうに少し頬が緩んでいる。


 (おっ、おかしくないか?僕と同じ事言っているのに。いや、口に出さないで心の中で思っている方が気持ち悪いだろ!)


 主張自体は間違っていないのだが、それまでの積み重ねというものがあるのだ。


 こうなると俄然面白くないセイジュウロウは声高に、

 

 「だけどこんな何の特徴もないようなヤツが今の勇者なのか?キャラも弱いし、名前も平凡だし、気も弱そうだし、僕の方が断然いい男だし、今からでもこいつを追放して僕をこの国の勇者に戻した方がいいと思うけどね!」


 「セイジュウロウ様!?」


 なんて命知らずな…。よりにもよってミーシャの前でタダシを批判するような事を言うセイジュウロウに対してレインはハラハラしている。


 レインが恐る恐るミーシャの様子をうかがうと、意外とミーシャは静かな様子を保っている。むしろ静かすぎるほど冷厳な態度だ。そして静かに口を開く。


 「…大変貴重なご意見ですね。この際ですからまだ他にも何かご意見がありましたら伺いましょう」


 ミーシャは口調こそ丁寧だが、その様子はレインに「最後に言い残すことは」と処刑前の罪人にきいている時のミーシャを思い出させる。


 さすがに(これはまずいです)と思ったレインは、


 「姫様、召喚した者としての最低限のつとめは覚えていますよね!?ほら、エスケレスさんならこうすると姫様が仰っていた大事なことです!」


 (覚えてますよね!?)と祈るような気持ちで言うが、


 「レイン、勇者様より大事なことなんてこの世界にないのですよ?」


 うっすらと笑みを浮かべて答えるミーシャの声のトーンは真剣そのものだ。


 所詮(しょせん)ミーシャに対して強く出れないレインではらちがあかないと思ったのか、


 「いや、そこはさすがに魔王討伐が大事だろ。目的と手段が入れ替わってるぞ」


 シンエイが苦々しい顔で指摘すると、それを引き継ぐように意外な人物が話をそらしていく。


 「それにしても新八大将なんていうから強力な特殊能力でも持っているのかと思ったら、あんまり意味のない能力なんだね」


 自身が戦闘においてかなり役立つ能力を持っているジュウベイが生意気な言い方をすると、

 

 「いや、特殊能力はお前の『魔力食い』やカノンの『先見』のように直接戦闘に関わる方が実はレアなんだよ」


 エイサイはすでにジュウベイの特殊能力の情報も得ている事も披露しながら解説している。自身も直接戦闘に関わらない特殊能力だからというわけではないが、特殊能力の強弱が戦闘において絶対だとは思っていない。


 「勇者の思念も言っていたが特殊能力は本来、戦闘にそこそこ有利になる程度なんだろう。それがなくても強いから異世界から召喚するんだよ」


 (実際タダシも特殊能力は()()だけど強いからな)


 シンエイは訳知り顔で言いながら、


 「だからおかしいのは魔王の強さだ。矛盾したことを言うようだが、素であれほどの戦闘能力がある者がいるはずがないから魔王の強さは特殊能力によるものだと考えるしかない。だが、特殊能力がそれほど強力なのも本来はありえないはずだ。…エイサイ、もったいぶらないでそろそろ教えろよ。お前は魔王の特殊能力を知っているんだろう?」


 元八大将のエイサイなら魔王の能力を知っていると思っていたシンエイは何度かきいていたのだが、なかなか教えてくれなかったのだ。


 「別にもったいぶっていたわけじゃないよ。一応目星はついているけど正直、推測でしかないから言わなかったんだよ。まあでもシンエイ兄さんたちと共闘するなら話しておいた方がいいかもね」


 そう言ってエイサイは魔王の能力について語り始めるのだった。

次回は 084 シンエイの能力 です。

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