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082 人形師


 セイジュウロウが放った緑色の光はタダシ達全員の全身を包むと一瞬だけ輝きを増して、消えた。


 「なんだったんだ?今のは…」


 〔びっくりしたなあ…。でも何ともなってないようだけど…〕


 とタダシが思っているように誰一人ダメージを受けているように見えない。そもそも今のタダシなら相手に殺気があればむざむざと攻撃を受ける事はない。『勇者の兜』を使用した魔王の不意打ちにすら反応したタダシの危険察知能力は尋常ではないレベルに達しているのだ。

 

 「お前っ、何をした!」


 エイサイは自分が安全だと判断して案内してきた責任を感じているのか、セイジュウロウに詰め寄っている。


 「まだ気付かないのか?ぶふっ、足元をよく見るんだな」


 不気味な笑いを浮かべるセイジュウロウが目を細めているその視線の先にはいつの間に現れたのか三体の人形が転がっている。


 「これは…!」


 ある人物たちにそっくりな人形たちを目にして一様に驚くタダシ達。


 セイジュウロウは破顔一笑する。


 「ぶひひっ、気付いたようだな。これぞ6分の1ミーシャたん人形と、6分の1レインちゃん人形と、6分の1謎の美少女人形、だああ!」


 大興奮して「ぶひーっ」と叫んでいるセイジュウロウがよだれまで垂らしているのをミーシャたち女性陣は本気で嫌そうな顔で見ている。


 「早く手に取って愛でたい!ってあああっ手が出せないじゃないか!これをほどけよ!」


 魔導縄で縛られたままなので身動きの取れないセイジュウロウだがなんとか人形を手にしようとうごめいているが当然縄がほどけるわけもなくゴロゴロ転がっているだけだ。


 「…こいつ、一体何がしたいんだ?」


 シンエイは呆れたように言うが、タダシは真剣な顔になる。


 「いや、これまずくないか?この人形を傷つけたら本人もダメージを受けるとか、人形を動かすとその通りに本人を操ったりするんじゃないのか?そんな能力があるのを見たことがあるんだ」


 タダシの指摘に他の者たちもまじまじと人形たちを見る。


 もっとも、タダシの「見たことがある」はマンガで見ただけなのだがそんな事を知らない他の者たちは真に受けてしまっていて、特に人形を作られているミーシャ、レイン、カノンは気が気ではない。


 しかしそんなタダシたちの心配をバカにするように、わかってないなあとセイジュウロウは鼻で笑い飛ばす。


 「傷つける?操る?僕の崇高な人形にそんな余分な仕掛けなどあるわけがないだろう。僕の人形はお気に入りの場所に飾ったり、ポーズをとらせて写真を撮ったり、時には一緒に旅行に行って景色を楽しんだりする、そんな風に愛でる以外に使い道などない!それこそ人形を傷つけるなんかありえないぞ!」


 要はただ精巧な人形を一瞬で作るだけの能力らしい。


 「それなら安心だな。それにしても人騒がせな能力だな」


 まるで魂が込められているかのようにそっくりな人形たちを気味悪げに見るシンエイ。


 しかし、人形を作られた当の3人は『気味が悪い』程度ではすまないようだ。


 「くっ、なんて恐ろしい攻撃だ…」


 とカノンが苦痛に顔をゆがませれば、


 「本当に、最悪な気分です。死にたくなります」

 

 ミーシャが死人の様な青い顔で続けると、


 「…さすがにこれは気持ち悪いです」


 召喚勇者に対して終始丁寧なレインまでも遠慮がちではあるが珍しく不快感を表している。


 3人の美少女たちの態度にそれまで人形を製作した喜びにあふれていたセイジュウロウはあらかさまに動揺する。


 「なっ、なんで?そんな反応?おかしいぞー!?普通なら『一瞬でこんな精巧な人形を作れるとは…信じられん!』とか『ノータイムでこんな事できるなんてありえません、スゴイです!』とかって頬を染めて尊敬されるのが普通の反応だろー!」


 縛られたまま「なんでだー!」と苦悶するセイジュウロウにそう言えばこの人はこういう人だったとミーシャたちは思い出す。


 他の野良勇者にも言える事ではあるが、この元召喚勇者はとにかく自分の都合のいいようにこちらの反応を想像してくるのだが、それがいちいちありえないものなので全くあてはまらないのだ。


 正直、『そんなわけがない』反応ばかりをこちらに期待してくるので皆疲れてしまったものだ。


 「ポーラ王国を飛び出してから発覚したこの特殊能力『人形師』。これをミーシャたんに使うことだけを楽しみに生きてきたのに!それがこの仕打ち!ひどすぎる!」


 「…(みにく)い」


 泣きわめいているセイジュウロウをミーシャは周りの人間が引くほど冷たい顔で見下しているが、セイジュウロウ自身は嘆くのに忙しくて気付いていない。


 とりえあずセイジュウロウを止めようとシンエイが質問する。

 

 「そもそも俺たちも光を浴びたのになんで姫たちだけ人形が作られてるんだ?」


 「ふんっ、男の人形なんて作っても楽しくもなんともないからな。『人形師』は範囲指定で発動するけど、ちゃんと作る対象は選べるんだよ」


 そっぽを向きながら答えるセイジュウロウだが自分の能力について質問してくれた事がちょっと嬉しそうだ。


 今度はソフィーが疑問をぶつける。


 「なんであたしの人形は作らないんだい?あたしだって女だよ?」


 「え…いやあ、僕は若い子にしか興味ないから。まあ、エルフとかなら別だけど」


 突然口を挟んできたしわくちゃのばあさんにセイジュウロウも思わず口ごもる。


 「あたしゃエルフなんだがね」


 淡々と反論するソフィーにセイジュウロウは一瞬頭が真っ白になる。


 「え?エルフなのに…ロリババア…じゃない…?!どういう事?…まさか…そんな…そんな事が…?ぐはぁっ!」


 血を吐きながら謎のダメージを受けるセイジュウロウ。


 「え?だっ、大丈夫ですか?ソフィー様、さすがにこれはやり過ぎです!」


 「これ、あたしの所為(せい)かい?」

 

 生真面目に抗議するレインをうるさそうに見るソフィー。


 「だって血を吐いているんですよ!何か魔法をかけたんですよね?」


 どうやらレインは自分だけ人形を作られなかった腹いせにソフィーが魔法をかけたと思っているのだ。『エルフがばあさんであることにショックを受けた者が血を吐く』とは想像できないらしい。


 まあ、そんな事を想像できる者などこの世界にいるわけもない。


 「いや、これはソフィーさんは悪くない。ただ、この人は強いショックを受けすぎたんだ」


 いた。セイジュウロウと同じく召喚されし者タダシである。


 なにしろこの勇者は先ほどのセイジュウロウの『みんなの反応がおかしい!』という主張を聞きながら、


 〔う~ん、言いたいことはわからないでもない。確かに『なっ、なんでそんな事できるんだ!?』みたいな反応を期待しちゃうよね…〕


 と()()を頭上に出していたくらいだ。異世界に関してタダシはセイジュウロウと同じ文化を持ちあわせているのだ。


 妙にセイジュウロウに共感しているタダシを見て、


 (やっぱり召喚者って変なのしかいないのかねえ)


 とソフィーは自分の仲間だった勇者の顔を思い出すのだった。

次回は 083 魔王の能力 です。

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