079 フゲンの能力
『そう言えばソフィーのやつはどうしてる?ここに来たって事はソフィーが勇者の証を渡したんだろ?』
試練のほこらでの勇者の思念も気にしていたが、以前の勇者パーティにいた元賢者のエルフの事をきいてくる。
「師匠なら元気だよ。城で留守番してる」
タダシが答える前にシンエイが答えている。
『ソフィーが?留守番?大人しく?』
しかし、勇者の思念はその答えを疑問に思ったらしく聞き返している。
「少しいじわるをされましたけどね」
その時の事を思い出したのか、ミーシャが告げ口するが、
『うん、うん。そうでなくてはな。そっかー、それなら元気そうだな。よかった、よかった』
と変なところで納得している。
ミーシャにちょっかいかけているソフィーの顔を思い出したのか、タダシがソフィーの底意地の悪そうな顔を頭上に浮かべると、勇者の思念はさらに嬉しそうな顔になる。
『いやあ、いいもん見れたわ。お礼に何かしてやりたいが、欲しいものとかあるか?』
何についてのお礼なのかわからないタダシだったが、『まあ、そう言わずに何かないか』と勇者の思念がすすめてきたので頼んでみる事にする。
「欲しいものではないんですが、もしわかるなら俺の特殊能力を教えて下さい。魔族や異世界人には特殊能力があるんですよね?」
『あー、それはちょっとわからないなあ』
と平気で嘘をつく勇者の思念。タダシの特殊能力にはそういう呪いでもかかっているのか、知っていても誰もそれを教えようとはしない。
もっとも、この勇者の思念は単純に面白がって教えないだけなのだが。
〔ここでもわからなかったか~〕
肩を落とすタダシを励ますように勇者の思念は続ける。
『まあ特殊能力って言ってもピンキリだからな。あまり期待するなよ。俺の『創造』みたいに特別強力な特殊能力もあるけど、ほとんどはまあまあ有利になる程度だよ。努力と根性で戦えばどうにかなるって』
しれっと自分の能力を自慢しながら少年マンガのような事を言う勇者の思念だ。
『あとは自分の特殊能力が発現してても気づいてないパターンもあるしな』
「そんなパターンがあるんですか?」
〔もしかして俺も発現してるけど気づいてないとか!?〕
驚いたようにきくタダシに(いま、まさにその状態)と全員の思いが一致している。
勇者の思念は苦笑いして説明する。
『例えば「魔法使用時の消費魔力が100分の1になる能力」なんかは本人は気づかずに使っていたりするし、体力が自然回復する能力や傷の治りが早いなんてのもわかりにくいな。そうそう「飼い犬の言葉がわかる能力」なんてのもあったな。あれはなかなか気付かないぞ』
「俺、犬飼ってませんけど…」
『その場合は犬を飼わないと能力が発動しないな。他の犬の言葉は無理だ』
〔い、意味ねぇ…。俺の能力それじゃないだろうなあ…〕
『まあ、能力にこだわらなくても君は仲間に恵まれてるだろ。勇者パーティの半分が魔族なんて結構ズルいかんじだぞ。ソフィーの弟子は使わなかったからわからないが、あとの二人は特殊能力もかなり戦闘向きだしな。勇者パーティとしての力は相当なもんだよ』
つまりは今でも十分強いので心配いらないと言いたいらしい。
「でも魔王はとんでもなく強かったですよ。俺も一撃でやられたらしいですし」
勇者の思念のゆるい性格に流されたのかタダシの物言いに素が出てきている。
『君が一撃でやられたのか?個人でそんなに強いなんて俺の時の魔王より遥かに強いなあ』
感心するように言う勇者の思念はどこか他人事のようだ。
「魔王に関しては俺に考えがある。俺の考えが間違ってなければなんとかなるはずだ」
シンエイが口を挟んでくると、勇者の思念は嬉しそうにきいてくる。
『それが君の能力に関係してるって事かな?』
「…あんたが師匠の勇者だっていうのは納得できるよ」
シンエイはソフィーに揶揄されたときの顔になる。人をからかう事に喜びを感じるのが二人もいたんじゃあ他の仲間たちはさぞ大変だっただろうと考えている。
「貰う物はもらったし、帰るよ。帰り道は短くしてくれるんだろう?」
『そうだな。あの通路を行くといい』
勇者の思念が遺跡の通路を操作していたことを確信しているシンエイに答える勇者の思念は一本の通路を指さしている。
「ありがとうございました」
タダシは勇者の思念にお礼を言ってその通路に向かっていく。頭上にあれが出ていないので本心からなのだろう。この筒抜け勇者にはこういった礼儀正しさがある。
そんなタダシ達の背中を見送りながら、
『…そう言えば一つだけあったな。使いようによってはヤバい能力。あの能力の使い手が今の魔王軍にいて、そいつが能力を使いこなしていたらヤバいだろうな。俺の能力があればまだ対抗できるだろうが、あの勇者は能力が戦闘向きじゃないからな』
勇者の思念は嫌な事を思い出すのだった。
*
魔王軍八大将の一人、フゲンは魔王に『力の間』で拝謁していた。
「魔王様、そろそろ本腰を入れて侵略を進めて頂けなければ困ります」
八大将(すでに5人いなくなり3人になっているが)の中でもほとんど話をしない寡黙な存在で通っているフゲンがここではかなり饒舌になっている。
「まあ、そう言うな。余は遊んでいるのだ」
「遊びなどと。そのような…」
「まあ、聞け。思えば魔王軍を掌握する時が一番面白かった。敵も強かったし、余の軍もそれほど拡張していなかったからな。地道に戦力を増強し、攻めつつも、隙をつかれて攻められる事もあった。しかし魔王軍を掌握してからはゴールが見えてしまったのだ。どうあがいてもこちらの戦力を覆すことができない人間どもを殲滅するだけだろう?普通にやっていたら、先に進める楽しみがないではないか」
あくまでも遊びとして、どう楽しむかを魔王は力説する。
「だからお前たちに八大将という役割を与えて、侵攻を任せたのだ。それでも人間の国を征服するには十分なはずだったからな」
魔王はいわゆる『縛りプレイ』をしていると言いたいらしい。
「ですが、勇者タダシに対しては一度自ら戦いに行かれているではないですか」
フゲンの反論に、魔王は「わかっておらんな」と顎を撫でる。
「お前たち八大将を次々に撃破していた勇者に興味あったからな。ちょっと実力を見てやろうと思って行ったのだが…しかし、余が出た結果どうなった?勇者どころかせっかく後の楽しみに残しておいた元副魔王まで勢い余って殺してしまったではないか」
魔王にとって元副魔王ヒョウゴは大事にとっておいたデザートのような存在だったようだ。
「…わかりました。魔王様に親征して頂くのは今回はあきらめますが、私の『劇団』で集めた者たちを新たに八大将として魔王軍に迎えいれてもよろしいですか?」
「あやつらか…。仕方あるまい。八大将が減り過ぎたら格好がつかんからな」
「格好の問題ではありません。勇者タダシ一行はもはや脅威になっています。やつらを迎え撃つためには現実に戦力として八大将が足りないのです」
「ふむ、確かにあの勇者は楽しい相手だった。余が行くほどではないが、確かに八大将が3人だけでは少々荷が重いかもしれんな」
魔王とタダシの関りは魔王がその一撃で戦闘不能にしただけなのだが、魔王にはそれなりの印象が残っているようだった。
「魔王様に出て頂ければこのような事をしなくてもよいのですが…」
「くどいぞ。八大将の件はわかった。後はお前に任せる。よいようにしろ」
有無を言わせぬ魔王の言葉にフゲンは黙って引き下がるのだった。
次回は 080 新八大将 です。