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077 遺跡の主

次回は 078 勇者の盾 です。

 はじめに合流したのはシンエイ・カノン組とレイン・ジュウベイ組だった。


 シンエイたちはその圧倒的な実力から危なげなくモンスターを退けていたし、レインたちはおもにレインが前に出て戦ってジュウベイの魔力を温存し、ここぞという時はジュウベイの『魔力食い』で強敵を倒すという方法でこちらもほとんど傷ついていなかった。


 しかし、この2組が怪我を負わなかったのは単純にシンエイたちが強かったから、だけではない。


 2組とも遺跡を進むごとにモンスターとの遭遇確率が減っていき、しばらく前からモンスターと全く出くわす事がなくなっていたのですんなり先に進めていた。


 苦戦こそしないものの、様々なタイプのモンスターが入れ替わりで現れていたので手間取っていたのだが、ある時を境にこの2組の前にはモンスターが出現しなくなったのだ。


 どうしてそんな事になったのか?それはこの遺跡の主のせいであった。



                     *



 『よし、そこだ、いけ!…あ~ダメかあ』


 パフィン遺跡の主である勇者の思念は、遺跡内の好きな所を見る事ができる水晶で勇者パーティの様子を見ていた。


 この勇者の思念というのは試練の洞窟にもいた、いわゆる『勇者装備』を次世代に託した勇者が生命エネルギーの一部を切り離して思念として残したものだ。ただ、試練の洞窟にいた勇者の思念とは同じ勇者からできているものの別人?で記憶は共有していないのでタダシ達を見るのはこれが初めてだ。


 『あいつが勇者なんだろうが、いまいちパッとしないなあ…』


 『勇者の剣』と『勇者の鎧』を装備しているのでタダシが勇者だと判断しているが、ちょっと難癖を付けている。


 『ていうかなんで『勇者の剣』と『勇者の鎧』を先に揃えているんだよ。あの二つはある程度冒険してからじゃないと手に入れられない仕様にしていたから、普通は『勇者の盾』より先に入手しないはずなんだけどなあ』


 獣人たちに冒険の話をする事で出現する『勇者の鎧』と、魔族穏健派に認められないと授けられない『勇者の剣』は、それまでの冒険での相当の苦労が無ければ獣人や魔族穏健派を納得させる話ができないはずだったのだ。


 まさかほとんど冒険を始めたばかりのタダシがその特殊能力あれで納得させていたとは知らない勇者の思念は不思議がる。


 『困るよなあ。『勇者の剣』や『勇者の鎧』と違って『勇者の盾』は俺もそんなに力入れてたわけじゃないから先にその二つを手に入れられてたら、『え?この時期に手に入れたのにこの程度の性能?』っていうガッカリ防具になりかねないんだよなあ』


 と変な事を心配している。


 この勇者の思念は元々の『勇者』の性格を反映しているせいか、このように言動がやや軽い。


 救世の勇者伝説としてこの世界に語り継がれている『勇者』の性格は清廉潔白で真面目一筋、非の打ち所がないものなのだが、現実はこれだ。長い年月の間に情報がゆがんだというよりは、どうもこの『勇者』がカッコつけていたからそうなっているらしい。このあたりはタダシに似ているので、ある意味タダシは正統な後継者と言えるだろう。


 その勇者の思念は初めはそれぞれの実力を見るために各組の様子を均等にうかがいながら対応するモンスターを配置したり、遺跡の壁を操作して各組がすぐに合流しないように道を作っていた。


 こうする事で分散させた勇者パーティの実力を測り、更には苦手なタイプのモンスターを倒させて成長させるのがこの遺跡の主である勇者の思念の役目だったのだ。


 しかし、困った事にタダシ達はこの遺跡に挑むには少々強すぎた。そのため『こいつら…この遺跡の設備でこれ以上成長させるの無理じゃね?』という結論に至ったのだ。


 そんな勇者の思念はやがて様子を見るのを勇者タダシとミーシャの組に集中するようになっていた。


 勇者の思念としてはこの時代の勇者を重点的に見るのが重要だと考えているため…ではない。


 繰り返すようだがこの勇者の思念はそんな真面目な性格をしていない。


 今、この勇者の思念が一生懸命になっているのは『ピンチを利用して姫と…』というタダシの妄想を現実にする事だ。


 タダシの()()とミーシャの様子から二人の関係性を察した勇者の思念は、その関係を進めるために先輩勇者として『俺が一肌脱いでやろう』という事らしい。


 しかし、その優しさもタダシには伝わらないので(というか伝わるわけがないのだが)勇者の思念はだんだんイライラしてきていた。


 『せっかく人が親切でラッキースケベを演出してやろうとしてるのにこいつはとんだヘタレだな!』


 不意打ちが得意なモンスターや、本来なら1体で出す予定の強力なモンスターを複数でけしかけたりしているのだが、タダシは全て問題なく蹴散らしている。


 『こいつ~、少しは手を抜けよ!なんであんな妄想してるくせに、そんな真面目に敵を倒してるんだ。ちょっとよろけて「あぶないっ!」とかやって抱きしめてやれ!ラッキースケベの半分は偶然という名の故意でできてるんだよ!少しはこっちにあわせろ!ラッキースケベなめんな!』


 思うように展開が進まないからか、わけのわからない怒りを見せる勇者の思念。さらには、


 『こんな融通の効かないやつを勇者として認めるわけにはいかないな。ちゃんとラッキースケベを起こすまでは『勇者の盾』はお預けだ!』


 と完全にこの遺跡の本来の趣旨から外れた発言をし始めている。


 果たしてタダシ達は『勇者の盾』を手に入れられるのか?


 勇者タダシ、最大の試練が今始まろうとしていた。

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