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076 魔王軍幹部会議2

 タダシ達が遺跡を探索していた頃、魔王城の『千魔の間』では魔王軍最高幹部である八大将が集結していた。


 と言ってもすでに八大将のうち3人が勇者タダシ一行に倒されており、またエイサイもこの場には来ていないのでテンプレ、ゴウユウ、ジョウ、フゲンの4人しかいない。


 すでに半分になっている八大将だが、その4人も一枚岩ではなく遅れてきたテンプレに、


 「おっ、負け犬殿のご登場だな。どうだった?勇者たちは強かっただろう?」


 発言に遠慮のないゴウユウが笑顔でちゃちゃを入れている。


 「うるさい!情報が違っていたのだから仕方ないだろう。賢者がいなくなり勇者どもの戦力が低下したとの情報だったが、低下どころかむしろ増強されていたのだからな!」


 ヒステリックにわめくテンプレだが、


 「あなたが手柄を独り占めしようとして単独で動いたからでしょう?召喚勇者の中でも勇者タダシに対しては複数の八大将で当たることに決めてたじゃない。その上、ロウカイの元部下のハクガン公国派遣の部隊を使って自分の直属の部下が消耗しないようにしてるし。やることがいちいちセコイのよ」


 紅一点のジョウにも痛いところを的確につかれている。


 一方、寡黙なフゲンは特にどちらに肩入れするわけでもなく相変わらず黙っている。


 「しかし、勇者パーティに新しく入った奴らはそんなに強いのか?」


 ゴウユウが興味深そうに聞くと、テンプレは忌々しそうに答える。


 「ああ、認めたくはないが相当強い連中だ。勇者を含めて6人になっていたが、新しく加わった中でも魔法戦士の男と槍使いの女の2人は八大将級だと言っていいだろう」


 「まっ、一言に八大将と言っても八大将の中でも強さにバラツキがあるからなあ」


 さきほどから完全にあおっているようにしかみえないゴウユウだが、困ったことに悪気はないらしい。思ったことをそのまま口にしてしまうタイプなのだ。


 そういうゴウユウだという事を知っているためか、テンプレはもはや怒りもせずに勇者の話を続ける。


 「それに勇者の特殊能力は『考えていることが頭上に出る』という話だったが、私と戦っている時は一度もそんな事がなかった。あれは巧妙な偽情報かもしれん。余計な事を信じていなければ私もあれほど苦戦しなかったのだ!」


 テンプレはタダシと戦った時を思い出したんか苛立ちを隠せない様子だ。もっとも仮面をかぶっているのでその表情は見えないのだが。


 「しかし、それほどの強さの連中が揃っているとなると、魔王様を除いた個人の強者の数ではすでにこちらの数を上回っているかもしれんなあ。魔王軍全体の戦力としては人間どもの戦力をまだまだ圧倒していると思うが、個人では勇者をはじめ、なかなか粒ぞろいの様だ」


 三度の飯より戦い好きという戦闘狂のようなところがあるゴウユウだが、意外にもしっかり分析している。


 「こっちは八大将が3人も勇者タダシにやられちゃたものね。それに対してあっちは賢者が脱落しただけでしょう?その上、戦力が増強されてるなら個人同士の戦いを仕掛けるのは厳しいかもね」


 ジョウもゴウユウの意見に賛同している。少し前までは八大将に個人で対抗できる人間など存在していなかった事を考えるとこの半年で八大将を3人も倒したタダシ一行のすごさは無視できない。


 (召喚勇者の中には潜在能力的にはそれだけの力を持つものがいたけど、なぜか勝手に引退したり、自発的に追放されたりしてまともに魔族と戦う者がなかなかいなかったのよね~)


 ジョウがそんな疑問を抱いていると、

 

 「そう言えばエイサイのやつも顔を見せないよなあ」


 ゴウユウが今気づいたように言うと、さきほどから情報収集担当のエイサイに遠回しに嫌味を言っていたテンプレが反応する。


 「そもそもエイサイがもたらした情報がいい加減だったせいで私は酷い目にあったのだ。私はもともと生意気なあいつが気に入らなかったのだ。所詮人間に育てられていた中途半端な魔族だということよ。あいつはもはや八大将でないわ!」


 テンプレが蔑むように言うと、


 「あんまりいないやつの事を悪く言うなよ」


 ゴウユウが軽い口調でたしなめているが、


 「テンプレ…」


 今まで口を閉じていたフゲンが初めて口を開いた。


 「なんだ?珍しく意見があるのか?」


 口があったのかとバカにするように言うテンプレにフゲンは今度は無言で巨斧を振り下ろす!

 

 「っつ!」


 かなりのスピードの一撃だったがテンプレはかろうじてそれをかわしている。


 「おいおい、いくら気にくわなくても八大将同士の私闘は厳禁だぞ」


 (無口な奴がキレると怖いな)と呆れたようにいさめるゴウユウに、


 「こやつはもはや八大将ではない」

 

 とフゲンが不機嫌そうに答えると、

 

 「どうしてわかった?」


 ニヤニヤしながら答えるテンプレはやがてエイサイの姿になっていく。


 実はエイサイが特殊能力『完全擬態』でテンプレに化けていたのだ。


 もっともテンプレは仮面をつけているのでそんな大層な能力を使わなくても声さえマネれば入れ替わるのも難しくなかったりするのだが、それを言うのは野暮というものだ。


 フゲンがエイサイを攻撃したのはエイサイ自身が「エイサイはもはや八大将ではない」と言ったのが分かったからだろう。

 

 「…貴様の素性は魔王様とロウカイ、私とテンプレは知っていた」


 フゲンの言葉にゴウユウとジョウは何の事だと顔を見合わせるが、エイサイは何を意味しているかすぐに勘ずく。


 エイサイは人間に育てられた『魔族』ではなく、人間に育てらえた『異世界の人間』だ。それを知っていたテンプレがエイサイを『魔族』というはずがないということだろう。


 「…なるほどね。それじゃあ、僕の用事は終わったからこれで!」


 エイサイはそう言い捨てると、目くらましの閃光魔法を発動させると千魔の間から逃げ出していく。


 「なぜ追わない?」


 一番近くに座っていたゴウユウが全く動かないでいるのをフゲンが問い詰めるが、


 「いや、こりゃあ無理だぜ。そう簡単には取れねえよ」


 フゲンに冷たい言葉を浴びせられたゴウユウは全身をクモの糸に絡みとられてお手上げとばかりにぼやいている。どうやらエイサイはあらかじめクモの糸の魔法もこの場に仕込んでおいたようだ。


 やがてゴウユウだけでなくジョウもフゲンもクモの糸に絡まれていく。攻撃力が皆無の魔法だがこういう使い方をされるとかなり面倒くさい。


 「追ったところでどうせ部屋の外で転移魔法を使ってもう逃げてるでしょ」


 こちらもあきらめモードのジョウだ。


 「では、本物のテンプレを探すぞ。これ以上八大将を減らすわけにはいかない」


 フゲンが珍しく口数多く主張するが、


 「それも無駄でしょ」


 ジョウがあっさり否定して、続けてゴウユウも


 「恐らくテンプレはもう殺されているだろ。下手に生かしておいてこの場に来られたら台無しだからな。エイサイの情報に踊らされて勇者と戦ってダメージ負ったところを襲ったんだろうなあ。さすがエイサイ、抜け目ないヤツだよ」


 感心するように言うゴウユウをフゲンは睨みつけるが、何も言わない。再び不機嫌そうに黙り込んだ。

 そしてジョウはエイサイの逃げ去った方をなんとなく見てため息をつくのだった。


                        *  



幹部会議に潜入するというエイサイの今回の行動は一見、八大将たちをいたずらにかき回しただけで、魔王軍の今後の情報を得るなどの成果が得られていないように見えるがそうではない。


 (…なるほどねえ。俺が人間だと知っていて利用していたのは魔王とロウカイ、フゲンとテンプレだったわけだ。偶然とは言え一人仕留める事ができたな。もともとテンプレは嫌いだったから丁度良かったよ)


 エイサイは転移した先でニヤリと笑うのだった。

次回は 077 遺跡の主 です。

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