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07 試練のほこら・番人

  寝静まった城下町の裏門から出たタダシ一行。


 召喚されてから二週間ほど過ごした場所だったが、ほとんど出歩く事ができなかったので思い出らしい思い出もタダシにはないがそれでも少ししんみりした気持ちになっていた。


 ただ、その足取りはしっかりしたもので勇者としての自信に満ち溢れたものだ。黙々と進んでいくその様子はまるで迷いがないように見える。


 しかし、その頭上は〔とりあえずまっすぐ歩いてるけど、これからどこへ行くんだ?町での会話での情報収集とかなかったからどうしたらいいかわからないんだが〕と今後の道筋について迷いに迷っていた。


 その頭上を見てレインが(こういう時は便利ですね)と思いながらタダシに話しかける。


 「まずは試練のほこらに向かいます」


 「試練のほこら?」


 〔おっ、ロールプレイングっぽい展開。これは勇者のとしての資格があるか試されるとかそういうやつかな?〕タダシの頭の上の文字を見ないふりをしてレインは続ける。


 「試練のほこらは選ばれた勇者様だけが入ることができるほこらです。タダシ様にはこのほこらの奥にある勇者の証を手に入れてきて頂くことになります」


 「勇者だけが入れるのか?」〔一人で行かなくちゃいけないのか・・・。いきなり不安な展開だなあ〕


 タダシの問いに今度はエスケレスが答える。


 「番人がいるからな。あいつの目にかなわねえやつは中に入れねえんだよ」


 「番人、ですか?」


 タダシはエスケレスに対してはレインと違っていまだに敬語だ。タダシとしてはエスケレスくらいのいい年したおじさんに対しては敬語で話す方が気持ちが楽なのだ。


 「5000歳のエルフのババアだよ」


 「エルフですか!」


 〔エルフ!いやあ来たね!エルフ!ファンタジーといえばエルフだよね!やっぱり美形なんだろな~。5000歳の美少女。これは脳がバグるね。この俺の世界ではばあちゃんは普通にばあちゃんだから、そんなありえない設定が異世界に来たって感じがするよ!〕この頭上の文字を見なくてもわかるくらいにタダシは珍しくテンションが上がっている。


 「エルフにあんまり期待するなよ。あいつらは基本的に人間なんてどうでもいいと思っているんだからな」


 「へえ、そうなんですか」〔エルフ楽しみだぜ‼〕


 タダシの期待に水を差すエスケレスだったが、この賢者は誰に対してもこんな調子なのでタダシも真剣には聞いていないのだった。


 だが、タダシはすぐにエスケレスの言っていた事の意味を知ることになる。

 

 城下町を出て1時間ほど歩いたところに試練のほこらはあった。


 そしてそこには一人の人物がいる。


 「よっ、ソフィー。久しぶりだな」


 エスケレスがそう声をかけるその人物は小柄で、特徴的な長い耳をしている、神経質そうな老婆だった。


 〔・・・本当におばあさんなんだ。5000歳だしな。そういう事もありえるか。まあ、歳の割には若いってやつかな?見た目はいいとこ80代だし、5000歳にはみえないからさすがはエルフなのか?〕とタダシの頭上にいつものようにその考えがだだ洩れになったいるのを見てソフィーは目を見張る。


 「・・・こいつが今回の勇者かい?」


 ソフィーに怪訝な顔をして見上げられているタダシは、


 〔なんかめっちゃ不審な顔で見られてる・・・。もしかして俺は勇者じゃなかったとか?〕とさらに頭上に文字を浮かべる。


 ソフィーは単純にタダシの頭上の()()が気になっているだけなのだが、タダシにはその様子が勇者として値踏みされているように見えていた。


 タダシはいきなり異世界に召喚されたものの、今までやった事と言えば普通の戦闘訓練くらいだ。異世界勇者お決まりの空気を読まない破壊活動をしていないので勇者としての実感がなくてもしかたないのだ。


 (いえ、勇者様。ソフィー様が見ているのはあなたの頭上です。()()を不審がっているだけです。あなたは今までないくらい立派な勇者です、自信を持ってください)


 とレインは教えてあげたかったが、もちろん()()の存在をタダシに言うことはできない。


 「そうだ。名前をタダシ・キヨキと言う。二週間前に召喚したばかりだが、勇者に相応しい実力と精神をもっているとわしは認めている」

 

 人物の評価に辛いエスケレスにしては破格の評価だ。


 エスケレスの顔とタダシの頭上を交互に見ながらソフィーは大きくため息をつくと、


 「エスケレス、あんたが連れて来たんだから大丈夫だとは思うけどねえ・・・。本当にこいつでいいんだね?」


 再度タダシの頭上を見ながら確認するが、


 「それを決めるの管理人であるお前さんだろ」


 エスケレスはまるで他人事のように答えている。


 「何言ってんだい。ここ何年も勇者を連れて来たことなんてなかったくせに」


 ソフィーは召喚した勇者たちをエスケレスが自分で見定めて、その資格がないと試練のほこらまで連れてきていない事を知っているのだ。


 「二十年前に一人連れて来た時はソフィーが追い返したじゃねえか」


 「あの時はあんたはまだオムツの取れないガキだったからね。実際あの勇者はろくでなしだっただろ」


 ひひひっと笑うソフィーの皮肉にエスケレスは嫌な顔をして、「ちっ、くそババアが」と口の中で言うが二人とも楽しそうだ。


 「とりあえず、タダシを審査してくれよ。簡単だろ」


 エスケレスはタダシにわからないようにソフィーに目くばせする。


 (まあ、確かにこいつの審査は簡単だろうね)


 ソフィーは頭上の()()を活用する気になっている。


 「さて、勇者タダシ。あんたはこの世界のために魔王を倒す気があるんだね?」


 「もちろんです!俺は必ず魔王を倒してこの世界に平和を取り戻してみせます!」


 ソフィーの問いにタダシは迷うことなく宣言している。ように見えたが・・・


 〔うん、倒す気はある。ある・・・はず。あらためて聞かれる少し悩むけど、まあ、倒す気があるのはうそじゃないもんな。せっかく異世界来たからちょっと寄り道したりしてみたいし、マジで命の危険を感じたら元の世界に帰りたくなるかもしれないけど、現時点では倒す気があるのは間違いない。うん、あるある。倒す気ある。俺、倒す気あるよな?〕と最後の方には自分自身に言い聞かせるような言葉がタダシの頭上には並んでいる。


 (大丈夫かねえ・・・こいつ)ソフィーはそれを見て少し悩んでいたようだったが、やがて何かをあきらめたようにため息をつくと


 「まあ、いいさ。とりあえず中に入ることは許そうじゃないか。そのかわり中に入るのは勇者だけだよ。一人で行って勇者の証を手入れてきたら真に勇者として認めてあげるよ」


 と試練のほこらの通行を許可してくれたのだった。

次回は08 試練のほこら・勇者 になります。

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