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071 パフィン遺跡

ハクガン公国南西部の森の中にそれはあった。


パフィン遺跡は白さが特徴的な石造りの遺跡だ。もっとも、大きく口を開けるように広がっている石壁には無数のツタがまとわりついており、いかにも歴史を感じさせる趣がある。


 「ここがパフィン遺跡か。ここに『勇者の盾』があるんだな?」


 〔なんかしょぼくない?遺跡っていうからもう少し大きいものを想像していたんだけど…〕


 タダシが思っているようにパフィン遺跡は全体でも馬が5頭分の馬小屋くらい大きさにしか見えない。中に入ったらすぐに行き止まりが見えそうだ。


 タダシにきかれたシンエイは苦笑いする。()()が見えているとこういうリアクションをしてしまっても仕方ないだろう。


 「正確には入口ってところかな。パフィン遺跡は地下に住んでいた種族の住処だったから、この地下に無数の穴が掘られてそこが居住空間が広がっていたんだ」


 「広がっていたって事は今は住んでいないんですか?」


 「ああ。数百年前に住民たちに捨てられてからは魔物の巣になっているみたいだな」


 レインの問いにさらりと答えるシンエイだが、ミーシャが眉をひそめている。


 「魔物の巣になっているんですか?」


 タダシのためならいざしらず、シンエイのために『勇者の盾』を入手する過程でむやみに危険を冒すのは気が進まないらしい。


 (()()がなくてもわかりやすいよなあ。なんで勇者はわからないんだよ)


 ミーシャはもともと自分の感情を律する事に慣れているので、常に王族として凛としたたたずまいをしているのだがタダシが絡むとそれもかなり崩れてくるのでその内心をシンエイに見透かされている。


 「言っておくが『勇者の盾』は『勇者の剣』や『勇者の鎧』ほど入手難度は高くないぞ。単純に遺跡の中に強い敵がたくさんいるだけだからな。強い敵を倒すだけで手に入れる事ができるなんて簡単だろ」


 本来は『盾』や『兜』から先に手入れるのが正しい順序であり、『剣』や『鎧』を手入れているタダシ達にとっては難しい事ではないとシンエイは言いたいらしい。

 

 たしかに閉鎖的な獣人たちや魔族である魔族穏健派に勇者として認められる方が、単純に強い敵を倒すだけよりよほど難しいだろう。その難しい事をこなしたタダシはやはり勇者なのだ。


 …まあ、その入手にあたっての優先順位はかなり不純なものがあったのだが。


 「シンエイは勇者装備の事をよく知っているんだな」


 「父さんから時々通信魔法で連絡をもらっていたからな。父さんは俺が直接魔族と戦うのはできるだけ避けようとしていたからその他の調査を俺に頼んでいたんだよ」


 〔エスケレスさんがシンエイが直接魔族と戦うのを避けさせていたのはやっぱりシンエイが魔族だからかな?〕


 ききにくい()()を上げているタダシに(たぶんそうだよ)とシンエイは心の中で答える。


 「とにかく中に入りませんか?進みながらでも話はできるでしょう」


 ここまで来ておきながらぐずぐずしている、と意外と気の短いカノンが促してくる。


 「そうだな、そうしよう…」


 タダシが同意して遺跡に入ろうとして、不意に振り返ったタダシ達を取り囲むように無数のモンスターたちが現れている。


 「遺跡のモンスターか?」


 「いや、こいつらは魔王軍だ…!」


 シンエイが指摘するように半魔王軍と思われるモンスターが主体だがあきらかに正規の魔王軍とわかる鎧をまとった魔族たちもいる。そしてその動きは完全に統率された軍隊のものだ。指揮官らしい仮面をつけた魔族もいる。


 「前に出すぎるな。危険を冒さず遠くからじわじわと削っていくのだ。そうじわじわとな」


 仮面をつけた魔族の指示通りにモンスターたちは一定の距離を保って一斉に魔法を放ってくる。


 一つ一つの魔法の威力は大した事はないが、数が数だ。普通だったら骨すら残らないだろうが、この勇者パーティにはいまや普通ではない者が集まり過ぎていた。


 魔法が一段落した後に全くの無傷の勇者達を見て仮面の魔族は驚愕の声を上げる。


 「なにいっ!あれほどの攻撃を受けて無傷だとっ!」

 

 ありふれたセリフを言う仮面をつけた魔族と言えばピンとくる読者もいるかるかもしれない。そう、八大将の一人、テンプレである!


 …覚えてる人いるかなあ。


 そんなテンプレが驚いている間にミーシャは全員に身体強化魔法をかけている。実はこの中でもっとも実戦経験が豊富なミーシャは戦闘時の判断が早く的確だ。ただのタダシ大好き少女ではないのである。


 さきほどの魔法攻撃をふせいだのもミーシャ、シンエイ、カノンの防御魔法とタダシが変形させた『勇者の剣』の合わせ技だったが防御魔法を最も早く使っていたのはミーシャだ。


 続いてタダシがミーシャに身体強化をかけている。この世界の人間であるミーシャが自分自身にかけられないのを知っているからだろう。


 (なるほど、勇者も戦い慣れしている)


 シンエイは卓越した魔法技術と膨大な魔力、そして高いレベルの剣技を習得しているが実戦経験という面では実はそれほどでもない。エスケレスの言いつけもあってできるだけ目立たないようにしていたために戦闘経験が少ないのだ。


 だが戦闘の仕方はよく心得ているので、すぐに作戦を立てるとタダシにたずねている。


 「集団戦闘の経験は?」


 「オークの群れと戦ったことがある」


 〔確かあの時は100匹くらい一人で倒したなあ…〕


 「は?」


 タダシの()()を見てシンエイは思わずまぬけな声を出してしまう。(オーク100匹を一人で??)と想像以上にすごすぎるタダシの戦果に驚きを通りこして呆れると同時にこの勇者なら多少無茶な事をさせても大丈夫だと確信する。


 「それなら十分だ。俺が穴をあける。勇者はそこに突っ込んでくれ」


 シンエイの意図を察したタダシは転移魔法を準備し始めている。


 (理解が早くて助かる)とシンエイは舌を巻きながらも魔力弾を魔王軍の中心部に叩きこむ。と同時にタダシは魔力弾によって吹き飛ばされてひらかれた場所に転移している。


 「まずは包囲を崩す。勇者とこちらとの2点から攻めていくぞ!」


 シンエイが指示を出すがミーシャが口を挟んでくる。


 「わたくしも勇者様の元へ行きます!」


 「ダメだ。勇者を行かせたのは自分で転移できるからだ。自分で転移できる者なら危なくなればこっちに戻ってこれるが、転移できない者が離れるのは危険すぎる」


 「それは…そうですね」


 悔しそうにミーシャは唇をかむ。いかに強大な魔力を持っていてもこの世界の人間であるミーシャにはできる事に限界があるのだ。


 「まずはこちら側の敵を殲滅していきましょう。そうすれば勇者様の助けになるはずです」


 力強く語り掛けるレインにミーシャは励まされるのだった。

 


 


次回は 072 分断 です。

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