067 王宮の噂
今、ポーラ王国の王宮の女騎士、侍女、女官達の間ではある人物の事が噂になっていた。
それはもちろん異世界から召喚された勇者で、今までのハズレの勇者たちとは違い、魔王軍に対して確実に痛撃を与え続けていて、ミーシャ姫と密かに恋仲であるという眉唾な話までささやかれている稀代の召喚勇者タダシ!の事ではなかった。
「ねえねえ、シンエイ様見た?ものすっごい美形よね~。あれは目の保養になるわ~」
「見た見た~!こう言ったら失礼だけど賢者エスケレス様の息子とはとても思えないわよね。正直エスケレス様って普通のおじさんだったもんね」
悪気なく言う同僚に「えー、ちょっと失礼だよ~」とこちらも笑顔で答えている侍女の一人だ。ポーラ王国は大国らしく公の場では厳格な態度を崩さない雰囲気があるが、ひとたび私的な場所に入ると割とくだけた者が多い。
「それにさ、シンエイ様って魔法だけのエスケレス様と違って剣も達人なんでしょ?」
実際はエスケレスもそこそこ剣も使えるのだが、それを知らない侍女が女騎士の一人にきくと、
「うむ。あれほどの使い手は見た事ない。この前、稽古をしているのを見たがシンエイ殿が本気でやっていたかはわからないが、元守護騎士クラスの騎士たちが数人がかりでも遊ばれていたからな。恐らく現守護騎士のレイン殿よりも上だろう」
「えー、すごーい!」
黄色い悲鳴を上げる侍女たちになぜか女騎士が誇らしそうな顔をしている。そこに口を挟んでくるのは魔法部隊の魔法使いだ。
「魔法もすごいわよ。何しろミーシャ姫様以上って話だもの。ミーシャ姫様でもやっと使いこなすような魔法を苦も無く使うっていう話なのよ」
「えー、すごーい!」
先ほどの全く同じ反応をする侍女たち。もはや何をきいても「すごーい!」状態になっている。
「美形で、強力な魔法も使えて、剣の腕もある。カッコいいわ~。エスケレス様の息子とは思えない」
二回も言う必要があるのか、「エスケレスの息子とは思えない」とまた同じことを言っている侍女もいる。
ちなみにシンエイが魔族である事は明かされていない。魔王軍所属ではないとはいえ魔族に対してよいイメージは一般国民にはないからだ。
「でも、そのエスケレス様が行方不明になっているっていう話は本当なの?」
ちょっと心配そうに真面目そうな侍女が問いかけると、
「どうかしら。あの方って時々フラッといなくなっていたじゃない。今回もそれなんじゃないの」
エスケレスが魔王戦後に行方知らずになっていることは隠されているが、それでも人の口に戸は立てられぬものでこうして噂になっているのだ。
「そうよねえ。正直、王宮にいるのは勇者召喚の時だけで、それ以外の時はだいたいどこかに行っていたもんね。どうせまたフラッと帰ってくるんじゃないの」
とさほど心配されていない。
「それにエスケレス様ほどの方が亡くなられたなら王国から正式に発表があるだろう。あの方の功績はそれに値するものだ」
これまでのエスケレスの王国への貢献度を考えれば国葬に近い扱いを受けるだろうと女騎士が断言する。その言葉にはなんだかんだ言ってエスケレスへの尊敬の念があるのがわかる。
もっとも今回ポーラ王国が正式に発表していないのは、エスケレスの生存についてはほぼ望みはないと判断しているが、その影響力を考えて発表していないだけだ。
そんな事とは知らないので皆、エスケレスについてはそれほど心配せずに、次の話に移っていく。
「あと、あのレイン様の知り合いっていう女戦士さん。あの人も相当美形よね。ミーシャ姫様とレイン様のポーラ王国の2大美人に割って入る存在じゃない?」
「わかる。大いにわかる。ていうかレイン様よりも美人じゃない?ミーシャ姫様は少しタイプが違うから比較はしにくいけど、単純に美形という点ではレイン様より上な気がするわ」
「そう?私はレイン様派だけど」
この辺は好みの問題なのか評価が割れているのか、バチバチと火花を散らしている。
「弟のジュウベイ君も可愛いわよね。あと何年かしたらきっと凛々しい美少年になるでしょうね。楽しみだわ~」
ちなみにレインとジュウベイが魔族である事を知っている者も王宮でもごく一部に限られている。
こんなふうに勇者パーティの話(勇者以外)が盛り上がる中で、
「そういえば勇者様ってどんな感じなの?」
ようやく話題に上がるタダシ。
タダシは頭上にあれがでるために相変わらず王宮内でその存在を隠されているのだ。
…まあ、最近は比較的自由に城の中を歩き回っていたりするのであまり隠せてないが。
「あたし見た事あるわよ。まあ、普通だったわ」
「え?勇者様見たの?」
「ええ。遠目だったけど。普通の顔してたわ。あっ、でも全然ブサイクじゃないから」
と何のフォローなのか言い添えている。
「でも、どうして勇者様はあんまり姿を見せないのかしら?」
一人の侍女の素朴な疑問に、
「あくまでも噂なんだけど…勇者様の頭上にでるらしいわよ」
女官の一人が声をひそめて言う。
「でっ、でるって何が?」
恐る恐る侍女の一人がたずねると、女官は神妙な顔をして答える。
「…ミーシャ姫様の怨念が。勇者様の頭上にミーシャ姫様の姿を見たって人がいるの。勇者様に思いを寄せるミーシャ姫様の怨念が勇者様に女性を近づけないようにでてくるって言う噂だわ」
なかなかの怪奇現象なのだがそれがミーシャ姫の事なので「姫様、今まで男運悪かったですからね…。ようやく訪れた春だからそうなるのも仕方ないです」と皆、しみじみと納得している。
真実はたまたまミーシャの事を思い浮かべていたタダシを遠目で見た者がいただけなのだが、こうして王宮の噂は広がっていくのであった。
今回はちょっととりとめないかもです。というのも例の感染症になりまして発熱中(特に夜)です。誤字脱字多いかもです。指摘して頂いたら助かります。
現在の作者の書き方として→3話分程度の下書きストック→次のストックの下書き+次の更新分を仕上げるを一週間でする→土曜日更新。という流れなのですが、今回は次のストックを書いた後くらいに発症したので更新分があまり進んでいない状態でした。
あと作者は体調不良になると後書きが長くなるという変な習性があります。多分来週からはまた次回予告のみの後書きになると思います。いや、そうなりたいです、マジで。
次回は 068 元賢者 です。