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063 賢者の子

 「質問にちゃんと答えなさい!どうやってここに入ったのです!」


 シンエイがエスケレスの息子だと名乗ってもミーシャの対応は変わらない。誰かという問いには答えているがどうやってここに来たという問いに答えていないと追及している。


 その様子にシンエイは肩をすくめながら答える。


 「ちょっと、魔法を使ってね。どんな魔法かは言えないけどな」


 人を食ったようなその言い方に思わず皆はエスケレスの姿を重ねてしまう。


 「そもそも本当に賢者エスケレスの息子なのですか?」


 ミーシャはなおも探るような目でシンエイと名乗ったその美少年を見ている。


 〔…確かにあんまり似てないよな。雰囲気は似てるけど、この美少年がエスケレスさんの息子とは…。エスケレスさんって外見は普通のおじさんだからなあ。まあ、俺も外見は人の事は言えないけど〕


 タダシは口にこそ出さないが、頭上では失礼な事を考えているのが筒抜けだ。まあ、自分の事も普通と認めているのがこの勇者らしいが。


 そのシンエイは目ざとくタダシのを()()見て、自然に反応してくる。


 「まあ、父と言っても血はつながっていないからね。父さんが養子にしてた一人なんだよ。育ての親ってところだな」


 「エスケレスさんとは連絡を取っていたんですか?」


 さきほどから出ているタダシの()()に動じることなく、うまく立ち回っているシンエイの態度にエスケレスとの何らかのつながりがあったことをレインは感じている。


 「ああ。だから君たち勇者パーティの事は父さんからよくきいていたよ。ポーラ王国の魔法王女ミーシャ姫、お人好しで嘘のつけない勇者タダシに堅物の守護騎士レイン、それから穏健派魔族のカノンとジュウベイもね」


 魔族の二人の方を見ながらウインクするシンエイはいかにもキザったらしいが、タダシ達の事はまだしも、カノンとジュウベイの事まで知っているのはエスケレスと最近まで連絡を取っていた証だろう。


 「血がつながっていないともしてもあなたが賢者エスケレスの息子だという証拠はあるのですか?」


 あくまで疑ってかかるミーシャに、シンエイは慌てずに答える。


 「証拠ならあるよ。『遺言珠』は知ってるだろう?」


 「…知っていますよ」


 『遺言珠』という言葉を聞いてミーシャ達はハッとする。ただ一人を除いて。


 〔ユイゴンシュ?〕


 ここで『遺言珠』を知らないタダシのためにシンエイは説明を開始する。


 シンエイの説明を要約すると『遺言珠』はごくわずかな魔力を使用する事でどんなに離れていてもメッセージを届けることができる魔道具だ。一見かなり便利な魔道具に思えるがそうでもないのだ。何しろその名の通り命の危機になったときにしか使えないし、メッセージを送ることできるのは使用者にとって縁の深い人物にしか送れない。いつでも誰にでも送れるというような便利なものではない。


 しかし、だからこそエスケレスの『遺言珠』が送られてきたのならシンエイは確かにエスケレスにとって親しい人物である証になるのだ。


 『シンエイよ、わりいがわしはどうやらここまでらしい…すまねえが、後は頼む』


 シンエイが再生させた『遺言珠』から聴こえてきたのはまぎれもなくエスケレスの声だ。


 聞き覚えのあるエスケレスの声にミーシャも目を伏せる。他の者たちも『遺言珠』が使われたという事実がはっきりした事で言葉がでなくなる。

 

 そんな中でタダシは顔を青くしながらもシンエイに確認する。


 「…『遺言珠』が使われたという事はエスケレスさんはもう死んだと言うことですか?」


 「その可能性は高いだろうね。今説明したように『遺言珠』は命の危機にならないと使えないからね。少なくとも危機的状況に父さんが追い込まれたのは間違いないよ」


 真剣な顔で言うシンエイに全員の表情が更に暗くなりかけるが、


 「…でも、あの父さんが大人くし死ぬとも思えないからなあ。楽観視はできないけど、それほど心配することもないんじゃないの」


 実はシンエイ自身はエスケレスの生存を信じているわけではないが、あえて生きている可能性を残した話し方をしている。賢者エスケレスという存在がタダシ達に与える影響を考えての事だ。


 「まあ、父さんが戻って来るまでは俺がいるから心配ないよ」


 能天気なほど明るく言うシンエイに、


 「あなたが賢者エスケレスの代わりに勇者様たちに同行すると言うことですか?」

 

 ミーシャの言葉には棘がある。これはシンエイが気に入らないというよりも勇者たちに自分がついて行くという計画が崩れそうだからだ。


「そのつもりだけど?もしかして俺の実力を疑ってる?その点なら心配いらないよ。知識ならまだしも戦う能力なら俺の方が父さんより上だからね。魔力も身体能力も」


 ミーシャの反応を勘違いしたシンエイが挑発するように言う様子を見て、


 〔なんか主人公みたいだな~。発言が自信たっぷりで、実力もあって、その上美少年…。しかも血のつながらない父親までいて、それが大賢者。ヤバくない?俺の立場?〕


 タダシが変な危機感を抱いているを知ってタダシ命であるミーシャはさらにヒートアップする。 


 「では、どのくらい強いか実力を見せてもらいましょう。もし、それが不十分だった場合はわたくしが勇者様に同行する()()ありませんね」


 「姫様!?」


 ()()を強調して言うミーシャに思わずレインは驚いてその顔を見返す。


 (なにか様子がおかしいと思っていたらそう言う事だったのですね)


 げんなりするレイン。


 だが、ミーシャのたくらみを知らないシンエイは素直にその言葉を受け止める。


 「いいよ、実力を見せよう。でも、ここじゃあちょっと危ないから中庭に出ようじゃないか」


 こうして賢者エスケレスの息子、シンエイの実力を見るために全員で中庭に出るのだった。




                     *


 


 「これ、なーんだ?」


 「あっ、あれは…?」


 中庭に出たシンエイが一瞬にして右手の中に発生させた魔力弾を見てタダシ達は驚きの声を上げる。元副魔王のヒョウゴがタダシと戦うときに使っていた魔力弾にそっくりなのだ。


 「こいつは大きさからは想像もできないほど高威力を発揮する魔法だ。しかも速射性もある。しかし、それだけに扱いが難しく普通の人間にはまず使えない魔法なんだよ。これが使えるのが俺の実力だよ。これを見ても文句あるかな?」


 「…カノンさん、どうなんですか?」


 この魔法の使い手であるヒョウゴの孫のカノンにレインが確認している。


 「確かにかなり高度な魔法だわ。魔族でも誰でも使えるわけじゃないし、現に私は使えないわ」


 「あっ、俺は一応使えるよ。俺は魔法は得意だからね」


 「あんたのは使えるうちに入らないわよ」


 へへんっ、と鼻をこするジュウベイをカノンが小突いている。


 「とにかく制御が難しい魔法なの。まず根本的に魔力の総量が八大将クラスないと使えないし、魔力があってもそれを一瞬にして手のひらの中に魔力を集約させるのはかなりの技術を要するわ。下手したら魔力が暴発するらしいし」


 暴発常習犯の弟をにらみながらカノンが解説を付け加える。人間よりも遥かに魔力に優れてい魔族でも難しい魔法らしい。


 「…こっ、この魔法を使う事ができたら、わたくしが同行しますから…わふゃっ!」

 

 これほどの魔法を見せられると思っていなかったミーシャが動揺しながら言っているところで、シンエイは魔力弾を空中に発射して爆散させる。


 「ごめん、びっくりした?」


 笑いながら謝るシンエイをにらみつけて、


 「とにかく今からわたくしがやってみます!」


 と意気込むミーシャに続いてタダシも、


 「俺もやってみようかなあ…」


 と挑戦する気になっている。もっともその動機にはこの魔法が有効だと思っただけではなく、


 〔これっていきなりできたら勇者っぽいよな…それにこの魔法が使えるようになれば俺はもっと強くなれるからな〕


 と不純なものもしっかり混じっているが。


 そんなタダシの()()にシンエイは苦笑しながら


 「そうだなあ。勇者ならできるかもな。魔力も強大だし、何より普通の人間とは違うからな。やり方を教えてやるからやってみたらどうだ」


 シンエイとしてはこの魔法に関してはミーシャよりもタダシの方がよほどできる可能性が高いと思っているらしい。


 ミーシャへ教えるのはそこそこにしてタダシに付きっきりになって教えている。ミーシャにはどうせできないから教えても無駄だと思っているようだ。


 やがてタダシはシンエイに教えられたように手のひらに魔力を集約させていくが、完全に収束して魔力弾になる前に魔力が霧散してしまう。やはりカノンが言っていたようにかなり難しい魔法のようだ。


 〔よくあるパターンだとしれっとした顔で「なんかできちゃったんだけど…」ってなるところなんだろうけど現実は甘くないなあ…〕


 「なんかできちゃたんだけど」が言えなくて本気でガッカリしているタダシの頭上を見ながらシンエイは隣に立っているレインにコソっときく。


 「…話にはきいていたが、ああいう奴なのか?」


 「はい、まあ、そうですね」


 使えない事で強くなれなかった事よりも、すかしたセリフが言えなかった事に落ち込んでいるタダシに驚きながら少し呆れている。


 しかし、それ以上に驚く出来事がその隣でおこっていた。


 「くにゅううう!」


 気の抜けそうな奇声を上げながら必死の形相で魔力を集中させるミーシャのその手の中には驚いたことに魔力弾が生成されている。


 その魔力弾をシンエイたちが見届けたのを確認して、ミーシャは空中に爆散させる。


 「ぜはーっ、ぜはーっ、で、できましたわ!ぜはーっ、これでわたくしが同行しても問題ないですね!」


 高貴な美少女とは思えない表情で息を荒げながら宣言するミーシャに、シンエイは世にも珍しいものを見たと驚きながら、


 「…すげえな。普通、まともな人間にはできないぞ??どうなってるんだ?」


 「姫様は時々まともな人間から離れた事をされるのです」


 なぜか誇らしげに言うレインも変なもののように見る。


 (父さんに聞いていたが変な連中だなあ)と思いながらも、ごく常識的な意見を言う。


 「でも、姫さんがいないとこの国が困るだろ?」


 シンエイのもっともな意見に、早くも息を整えて美少女の顔に戻ったミーシャは答える。

 

 「それは大丈夫でしょう。勇者様たちによって八大将が三人も倒され、魔王軍もだいぶ編成が変わっているようです。その証拠に我がポーラ王国担当の八大将も姿を最近は姿を見せなくなっていますからね。今こそこのわたくしが勇者様とともに旅立つ好機なのです」


 自分の同行を誰かに反対されたらこう言おうとあらかじめ考えていたのでミーシャはすらすらと言っている。

  

 しかし、その余裕のミーシャの笑みは、中庭に駆け込んできた一人の兵士によって無残にも崩される事になった。


 「も、申し上げます!ただいま、魔王軍八大将、エイサイが城門に現れました!」


 「ええっ!?」


 (もうっ!なんで今?!…八大将キライ!)


 ミーシャは声にならない叫びを上げるのだった。

次回は 064 八大将・エイサイ です。


夏バテになりました。今回いつもより文字数が多いのはそのせいだと思われます。

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[一言] てっきり、本人かと思ったらちゃんと息子なんだ
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