05 守護騎士
タダシはレインとの戦闘訓練の合間に色んな事をきいてくる。
タダシの頭の上には本音が出ているから真面目なレインはタダシの質問にその本音を加味して答えようとするのでなかなかしんどかったが、それも仕方ないと思っていた。
タダシが召喚されて10日経つが会話ができる知り合いがほとんどいないからだ。
というかこの大きな城の中でもタダシとまともに話をしているのは、戦闘訓練をしているレインと時々様子を見に来てよくわからない助言なのか愚痴なのかを言って去っていくエスケレスと、たまに王女のミーシャが顔を見せに来るくらいだ。
これはタダシの頭上にあれがあるためにエスケレスがタダシと接する人物の数を制限したからだった。こんな扱いを受けたらタダシに不満がたまりそうだが、この行儀のよい勇者は表面上は我慢していた。まあ、ときどき頭上に不満が漏れていたが。
*
「レインさんは守護騎士なんですよね?他の騎士の人と違ってなんで守護騎士って言うんですか?」
〔最近気づいたんだけど、レインさんだけがなぜか守護騎士って呼ばれてるんだよね。やっぱり特別な騎士なのかな?〕とタダシの疑問が頭に浮かんでいる。
「守護騎士というのは召喚する際に姫様を守護する役目を持っているので守護騎士というのです。召喚の儀式で間違って危険な者が召喚されたときに姫様の身を守るために側に控えているのです」
レインはタダシの疑問にできるだけ正直に答えるようにしている。
「ああ、それで召喚の時にいたんですね」
「以前にも申し上げましたが、私よりも強い方がポーラ王国には幾人かいました。その方たちが守護騎士をしていたのですが、召喚した者によって皆傷つけられてしまって最終的に私が賢者エスケレス様より選ばれたのです」
「召喚の儀式はそんなに危険を伴うんですね・・・」
深刻な顔で頷いているタダシの頭上には誤って召喚された人外の魔物たちが暴れている姿が浮かんでいる。
それを見てレインはタダシは大きな勘違いをしていると思うが、あえて否定はしない。正直に答えようと思っているレインだったが余計な事は言わないに限る。ただ、もしレインがタダシのように頭上に本音が出るタイプだったら以下の様な文字が浮かんでいただろう。
(いえ、ちゃんと人間の形をしてましたよ。中身は化け物ぞろいでしたけど。それに傷ついたって言っても身体の傷よりも異世界から召喚された勇者たちにボコボコにされて『今のは新兵ですよね?俺の腕試しってところなんでしょうが、もっと強い騎士の相手をさせてください。今の人が王国最強?え?この程度で?俺まだ全然本気じゃないけど?』的な態度をとられたことによる心の傷の方が大きいのですが)
ちなみにエスケレスがレインを守護騎士に選んだのはその技量もあるがそれ以上にレインが相当の美少女だったことが大きいのだ。エスケレスいわく「異世界のやつらは美少女に弱いからな。あいつらが転移してきたときにまず目を付けるのが美少女だ。しかも、自分は相手の気持ちに気づいてないけど相手はぞっこんだというシチュエーションが大好物らしい。だからそれらしい態度をとればお前は安全だ」と気持ちの悪い分析をしていたが、さすがは賢者だけあってその見立ては正しかった。
とりあえずレインが守護騎士になってからは問答無用でボコボコにされる事はなくなったのだから。「俺スゲー。だけど別にアピールとかしてねーし」はよくされていたが。
これらの勇者に比べるとタダシは本当に普通の勇者だ。いや、優良勇者だ。まあ、頭上の本心では時々だらけていたが。
「勇者タダシ様。戦闘訓練は本日で終わりです。明後日に魔王討伐の旅に出立することになりました。私もお供させていただくことになったのですが、一つお願いがあります」
「なんですか?」
〔レインさんがお願い。珍しいな〕
「タダシ様の私に対する言葉遣いなのですが、タダシ様は勇者様ですので従者の私に丁寧に接しすぎるのはよくありません。もっと普通の友達に対して話すようにして下さい」
レインがこんな事を言い出したのには理由があるが、それを知らないタダシは真面目な顔で答える。
「急にそうするのは難しそうですが、できるだけ努力します」
〔はあ、よかったあ。そんなお願いなら大歓迎だよ。正直この世界に来てから全員にずっと敬語だったからしんどかったんだよなあ。一人くらいは気安く話せる人がいないと。ていうか知り合い自体少ないよなあ。なんかみんなよそよそしいし。やっぱり異世界から来たって事で警戒されてるのかなあ〕タダシの頭上のあれによってレインはタダシが敬語を使わずに友達みたいに話したいと思っているのを知っていたのだ。
「まだ、堅いですよ」
頭上のあれみたいに素直に喜んでくれればいいのにと思うレインに、
「わかった。気を付けるよ」
ちょっと微笑んで答えるタダシの頭上には何も浮かんでいなかった。
*
「レイン、発言には気を付けろよ。勇者に本心が頭上に出ていることを悟られたらいけねえからな」
タダシが去った後にエスケレスはレインにくぎを刺す。あまりタダシが心の中で望んでいることを叶えていたらバレる可能性があるのだ。
「そういうエスケレス様だってちょいちょい怪しいですよ」
「わしはいいんだ。勇者に『エスケレスさんにはまるで俺の本心が見えてみるみたいです』って言われても『わしは賢者だからな。ある程度の推測はできるのだ』と答えたら勇者も納得していたからな」
「えっ、ずるい!そんな事言ったんですか?」
レインの抗議を無視して
「とにかく勇者の本心が駄々洩れになっている事を本人に知られたらダメだぞ。やけになって何をしでかすかわからないぞ」
「タダシ様は大丈夫だと思いますけど」
レインは、タダシが見栄っ張りで少し面倒くさがりだがこの世界のために誠実に頑張ろうとしている事を知っている。
「・・・まあ、悪い奴じゃねえがな。ところであれは戦闘中にはあまり出なくなったみたいだな」
「ええ。たった一週間で戦闘中は考えがほとんど頭上にでなくなりました。元々何か武術をしていたようですからそれもあるのかもしれませけど」
「まだ追い込まれるとあれが出るようだが、こんなものだろう。あとは実戦で鍛えていくしかねえだろうな」
「そういえば日常会話では相変わらずだだ洩れですけど、こっちもなおしますか?」
レインの問いにエスケレスはちょっと考えるように顎に手を当てるが、
「いや、そのままでいいだろう。どうもあの勇者は本音を頭の中で愚痴る事で、優等生としての自分とのバランスをとっているようだ。それを奪ったら勇者もパンクするだろう」
「そうですね。その方がタダシ様らしいですよね」
レインは純粋な気持ちでそう思っているようだったが、
(なによりその方がこっちにとっても都合がいいからな・・・。なおさない理由をそうだと知ったらレインは怒るだろうがな)
エスケレスは相変わらず底意地の悪い事を考えているのだった。
ブックマーク、評価して下さった方ありがとうございます。とてもやる気が出ます。やる気でまくってもしかしたら週2回掲載するかもです。・・・いや、それは無理か。
次回は06 勇者の旅立ち(夜逃げ)です。