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051 タダシ、棒の修行


 「どうじゃ?気に入るのがあったか?」


 「う~ん…」


 ヒョウゴに案内された地下武器庫にずらりと並んでいる大小様々な材質で出来ている棒を前にして、タダシは頭を悩ませていた。


 優等生勇者として与えられた物について文句を言う事の少ない(頭上に本音が出る事は多々あるが)タダシには珍しく、即決しない。


 剣のときはそんなに選り好みしていなかったタダシが棒を選ぶのにはかなり慎重になっているのを見ると、やはりタダシにとって棒はかなりこだわりがある様だ。


 (そんなに棒の方が得意なら初めから言ってくれればいいのによ)


 と付き添いで来ていたエスケレスは思うが、今まで頭上の()()にもそんなそぶりが出ていなかった事を考えると、タダシには棒で戦うという発想自体がなかったらしい。


 『勇者』に対して妙なこだわりを持つ勇者様なのだ。


 「それならこれを使ってみるとよいぞ。これなら長さは自由に変えられるし、重さも自由自在じゃ。お主にあった物にするといい」


 そう言ってヒョウゴが無造作にタダシに手渡したのはヒョウゴがいつも使っている棒だ。


 「いいんですか?ありがとうございます。…ヒョウゴさんは長さを変えながら戦っていたことがありましたが、戦いながらでも変えられるんですか?」

 

 「もちろん変える事はできる。が、慣れるまでは自分に合った長さに固定してやる方がよいじゃろうな」


 お礼を言いながら受け取るタダシだが、ふと気付く。


 「俺がこれを使うならヒョウゴさんはどうするんですか?」


 「わしはこれじゃよ。わしはどんな武器でも一通り使えるが、一番得意なのはこれなんじゃ」


 そう言ってヒョウゴが武器棚から取り出したのは金色に輝くハルバードだ。元副魔王愛用の武器として恥ずかしくない性能なのだろう。一見して強力な魔法武器だとタダシにもわかる。


 「棒が一番得意なのかと思っていました」


 「お祖父様は武芸百般を修めておられますが特に槍術を得意としているのです」


 タダシの疑問になぜかカノンが答える。


 カノンもタダシがどんな棒を選ぶのか気になってついてきていたのだ。


 「武器が決まった事じゃし、さっそく稽古をするぞ。カノンも女騎士を鍛えてやるんじゃな」


 ヒョウゴはタダシに稽古を付けたくてうずうずしているようだった。


                       *


 ヒョウゴが見込んだ通り、タダシは棒術に対してかなりの天稟を見せた。

 

 元々棒術を自分の祖父から習っていたのもあるが、それを差し引いても剣の時とは動きが違っていた。剣の時も常人離れした鋭い振りを見せていたものだが、棒の時は鋭さだけではなく、動作がつながっており滑らかさがあるのだ。


 流れるような動きはまさに棒と一体化しているように見える。


 タダシが棒の修行をはじめて十日ほどたつが、お互いに魔法を使わないで戦っているとはいえタダシの棒はヒョウゴのハルバードにそれほど引けを取っていない。


 その様子を見に来ているのはレインとカノンだ。


 レインはエスケレスに言われてタダシのモチベーションを上げるために来ており、カノン自身も事情があって見に来ている。


 「勇者様ー!頑張ってー!」


 と黄色い声を上げながらも、隣にいるカノンに「勇者様、棒術かなり上手くなってますよね?」とささやいている。


 「そうね。はじめから相当な技量があるのはわかって驚いたけど、成長速度はそれ以上だわ。いくらお祖父様が指導しているとは言ってもこれほどとは思わなかったわ」


「勇者様はこの短期間でもうかなり棒術で強くなっているんですよね。やはり才能の差ですかね」


 ため息をつくレイン。自分もカノンに稽古をつけてもらっているがまだまだカノンには及ばないのがよくわかっているのだ。


「…そう思うなら明日の朝、少し早起きして私の部屋に来なさい。あなたに見せたいものがあります」


 意味深な言い方をするカノンにレインはあいまいにうなずくのだった。


 翌朝、まだ外が薄暗いうちにレインがカノンの部屋を訪れると、カノンはカーテンを少しだけ開ける。


 「窓の外、森の右奥の方を見てみなさい」


 そこにいたのは黙々と棒をふるタダシだ。もちろんヒョウゴに指示されてしているわけではなく自主的に練習しているのだ。


 もっともその動機は純粋に強くなりたいためだけではないようで、


 〔隠れて特訓する俺ってカッコイイ…。まさに勇者の所業だよね〕〔努力を人に見せない…〕〔これはいい…〕などと黙々としているが頭上はかなり雄弁だったりする。


 「これはいつから…?」

 

 「ここに来た時からよ。それこそ武器を棒に変更する前からしていたわよ」


 「そうですか…」


 (頭上の()()は気にしないで『さすが勇者様』とか思っているんでしょうねえ)とカノンが考えていると、


 「さすが勇者様」


 とレインが実際に口に出したのでカノンも苦笑する。


 この勇者パーティは本当にわかりやすい。


 頭上に考えがだだ洩れになっている、ちょっとだらしないけど頑張り屋の勇者。何に対しても素直過ぎて勇者を信頼している女騎士、底意地が悪いようでお人好しの賢者。そんな風に見えていた。


 (お祖父様が肩入れする気持ちがわかる気がする)


 カノンは魔族とか人間とか関係なしに彼らに対して好感を持ってしまっている。


 「あれ?なんか画像も出てますね?」


 「え?」


 レインに言われてタダシの方を再び見ると、


 〔カノンとの実戦訓練まであと少しだな。この調子でいけば、カノンに「くっ、これほどまでに強くなっているなんて…」とか言われちゃったりして!〕


その文字の横には「くっ!」といった感じのカノンの顔が浮かんでいる。


「それにしても相変わらず不可解な妄想をする方ですね」


「…すみません、ああいう人なんです」


 なぜか謝るレインを見ながらカノンは十日前に祖父に言われた言葉を思い出していた。


                     *

                


 「カノン、二週間後にタダシと手合わせしてみい。本気でやるんじゃぞ」


 「本気で、ですか?」


 「うむ、タダシにはもう伝えてある。お互いに魔法を使うことも含めて実戦さながらの手合わせじゃ。さらにカノンは特殊能力も使ってもよい。但し、カノンは身体強化魔法を使って身体強化をするが、タダシは身体強化は禁止じゃ」


 「お祖父様、それではさすがにタダシが不利なのでは」


 カノンはタダシの技量が自分よりは上だと認めているものの、身体能力では魔族である自分がそれほど劣っているとは思っていない。その上、カノンの固有の特殊能力はかなり戦闘よりのものだ。自分に有利過ぎると思ったのだ。


 「いや、それくらいで丁度よいじゃろう。むしろそうしなければ、タダシが本気にならんじゃろう。わし相手ではタダシが本気になってもギリギリの戦いはできないが、カノン相手にこのくらいハンデをつければちょうどよい戦いができるじゃろう」


 「ですがタダシは今日から棒の修行を始めたのでしょう?二週間でいいのですか?」


 タダシを心配しているように見えて、カノンは自分の力量が低く見られていると不満を漏らしている。


 そんな気の強い孫娘に苦笑しながら、


 「十分じゃよ。別にお前を見くびっているわけではないぞ。ただ、あの勇者は期間が長いとそれに合わせてだらけるじゃろう。表面上は真面目にするように見えるがな、そういうところはあるぞ」


 「つまりタダシを本気にするために期間を短めにしていると?」


 「そうじゃ。あの勇者は理想の勇者に見えて、そういう普通の人間の弱さも持っておる。期限もなく頑張れる者などそうはおらんよ」


 「そういうものですか」


 祖父のしたり顔を見ながらカノンは気のない返事をしたものだ。


                      *


 タダシの早朝訓練を見ながらカノンは思う。


 (お祖父様はああ言っていたけどタダシは期限などなくても頑張りそうだわ。…とんでもなく見栄っ張りだから。…まあ、私は「くっ、これほどまでに強くなっているなんて…」とは絶対に言いませんからね)


 と心に誓うのだった。

次回は 052 実戦訓練 です。

作者は喜んでいます。

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