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048 ジュウベイとレイン

 タダシがカノンに旅の目的を話そうとしていた頃、レインはジュウベイと剣を交えていた。


 といっても二人とも本気で戦っているわけではなく、暇を持て余していたジュウベイがレインに相手をしてもらっていたのだ。


 山奥の森中で祖父と姉だけという退屈な日常を過ごしていたジュウベイにとって、タダシ達は久しぶりの珍客で心躍ったものだが、やがてそれが期待外れだったと知る。


 タダシは毎日のようにヒョウゴと修行をしているし、レインも普段はカノンと訓練しているし、エスケレスは「勝手に読んでよいぞ」と言われたヒョウゴの蔵書(※魔族語で書かれている。この賢者は魔族語の知識もある)をずっと読みふけっているのでジュウベイの遊び相手になってくれるものがいなかったのだ。


 ジュウベイに言わせれば(じいちゃんも姉ちゃんもずるい!タダシ達は俺が連れて来たのにさ…)ということらしい。


 今日はカノンが「用事がある」とレインとの訓練を早めに切り上げているのを見かけたジュウベイが「たまには俺ともやろうよ」とレインに声をかけたのだ。


 正直レインは魔族とはいえ子供相手では自分の訓練にはならないと思ったが付き合ってやることにした。ジュウベイの人懐っこい笑顔で頼まれるとなかなか断りにくいのだ。


 ジョウベイは短剣2本を両手に持って戦うスタイルだが、その動きはなかなか鋭い。技自体は荒いものがあるがそれを補うような素早さがある。


 右に左にと思い切りよく突いてくる短剣をレインは盾と長剣で軽く受け流している様に見えるが、その心中は見た目ほど余裕はなく、(この子に勝てる人間がポーラ王国に何人いるかしら)と舌を巻いている。子供とはいえやはり魔族は強いとあらためて思う。


 だが身体的な能力は高くても実戦経験の差で、その素直過ぎる動きをレインに読まれてしまう。


 突いてきた短剣をタイミングよく盾ではじくと、バランスを崩したジュウベイがハッとしたときにはレインの長剣がもう一方の短剣も弾いている。


 (勝ててよかった。カノンさんとの訓練をはじめてからから自分の動きもよくなった気がする)


 とレインが安堵していると、ジュウベイは小生意気な顔で話しかけてくる。


 「レインも結構強いんだね。俺が身体強化を使ってなかったとはいえ負けるとは思わなかったなあ」


 ジュウベイの言葉にレインは(そう言えば魔族は補助魔法を自分自身に使えたのよね。と言うことはまだ強くなるのね)と思い出しながら、


 「そういうジュウベイもすごいね。魔族は子供でもみんなあなたみたいに強いの?」


 「うーん、魔族って言うか上級魔族かな。かなり数はすくないけどみんな割と強いよ。中には俺とほどんと歳が違わないのに八大将になってるヤツもいるしね」


 「エイサイの事?」


 「そうそう。知ってるの?」


 意外そうにジュウベイが言うと、


 「一度戦ったことがあるのです。と言ってもエスケレスさんが一人で相手をしたんですけど」


本当はエスケレスが魔法兵に指示をしていたので一対一ではなかったがレインはそれを知らない。


 レインは自分が他の者たちと協力して八大将ゴウユウと戦い、その間にエスケレスが八大将エイサイを足止めしていたことを手短に話す。


 「へえ、あのおっちゃん見かけによらずにやるもんだね。勝てないにしても八大将と一対一で戦える人間なんてほとんどいないはずだよ」


 ジュウベイは素直に感心しているだけで、それほどの力を持っていると知っても畏怖する様子はまったくない。


 レインがその点を疑問に思って聞いてみるが、 


 「だって、レインたちは俺たちに敵意はないだろ。それに賢者のおっちゃんはじいちゃんの事を八大将と互角以上って言ってたけど、正確に言うとじいちゃんはその気になれば八大将程度なら数人一度に相手にしても勝てるくらい強いからね」


 祖父の方が圧倒的に強いからと心配していないらしい。

 

 「ところで…タダシとうちの姉ちゃんなにしてるのか気にならない?ちょっと見に行こうよ」


 野次馬根性を出すジュウベイに誘われるがレインは躊躇する。レインにとっては勇者様と自分の師匠という遠慮のある二人をのぞき見するのは抵抗がある。


 「やめといた方がいいと思うけど」と煮え切らないレインに、こちらも姉が怖いのか一人で行きたくないジュウベイが食い下がる。 


 「俺が言うのもあれだけどうちの姉ちゃん美人だし、タダシはちょっと女に弱そうなところがあるから心配なんだよね。それに姉ちゃんも魔族だけあって強い男が好きだしさ」


 「そんな!勇者様は女性に弱い事なんて…!」


 と言いかけてレインはビキニアーマーにさせられた事を思い出す。まあ、正確にはタダシがしたわけではなくエスケレスがそうしたのだが。


 そして実はサイカク戦後にタダシがあの魔法をエスケレスに教わった事を知っているのだ。


 何しろタダシの頭上に、


 〔エスケレスさんから八大将を倒したご褒美だって事で『ええ?ここまでやるの?限界セクシービキニアーマーになる魔法』を教えてもらったけど…使いたいけど…使ってみたいけど…使ったらダメだろうなあ…〕 


 というのが出ていたのを見たことがあるので、


 「…勇者様は女性に弱いですが、きちんと考えて行動できる人です」


 と言い直しているが、(おっ、ちょっと悩んでる?もう一押しかな?)とジュウベイは判断してたたみかける。


 「でもレインも気になるだろ?男はみんなスケベだってじいちゃんも言ってたよ」


 「…わかったわ。でも、ちょっとだけよ。変な事してないか確認するだけだからね」


 (そう言えば昔エスケレスさんも似たようなことを言ってたわね)と思いジュウベイの提案に乗るのだった。



                        *


 「どんな様子?」


 レインとジュウベイはタダシとカノンがいるところから少し離れた茂みに隠れているのだが、レインはいまだに踏ん切りがつかないので自分では見ないでジュウベイに様子を伺わせているのだ。


 「うーん、タダシの頭上にはいつもの模様が出てるけど…」


 人間の文字が読めないジュウベイはタダシの()()が模様に見えているらしい。

 

 「タダシはイイ顔してる。でも、話はよく聞こえないなあ」


 タダシのイイ顔という表現にドキッとするレインだが、続くジュウベイの言葉に更に驚かされる。 


「あっ、タダシの頭の上にいつもの模様だけじゃなくてなんか絵が出てきてるっ!変に長細いけど、あれはなんだろ…」


 「えっ!うそっ!?」


 と思わず小さく声を出して反応するレインだか長細いモノがまさかのヤバいモノではないかと思いそっちを見れないでいると、


 「あっ、剣か…」


 「おっ、おどかさないでよ」


 ジュウベイのつぶやきにホッと胸をなでおろすが、次の瞬間に心臓が飛び出そうになる。


 「ところで・・・そこの二人は何しているんだ?」


 「そうよ。出て来なさい」


 いつから気付いていたのかタダシとカノンがこちらを見ている。タダシはそうでもないのだがカノンは表情こそ普通だが確実に激怒しているのが伝わってくる。


 『す、すみません…』


 命の危険を感じたジュウベイとカノンは声をそろえてすごすごと茂みから出ていくのだった。

次回は 049 ヒョウゴの旧友 です

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