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040 ツキノワを後に(前編)

レインたちが『勇者の演説』の準備(T作戦)を話し合っている頃、レインに促されて作戦会議室から出たミーシャとタダシだったが、どこに行くか迷っていた。


 〔別室で休んでって言われてもどこに行けばいんだろう。俺やエスケレスさんが寝ている部屋かなあ。でも、あそこはベッドしかないし、結構狭いからな〕


 タダシの疑問(口には出してはいないが)に答えるようにミーシャは、


 「わたくしの部屋に来られますか?広くはありませんが身体を休める事くらいはできます」


 と提案する。別にタダシの疑問を知らなくても不自然ではない発言なのでタダシも気にせずに同意する。


 ツキノワ城においてタダシたちは臨時に部屋をあてがわれていたが、ミーシャはその身分から常用の私室を持っているのだ。


 きくと作戦会議室からそう離れていない場所にあるようなので、タダシはその言葉に甘えることにした。


 「どうぞ、お入りください」


 ミーシャに促されてタダシは部屋に入っていくが、その頭上には早速、


 〔ここがミーシャ姫の部屋かぁ。女の子の部屋に入るのはちょっと緊張するなあ…〕


 といつもの()()が出ているので、

 

「わたくしの部屋と言ってもここは執務室です。勇者様はそちらの椅子にかけて頂いて結構です」


 とミーシャは静かに説明する。


 あまりにも飾り気のない部屋を自分の部屋だとタダシに思われるのをミーシャの乙女心が拒否した上での発言なわけなのだが、照れ隠しのために少々冷たい言い方になっている。その言い方に誤解したタダシは、


 〔それはそうか。執務室って事は公的な場だよな。お姫様がプライベートな所に俺なんかを入れるはずがないか。ちょっと楽にしたかったけど、ダメなんだろうなあ。それに椅子を指定されたって事はそれが客人用の椅子って事で勝手に他の私物には触るなって事だろう〕


 と揃えた膝に手を置いて、タダシは勧められた椅子にかしこまって腰かけている。


 (ううっ、そういう意味で言ったのではないのです…)


 タダシに休んでもらおうと、せっかくゆったりとした作りになっているタイプの椅子を勧めたミーシャなのだが、当のタダシは肘掛けも背もたれも使わないで椅子にピシッと座っている。


 そんなタダシを見かねて、ミーシャは声をかける。


 「執務室と言っても、他に誰もいませんからどうぞ遠慮なくおくつろぎ下さい。その椅子はわたくしもよく使っていて、とても休まる椅子なのです。ぜひ、お楽な姿勢で過ごしてください。その方がわたくしも心休まりますから」


 と、くどいくらいの言い方で姿勢を崩すことをすすめると、


 「そうですか。では少し崩させていただきます」


 そう言ってタダシは少しリラックスした座り方になる。


 そんなタダシを見ながらミーシャは自分の発言からあることに気付いた。


 (他に誰もいない…って事は二人っきり!?)


 そう、ミーシャは二人っきりと言う事実に気づいた。今まではなんだかんだとエスケレスやレインが一緒にいたのでタダシと二人っきりというシチュエーションは意外となかったのだ。


 (まっ、まあ・・・。わたくし一人が気付いただけかもしれませんし、勇者様はこういうところは不自然なほど鈍い、いわゆる『無自覚ハーレム』な方かも知れませんし・・・)


 ミーシャは緊張のあまり召喚した勇者が時々言っていた変な用語を思い出しながら、いつもと同じような顔をしているタダシの頭上を見るが・・・。


 〔ふっ、二人っきりだよなあ…〕


 と出ているのを見て、


 (気付いてるー!勇者様もしっかり気付いてるー!あー、なんか知りたくなかったですー!)


 と更に二人っきりである事を意識してしまう。そんなミーシャの様子を見て再びタダシの頭上に、


 〔この様子・・・もしかして、ミーシャ姫も俺と二人っきりな事に気付いて意識しているのか?!いやいやそれは考えすぎか、相手はお姫様だもんな。・・・〕


 (意識してますー!ええ、とても意識してますとも!ズルい、こんなのズルいです!いっそわたくしの心も勇者様に見えてくれた方がよっぽど楽なのにっ!)


 考えている事が相手にわかる場合、時としてわかる側の方が苦しい事があるらしい。


 もし、タダシがもう少し女の子に慣れていればもう少しマシな状態になるのだろうが、残念ながらこの勇者はそんな器用なタイプではないのだ。


 (何か話していないとおかしくなってしまいそうです。でも、下手な事を聞くとこの方の場合、頭上に出てしまうのでその答えによってはわたくしは更におかしくなってしまう可能性もあります)


  とはいえ、とりあえず沈黙を破ろうと、


  「タダシ様はツキノワに凱旋されたあとは何をされていたんですか?」


  色々考えて当たり障りのない問いかけをするミーシャに、タダシはしばらく考えた後、


  「・・・回復魔法を使っていましたね。流れ作業的に」


  「流れ作業?」


  聞き慣れない言葉にミーシャは思わず聞き返す。


  「ついたての向こう側に負傷者がきたら回復魔法を使うっていう事をしていました。エスケレスさんが『壁の向こう側に人が来たらその気配を感じる修行』をするって言って。…あれは難しかった。なかなか気配を感じれなくて『次の方来ました』ってついたての向こう側からレインによく叫ばれてましたからね」


 たんたんと説明するタダシに思わずミーシャはズッコケて、


 「あはははは・・・。それは大変でしたね・・・」


 と乾いた声でひきつった笑みを浮かべている。


 どうやらタダシはその魔力量を活かして負傷者の自動回復装置の様な事をさせられていたようだ。ついたては()()対策だろう。


 しかし、こんな無茶苦茶な事を修行の一言で納得させらているタダシに(この方、人が良すぎて大丈夫かしら)と一抹の不安を抱くが、


 〔・・・エスケレスさんは修行って言ってたけど、なんかいいように使われていたような気がするんだよなあ。正直俺も疲れてたし、もう少し休みたかったんだけどなあ〕


 愚痴っぽいタダシの()()が頭上に出ているのを見て、


 (あっ、さすがにちょっと変だとは思っていたんですね。それが正解です)


 とミーシャは安心する。


 自分も浮世離れしている事を棚に上げて、タダシの普通の人間らしい一面を見てホッとする。今までの召喚勇者から勇者に幻滅していたミーシャはようやく召喚できたまともな勇者のタダシをそれこそ神のように過度に崇拝していたが、普通の人だと安心したのだ。


 それで緊張が解けたのかミーシャはタダシと普通に会話ができるようになる。


 また、ミーシャの緊張が解けたことでタダシもリラックスしたのか、緊張している心情を表す()()がでなくなる。


 ただ、タダシから話すことは少なくミーシャが話すことにうなずいたり、相づちをうっている。それでもかなり和やかな雰囲気になっていた。


 (この雰囲気なら聞けるかもしれない)


 ミーシャは思い切ってきいてみることにした。


 「ところで勇者様は元の世界に恋人とかいらっしゃるんですか?いえ、変な意味ではないのです。そのような方がいたらきっと心配されていると思いますから・・・」


 ミーシャは平静を装ってきいているつもりだが、目線を完全にあさっての方向に向けるという不自然な態度をしている事に本人は気づいていない。


 返事がないタダシの頭上をちらっと見るミーシャだがそこには何も出ていない。

 

  (なんでこういう時だけ()()が出ないんですか!この方は!)と内心怒りかけるミーシャだったが、


  次の瞬間に出たタダシの()()によって気付いた。


 (あっ、なるほど。・・・サイカク戦の後も回復魔法を使わされていたみたいですし、お疲れになってますよね)

 

 そう、タダシの頭上にはタダシの頭上には山ほど用意された唐揚げを嬉しそうに食べているタダシの画像が浮かんでいる。


 「今日の夕食はあれを用意させましょう」


 タダシの寝顔を見ながらミーシャは笑顔でつぶやくのだった。

思ったよりもミーシャパートが長くなったので『ツキノワを後に』は前・後編にしました。そのため後編はちょっと早めに更新します。後編は3月1日水曜日に更新予定です。その後は通常の更新頻度になります。

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