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035 激戦と冷戦

八大将の一人、ゴウユウと刃を交えるポーラ王国5人衆とレインだが、3人が前に出てゴウユウと直接刃を交えて、残りの3人が後方から魔法等で援護するという形をとっていた。


 タダシとの特訓でもイシンたちがとっていたポーラ王国5人衆得意のフォーメーションだ。本来なら前衛3人で後衛が2人なのだがレインが加わっているので後衛が3人になっている。


 ゴウの大剣、ジョノーツのレイピア、ニョリの長剣をゴウユウはその巨体に似合わない俊敏なグレイブさばきで受けきっている。


 少し離れたところからタイテンが弓で射かけて、イシンとレインが魔法で攻撃しているが、それすらも全て避け、弾き飛ばす。魔法に至っては弱い魔法は避けもせず当たるがままになっているが全くダメージを与える事ができていない。


 弱い魔法と言っても並みの人間がまともにくらえば十分致命傷になる魔法なのだが、ゴウユウのその強靭な皮膚を貫くに至らないのだ。そのため中級以上の魔法を連発しているがかわされている。

 

「悪くない、悪くないぞ!ポーラ王国5人衆とおまけの1人!」


 久々に手応えのある相手を戦えてゴウユウは歓喜の声を上げている。戦いに喜びを感じているその姿はまさに単純な戦闘マニアを思わせるが、そう簡単な相手ではないとイシンは感じ取っていた。


 『無理に攻めずに時間稼ぎをしろ』と全員に合図を送るが、その必要はなかった。


 何しろ全員(こんなヤバいの相手に攻める事などできるわけないでしょ)と思っていたからだ。


 タダシと特訓していた時には個人でこれほど強い者が存在しているのかと、改めて異世界から来た勇者の能力の高さに驚いたものだったが、ゴウユウの強さはそれすらも軽く凌駕しているように見えた。


 しかし、実際はゴウユウとタダシの間には大きな実力差はない。


 だが、この戦闘にはタダシと訓練していた時とは大きな違いがあるためにそう感じているのだ。


 ゴウユウには殺気がある。 

 

 それは『本気で戦った結果、死んでしまっても構わない』と言ったくらいのゴウユウにしてはごく弱い殺気に過ぎないのだがイシンたちは確実に生命の危機を感じていた。


 すでに前衛の全員がいくらかの手傷を負っている。ジョノーツは左腕を浅く切られているし、ニョリもゴウユウの強烈な一撃を受け止めた際に手首を軽く痛めている。ゴウに至っては戦闘には支障はない程度だが両手両足に無数の切り傷を負っている。


 「なかなかやるなあ。だが、このままでは俺の勝ち・・・おっ?」


 無傷のままで着実に前衛の3人にダメージを与えていたゴウユウは自分の勝ちが見え始めて少し退屈しかけていたが、


 「なるほど。悪くない、悪くないな」


 もう一度楽しそうに笑いだす。

 

 ニョリとゴウが後退してイシンとレインが前に出てきたのだ。

  

 フォーメーションを変える事で今までの戦いでゴウユウが得ていた戦闘のリズムを狂わせている。勝ち筋が見えていたのが変わったといってもいい。


 特に槍使いのイシンが大剣のゴウと入れ替わったことでかなり戦い方が変わっている。負傷の程度が比較的ひどい2人が下がったのも大きかった。


 まだ体力のたっぷりあるイシンとジョノーツが繰り出した攻撃でできた一瞬の隙をついて、ついにレインの長剣がゴウユウに傷をつける。


 「大したものだ!俺以外の八大将ならば数人犠牲にすれば討ち取れもしよう!ポーラ王国5人衆と守護騎士よ、悪くないぞ!」


 褒めているつもりなのか、イシンたちにとって仲間を犠牲にするという物騒な事を大声で言うゴウユウだが、

 

 (とはいえ八大将が出陣して負傷だけして何の戦果もあげれんのはさすがに芸がない。少しは土産を持って帰らんとなあ)


 考えていることはもっと不吉な事だ。


 「犠牲など出さなくとも貴様を討ち取ってくれる!」


 ジョノーツの言葉は威勢がいいが、ゴウユウはその言葉に真実がないのを見抜いている。


  (・・・理由はわからんがこいつらは時間稼ぎをしている。無理に仕掛けてくることはせんだろう。しかし、守護騎士が穴だな)


 レインの実力は他の5人と比べても遜色はないが、ポーラ王国5人衆との連携においての経験不足が響いていた。


 (土産は守護騎士の首にするか)


 お菓子でも買って帰るような気持ちでゴウユウはレインに狙いを定めるのだった。

  



                     * 



 武器が火花を散らし、お互いに傷を受ける激しい戦いをしているゴウユウとイシンたちの戦いとは対照的に、エイサイの相手をしているエスケレスはごく静かな戦いをしていた。


 いや、戦闘自体は静かだったがエイサイの絶叫が響いていたので騒がしくはあったのだが。


「なぜ、僕の魔法が防がれる!なぜ、わかるんだあああ!」


 「お前の考えなんぞお見通しってことだ」


 焦るエイサイに対してエスケレスは余裕の笑みを浮かべている。


 エイサイはその膨大な魔力を背景に数々の魔法を繰り出しているはずなのだが、それら全てが不発に終わっている。そのため全く何もせずにエイサイとエスケレスはただ罵り合って対峙しているように見えるのだが、もちろんそんなわけはない。


 エイサイの魔法を不発にしているのはアンチマジック(魔法封じ)だ。


 相手が使おうとしている魔法に対応したアンチマジックを使えば、ありとあらゆる魔法を封じることができるので一見、万能に見えるアンチマジックだが、実際に使う者などほとんどいない。

 

 相手の使う魔法を予測してそれを発動させないように、先にアンチマジックを使わなければいけないからだ。


 攻撃魔法の種類は並みの魔法使いでも30種くらいは使うし、それに対応したアンチマジックでなければ効果がないので相手の使う魔法を予測してアンチマジックを使うなど普通はほぼ不可能だ。


 「お前の考えなんぞお見通しってことだ」と先ほどエスケレスが言った様に相手の使う魔法を先読みしなければアンチマジックで魔法の発動を封じ続ける事などできないのだ。


 では、本当にエスケレスがエイサイの思考を完全に先読みしているかといえばそうではない。

 

 (さすがのわしでもエイサイが次に使う魔法を1つに限定することはできねえ。仮に発動しても致命傷にならない魔法を無視したとしてもいくつか候補が残るからな)


 エスケレスは自分は1つの魔法に対するアンチマジックを使っており、それ以外の予想した魔法のアンチマジックを周りの魔法兵たちに通信魔法で指示して使わせているのだ。そのため仮にエスケレスのアンチマジックが外れても他の魔法兵のアンチマジックで防げるようになっている。


 最初にわざわざ「わしが一人でやる」と宣言したことがエイサイにエスケレスが1人で対処している様に思いこませるのを助けていた。

 

 「くそーっ!なんでだあっ!なぜここまで考えが読まれる!」


 打つ手がなくなってやけになっていくエイサイを見て、


 (もっと怒れ怒れ。冷静になればこのからくりに気付く可能性もあるが頭に血がのぼっているうちはどうにもならんだろう)

  

 エスケレスはエイサイはまだまだ子供だと思う。もっともだからといって油断はしない。エイサイの強さはよく知っているからだ。


 (こいつにまともに魔法を使わせたらまず勝てねえからな。だが、こういうセコイ手ではわしに一日の長があるってことだ)


 自らのやり方をセコイ手と言い切るエスケレスは確かに賢者だ。相手の強さと自分の強みを理解している。


 (それにしても勇者の魔法の特訓でアンチマジックを多用していたことがこんなところで役に立つとはな。まったく何が役立つかわからねえもんだ)


 頭上に考えの出てしまうタダシには戦闘中は無心で魔法を使わせる必要があった。そうしなければ相手に次に使う魔法が筒抜けになってしまうからだ。


 そのためタダシの頭上に次に使う魔法が出なくなるように、頭上に次に使う魔法が出た時はアンチマジックで防ぎ続けるという特訓をしていたのだ。


 もちろんタダシには本当の事を言うわけにもいけないので「次に使う魔法が顔に出ているんだよ」ともっともらしい理由をつけて特訓をしていたのだが。


 おかげでエスケレスは魔法を使うときの予備動作の僅かな違いでなんとなく相手が次に使う魔法をある程度予測できるようになっていた。


 (勇者で思い出したが、まだサイカクは見つからねえのか。こっちはあまり長くはもたないぞ、勇者。姫も無茶をしねえといいが・・・)


 エスケレスはエイサイを抑えているといっても戦況を全く楽観視していない。むしろかなりまずいと思っている。


 何しろエイサイ1人にエスケレスが釘付けになり、貴重な魔法兵も数人そっちに割いている。ポーラ王国5人衆とレインもゴウユウにかかりっきりだ。当初の予定よりもサイカク軍に対抗するためのツキノワ側のかなり戦力が減っている事になっている。


 それでも開戦時に補助魔法を全員にかけていた事もあり、なんとかツキノワ側が押しているが、それはミーシャの負担を大きくすることで成り立っているのだった。



次回は 036 対サイカク戦 です。

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