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030 特訓

 エスケレスによってサイカク討伐の作戦(透明魔法で逃げられないように近づいて倒す)が発表された翌日からタダシは戦闘訓練をする事になった。


 八大将サイカクと戦う前に更に戦闘レベルを上げて、タダシがより安全に戦えるようにするためだ。


 ポーラ王国5人衆を八大将並みの強さと想定してタダシの特訓をする事になったのだが、それに異を唱える者がいた。ジョノーツだ。


「その前に一対一で手合わせ願いたい」


 (いくら勇者が強いとはいえ、あんな考えがだだ洩れの奴にそう簡単にやられるかよ)


 と思っているらしい。そしてチラチラとレインの方を見ている。


 勇者のように頭上に考えは出ていないが(レインにいいところ見せるぞ!)と意気込んでいるんだろうな、ここにいるタダシを除いた全員に思われている。


 ジョノーツは非常に顔のイイ、バカなのだ。


 そしてタダシの方はというと、そんなジョノーツの煩悩パワーに気付かないでこのシチュエーションにワクワクしていた。


 〔これってよくある異世界転生に出てくる『当て馬』って奴だなよあ。本当にいるんだな、『当て馬』。いかにも強そうなポーラ王国5人衆っていう肩書を持ってて、しかもイケメン。特に何かしたわけでもないのに俺に反感持つという『当て馬』要素もしっかり持ってるし。でも、『当て馬』って普通、序盤でてくるんじゃないのかな。勇者の反則級の強さを見せつけるために。なんで今なんだ?〕


 完全にジョノーツを『当て馬』扱いしているのが頭上に出ている。


 この世界にタダシが召喚されてから今まで突っかかって来る者がいなかったので、この世界には『当て馬』はいないと思っていたのだ。


 もちろん勇者が異世界から召喚され始めたごく初期には元気のよい『当て馬』もいたのだが、次第に勇者に理不尽にボコボコにされる事を恐れて逃げまわったり、遭遇してもひたすら低姿勢で召喚された勇者に接するようになったのだ。


 まあ、低姿勢で接していても生意気そうな顔をしたイケメン騎士は因縁つけられてボコボコにするという『当て馬狩り』が頻繁に行われていたが。


 ただ召喚が行われていたポーラ王国北部を離れて南部のツキノワに駐屯してたジョノーツはうわさでは『当て馬狩り』の事をきいていたがまだそれほど『当て馬狩り』の恐ろしさを実感していなかったのだ。


 それにタダシが人畜無害そうな顔をしているので大丈夫だと思ったらしい。それでも勇者は勇者だと言うことをすぐに思い知るのだが。


 「始めっ!」


 イシンの開始の合図とともにジョノーツはタダシの動きを予想するために頭上に視線を動かすが、その一瞬で勝負は決まっていた。


 「・・・参った」


 ジョノーツが気付いた時にはすでにその首にタダシの剣先が突き付けられていたのだ。もちろん()()は出ていない。


 レインとの戦闘訓練によってタダシは戦闘中は()()を出さずに戦えるようになっている。()()をあてにして戦うとこういう事になってしまうだろう。


 確かにジョノーツには()()を見ようという油断があったのかもしれないし、タダシがその一瞬の隙を見逃さなかっただけとも言える。だが、ジョノーツは理解したのだ。その油断を抜きにしてもタダシと自分の間に圧倒的な実力差があることを。


 それでもジョノーツはもう一度勝負を申し込む事にした。負けを認めなかったのではない。実力差を理解しながらも()()を気にしない状態で戦ってみたいと思ったからだ。


 今度はジョノーツも()()を気にせずに戦ったが、3回打ち合った後に剣を弾き飛ばされている。


 一見、圧倒的に実力差を見せつけて勝ったように見えるが、この気をつかいすぎる勇者は


 〔いっ、今のあっさり過ぎたかな・・・。でも手を抜くのも失礼だし、あれで良かったのかな?〕

 

 といろいろ葛藤があるらしい。


 そんなタダシに対してポーラ王国5人衆のリーダーであるイシンは(これほどの強さでありながら、この人の好さ。確かにエスケレス殿が『当たり』というだけはあるらしい)と納得する。


 もっともイシンはタダシの強さに感心しているだけではない。この勇者の役に立つことも考えている。

 

 「次は5人でお相手します。今度は勇者殿の修行になるでしょう」


 そのイシンの言葉に偽りはなかった。


                       *


 

 ポーラ王国5人衆は連携して戦えば八大将とも互角に戦える事を目的として集団戦闘に特化した訓練を続けていた。そのため単独で戦うよりも5人で戦う事が彼らの真骨頂だと言っていい。


 そんなポーラ王国5人衆を相手にタダシは、確かに歯ごたえを感じていた。


 身体強化をかけられたレイン相手に戦闘訓練は続けていたが、今では力の差がありすぎてかなり手加減していたのだ。今回は自らに身体強化をかけて、魔法も剣も全開状態で戦っても全く余裕がなかったのだ。


 一方、ポーラ王国5人衆の方も少なからず驚いていた。

 

 八大将サイカクが表に出てくるタイプではないので今まで八大将と直接戦った事はなかったが、密かに自分たちなら八大将相手でも勝てると自負していたのだ。


 それが勇者とはいえ、たった一人の人間相手に勝ちきれないのだ。


 この戦闘訓練は初めにイシンが言っていたようにお互いにとって確かに有意義なものだった。


 そして戦闘訓練が終わった後に、自然と感想を言う流れになっていた。


 「さすがは勇者殿ですな。このイシン、感服いたしました」


 かたい感じでいうイシンにタダシは恐縮して答える。


 「いえ、こちらも正直驚きました。皆さんの連携技にはひやひやしました」


 「そう言って頂けると嬉しいですな!ガハハハッ!」


 豪快に笑うのはゴウだ。それを見てタダシは〔ガハハハッって笑う人初めて見た・・・〕って余計な事を思っている。


 「でも、なんか勇者の戦い方って上位魔族に近いですよね。僕たちが戦ったことのある上位魔族より勇者の方が遥かに強いですけど、剣で戦いながら魔法を出すタイミングとか普通に人間にはできない感じですよ」


 天真爛漫なニョリは悪気なく言っている。


 「失礼な事を言うな。ニョリ」


 タイテンがたしなめるように言うが、


 「いえ、ニョリさんの言いたいことはわかります。俺もこの勇者の鎧を装備してから少し戦い方が変わったと思うんです。魔法を使う時の魔力の収束スピードが以前よりも格段に上がりましたから。それだけ魔法を使いながら剣に集中できるようになりました。たぶん勇者の鎧のおかげです」


 タダシは自分の戦い方が特別なものであることを認めている。


 〔でも、これって俺の力じゃなくて鎧の効果なんだろうから、正直なんかズルしてるような気分になるんだよなあ〕


 そんなタダシの()()を見てエスケレスは(この勇者は本当に自分への評価がからいな。こう、心配になりそうなほどだ)と思ってフォローの言葉を言う。


「そう謙遜するんじゃねえよ。勇者が毎日かかさずレインとの手合わせを頑張ってきたから勇者の鎧の能力を引き出させるようになったんだろ。いくら魔力の収束がしやすくなってもそれを組み入れて、実際に戦いの中で活用できているのは特訓してきた成果だろう」


 勇者の鎧を手に入れた後にエスケレスから魔王討伐のためにお互いにレベルアップするように言われたタダシとレインは旅の間も一日も休まずに戦闘訓練を続けてきたのだ。


 「まあ、そうなんですけど・・・」


 タダシの返事は歯切れが悪い。


 〔いや、俺は正直毎日は面倒な時があったんだけど、「今日はお腹が痛いから」とか言ってサボろうと思うときに限ってレインが「私、何かつかめかけている気がします!ぜひお相手お願いします!」とか言ってくるんだよ・・・そんな事言われたら断れないもんな〕


 そう、レインは勇者がサボりたいと思っているのを()()で察知して上手くサボれない方向に誘導していたらしい。この真面目な守護騎士は勇者の育成に余念がないのだ。


 サボりたくてもサボれないタダシの事情を知ったポーラ王国5人衆は(勇者も苦労してんなあ・・・)と思うのだった。

次回は 031 開戦 です。

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