029 ごほうび
「それで確かめないといけない事って何ですか?」
ツキノワの城内の一角にあるタダシとエスケレス用にあてがわれた部屋につくとタダシが早速確認してくる。
〔俺以外の人はみんなわかってみたいだからあの場ではなんか聞きづらかったんだよな〕とタダシは思っていたようだ。
「そう慌てるな。まずは準備をしなくてはな。レイン、こっちに来てくれ」
エスケレスはレインを手招きしてタダシの前に立たせると、なにやら位置を細かく指示していく。
「これから勇者に透明魔法をわしがかけるんだが・・・、ああ、レインもう少し右に立ってくれ。あと半歩・・・、ちなみに勇者ならすぐに透明魔法を使えるようになるだろうが、今回は確認のためだけだからわしが使うんだが・・・、ううん、ちょっと違うな。気持ち左にいってみようか」
レインに指示しながらなので分かりにくいが、透明魔法を使うこと自体はタダシもすぐにできるようになるようだが今回は確認のためなのでエスケレスがタダシにかけるということらしい。
「・・・まあ、こんなもんだろう。ところで・・・」
エスケレスは指示し終わると、続けてレインに話しかける。
「レイン、もう一度確認するが勇者は透明魔法を使って1人で敵陣に乗り込むという危険をおかすわけだが、そのリスクを軽減させるための協力は惜しまねえよな?」
改めて念押しするエスケレスにレインは少し緊張した顔で「もちろんです!勇者様のためなら私は何でも協力します!」と力強く頷いている。
(勇者様のリスクって頭上に出るあれの事なんでしょうですけど、でもあれが出るかの確認なんてどうやってするのかしら。何もしなくても出てるけど、感情が高ぶるとより出やすくなるからきっと何か驚かすような事をするのですかね)
そう思いながらもレインはおとなしく指示された位置にじっとしている。
そんなレインを満足そうに見るとエスケレスはタダシに透明魔法をかけるために詠唱を始める。
(この位置関係はなんなのかしら)
レインは疑問に思うがエスケレスの真剣な表情に何も言わずに黙っている。
「・・・この者の存在を消せ、クリアー!」
エスケレスの声とともにタダシの姿が消える。
「消えましたね。姿だけでなく気配も消えてます」
守護騎士であるレインはそれなりに気配を感じ取ることができるが、今は全くタダシの存在を感じていない。
「これからあれが出るか確認するぞ」
「どうするんですか?」
レインのその質問に答えずにエスケレスは再び詠唱を始める。今度は先ほどの透明魔法とは違うようだ。
やがて透明魔法よりも遥かに長い呪文を唱え終わると、エスケレス気合を込めて叫ぶ!
「・・・変化せよ、ビ・キニ・グラヴィーア!」
「ええーっ!なんですか、これぇっ!」
そう叫んでいるレインは完全防備の鎧姿からビキニアーマーに早変わりだ。しかもグラビアみたいなポーズをとっている。
「わしのオリジナル魔法で『ビキニアーマーになる魔法』だ。こんな事もあろうかと開発しておいたのだ」
「こんな事ってどんな事ですかっ!」
怒りながらもレインは自分の身体が動かない事に気づく。
「ちなみにこの魔法には追加でスタン効果もある」
無駄に有用な魔法である。どうやら詠唱時間が長かったのはそのせいもあるらしかった。
「バカな事してないで早くこの魔法を解いてください!」
「うむ。この魔法は効果時間は長くないからもうすぐ解けるぞ。術式が複雑すぎて効果時間を長くできなかったのだ。そこが課題だな」
残念そうに言うエスケレスだが、レインの身体は更に新しいポーズをとっていく。どうやら魔法の効果時間内で自動でポーズが切り替わるらしい。
そのためレインが怒りながら様々なグラビアポーズをとり続けるというシュールな光景がしばらく続くのだった。
*
「あの・・・エスケレスさん。確認したかった事って結局何だったんですか?」
レインのビ・キニ・グラヴィーアが解けた後に透明魔法を解除されたタダシが少し赤い顔で口ごもっていると、
「もちろん勇者のやる気だ。どうも勇者は透明魔法を使って1人でサイカクの元に乗り込むことに尻込みしていたようだからな。やる気がなければ人間は本来の力を発揮しきれねえからな。どうだ?やる気が出ただろう?」
〔ああ。あれってやる気の事だったんだ。確かに俺はちょっと透明になって1人で行くことを不安に思っていたもんな。確かに頑張る元気がでたかもなあ〕
エスケレスの説明にタダシは納得しかけるが、
「でも、それだけならわざわざ俺を透明にしなくても良かったんじゃないですか?」
と透明魔法を使った意図をはかりかねる。だが、そのタダシの疑問にもエスケレスは慌てず答える。
「おいおい、よく考えてみろ。もし、透明になっていなかったら勇者はビ・キニ・グラヴィーアを使った時のリアクションをレインに見られていたんだぞ?それでいいのか?」
これにはタダシは答えないが、その頭上には
〔なっ、なるほどっー!確かにレインのセクシーポーズを見てデレデレしてる姿を見られたら勇者の沽券にかかわるよな。そこまで配慮してやる気の出る魔法を使うなんて・・・エスケレスさん、神かっ!〕
と大いに納得しているあれが出ている。
透明状態でタダシのあれが出るか確認したかったのが真実だが、妙に辻褄のあう説明をするエスケレスにすっかり騙されている。
ただ、納得していたらまずいと思ったのか言い訳するように、
「いえ、そんな事しなくてもちゃんと頑張りますよ。もっ、もちろんレインに魅力がないとかではないけど」
動揺のあまりにあらぬ事を口走っているタダシがだが、
〔すごかったな・・・。普段の鎧姿からは想像できなかったけど、あんなに大きいとは・・・〕
と素直な感想が出てしまっているのを見てレインが怒り出す。
「勇者様!さっき見たのはすぐに忘れてくださいね!」
「あっ、ああ。わかってる」
そう答える勇者の頭上にはビキニアーマーでグラビアポーズをとるレインの画像に重なって〔これは永久保存版だよなあ〕という文字が同時に出ている。
(すごいな。文字と画像が同時に出るのは初めて見たな。よほど印象深かったらしいな)とエスケレスは変な事に感心しているが、レインはそれどころではない。
「ぜんっぜん、わかってませんよね?!これは悪質なセクハラ・・・」
「まあ、そんなに言うな。それにな、タダシ・・・」
なおも文句を言おうとするレインを制してエスケレスはタダシに耳打ちをしているが、その内容は隠しているはずのレインにもわかる。何しろタダシの頭上を見ればいいのだ。
〔「サイカクを倒して帰ってきた後にはさらに過激な『ええ?ここまでやるの?限界セクシービキニアーマーになる魔法』をかけてやるから」だって?!マジかー!そんな素晴らしいごほうびが用意されているなんて!〕
健全な男子高校生としてはごく一般的な反応なのだが、こういうところの隠し事ができないとタダシが可哀そうになってくる。
案の定、
「ゆ・う・しゃ・さ・ま。変な事を考えてないですよね?」
レインは『変な事』を考えているタダシにプレッシャーを与えてくる。
「もっ、もちろんだよ、レイン!エスケレスさんもこれからはレインに許可なく変な魔法をかけたらダメですよ!」
「許可ならもらったぞ。勇者のために何でも協力するってな」
屁理屈を言うエスケレスにレインが再び怒り出していたが、
〔限界セクシービキニアーマー・・・どんなのだろ?さっきのビキニアーマーだってあんなにすごかったのに『さらに過激』なんだろ?ヤバいなあ。これは絶対生きて帰ってきて見ないと後悔するな!〕
限界セクシービキニアーマーで頭がいっぱいのタダシはうわの空だった。
次回は 030 特訓 です