02 勇者の頭上
ミーシャの説明を聞き終わったタダシは大きくうなずく。
「・・・事情はわかりました。正直、にわかには信じられない事ですが俺の力が何かの役に立つなら頑張ってみようと思います!もちろん終わったら元の世界に返してもらえるんですよね?」
誠実そうな顔でミーシャに話しかけるタダシ。その言葉には嘘がないように見える。
何よりここに定住しないで元の世界に帰りたいという所が好感が持てる。
(これは当たりなのでは!)とミーシャがお礼を言いかけたその時、
〔おっしゃー!キタコレ!異世界転生きたー!いやー、ついに来たね!一度は来てみたかったんだよね、異世界!しかも勇者として呼ばれるなんてマジでラッキー!よーし、この世界のために頑張っちゃうぞー!〕という文字がタダシの頭上に浮かんできて思わずミーシャは目を見張る。
「どうかされましたか?姫」
タダシが急に動きが止まったミーシャに声をかけると、ミーシャは我に返ったように
「いえ、なんでもありません。ありがとうございます、勇者様!よろしくお願いします!」
とタダシの手を取ってお礼の言葉を述べている。
「任せてください!」
精悍な顔で答えるタダシ。(さっきのは気のせいだったのかしら・・・)とミーシャが思いかけてその頭上をもう一度見ると、
〔姫って近くで見るとめっちゃキレイだな。この世のものとは思えない。まあ、異世界なんだからこれが自然なんだろうけど、ピンクの髪でも全然違和感ないし、青い目もめっちゃ輝いてるなあ〕とタダシの頭上でべた褒めされている。
褒められたこと自体はミーシャは悪い気はしなかったが、それ以上にタダシの頭上が気になる。
「あの・・・勇者タダシ様。見えていないんですか?」
「何のことですか?」
「それなんですけど・・・」
ミーシャがタダシの頭上を指さすが、目線を上に向けたタダシには何も見えないようでその頭上には?マークが大きく浮かんでいる。
「いえ、見えないならいいのです」
「気になるなあ。あっ、もしかして『ステータス画面』ですか?召喚した姫には見えるみたいな」
タダシの言葉にミーシャは思い出す。これまで召喚した勇者たちも『ステータス画面』とかいう謎の言葉を言う者がいたが、確かそれはその人間の能力を数値化して表しているもので今タダシの頭上に出ているタダシの本心を表しているであろうものとは違うはずだ。しかし、ミーシャは
「ええ。その『ステータス画面』です。たまにご自分で見える勇者様がいらっしゃいますからね」
とごまかしている。まさかタダシの心情が頭上に表現されているとは言えない。
もし、そんな事を言ってしまったらこの『当たりかもしれない勇者』が気分を悪くして元の世界に帰りたいと言い出すかもしれないと思ってしまったのだ。
「それで俺の数値はどうなんですか?」
タダシがごくっと唾をのみながらきいてくる。その頭上には〔チート来い!〕と浮かんでいる。
数々の外れ勇者を引いてきたミーシャにはこういう時にどう対処すればいいのかよくわかっていた。すなわち勇者の望んでいることに忖度する事だと。
「タダシ様はチートです。ちゃんとチートの勇者だから安心してください」
「ちゃんとチート?・・・チートってこっちの世界でもそういう言葉があるんですか?」
〔チートって言葉を異世界の人から直接言われるとなんか違和感あるな。こういう場合って力の数値が異常だとか、魔力が桁違いとか、ありとあらゆる属性魔法に適性があるとか、そういうのでチートを表現するんじゃないの?〕タダシの頭上の言葉を見てミーシャは自分がとんでもない勘違いをしていることに気づく。
「チートとは異世界の人の事を表している言葉ではないのですか?異世界から来られた勇者様はよく『チートにあらずんば人にあらず』とまで言われていましたので・・・」
真剣な顔で言うミーシャにタダシは思わずズッコケる。
「あの・・・姫。チートって言葉は覚えなくていいです。この世界には必要ない言葉だとおもいますから」
〔とんでもない奴がいるなあ。『チートにあらずんば人にあらず』ってどこの平清盛が召喚されたんだよ!〕とタダシの頭上に平清盛のツッコミ画像が現れるが、ミーシャにはなんか知らんおっさんがいると思われただけだった。
*
「ねえ、エスケレス様、あれなんですか?」
ミーシャと話をしているタダシの頭上を見ながらひそひそ言うレインの問いに
「わからんなあ。恐らくあの勇者の本心が頭上の文字に現れとるんだろうが、そんな現象はわしも聞いたことがねえな」
エスケレスも難しい顔をして答える。
「でも、本人には見えていないんですよね?」
「そのようだな。わかっていると思うが絶対にそのことを知られるんじゃねえぞ」
レインの確認の言葉にエスケレスは人の悪い笑みを浮かべるのだった。