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027 八大将サイカク

 ポーラ王国5人衆とタダシが顔合わせをした後、すぐに作戦会議が始まった。


 タダシ以外は顔見知りなので改めて紹介する必要がないのだ。


 もともとこの顔合わせはタダシにポーラ王国5人衆を紹介するというよりは、ポーラ王国5人衆にタダシという勇者が安全な存在だとわかってもらうためのものだったのだ。


 タダシの頭上の()()のおかげでエスケレスやレインが力説するまでもなく、タダシがこれまでの召喚された勇者とは一味違うとポーラ王国5人衆には伝わっていた。


 作戦会議はツキノワの防衛責任者としてイシンが最初に口を開いた。


「皆さん聞き及んでいると思いますが、魔王軍八大将の1人サイカクがこのツキノワに総攻撃を仕掛けると通告してきたのです」


 イシンの言葉遣いはさきほどの5人衆だけで話していた時と違って丁寧だ。誰に対しても話し方の変わらないエスケレスと違って場をわきまえる人物なのだ。


 「サイカクはこれまでも何度もこのツキノワ周辺を脅かしていたのですが、ツキノワ自体に本格的な侵攻をしてくることはありませんでした。これはサイカクの性格によるものだったのでしょうが、今回は総攻撃は2週間後、その際には自らも前線に立つと宣言しています」


 「そりゃあ、嘘だな。あの小賢しいやつが前に出てくるはずがねえ。前線どころかどこにいるかわからないような安全圏に常に隠れているようなやつだからな」


 八大将に詳しいエスケレスがすぐにちゃちゃを入れるが、イシンも生真面目な顔でその言葉にうなずいている。

 

 「ええ。私もそう思います。恐らくは前線に立つのは虚偽でしょう。ですが、サイカクが総攻撃を仕掛けてくると宣言した事ですでにツキノワには影響が出始めています。民衆に不安が走り、物流にも支障が出始めています」


 「なるほどな。それでわざわざ期限を長めにして宣言してきたってわけだな。そうすることで長期間に渡って悪影響を及ぼすことができるからな」


 普通に考えたら総攻撃をするのに2週間も前に勧告する必要はない。そんな事をしたら相手に防備を固められるだけだ。特に人間同士ならまだしも、人間から奪うことしか考えていない魔族がそんな回りくどい事をする必要はない。


 訳知り顔で腕組みをして説明しているエスケレスにイシンも同意する。


 「はい。我々5人もそう結論づけています」


 〔ああ、それでツキノワ城門前が閑散としていたのか。レインがいつもは混雑していると言っていたもんな〕

そう言ってタダシがレインの方を見ると目が合う。


 「勇者様は何かご意見がありますか?」


 意外と観察力があるとタダシに感心しながらレインが話を振ると、


 「うーん、俺はまだ魔王軍についてよく知らないからな」


 意見を言おうにも情報が少なすぎると答えるタダシだがその頭上には〔長期的に牽制することでこちらを困らせるつもりなら、いっそこちらから攻め込む事も考えた方がいいじゃないかな〕と出ている。


 そんなタダシの()()について(別に的外れな意見というわけでもないのですから、どうせなら思っている事をそのままおっしゃればいいのに)とレインは思うが、それはレインがこの世界の人間だからだろう。


 1人だけ違う世界から来たタダシの境遇からしたら、軽々しく意見を言う事に不安を覚える事もあるのだ。


 もっとも、この勇者の場合は意見を口に出して言わなくてもしっかり伝わっているが。


 「魔王軍についてと言うよりはサイカクについてもう少し詳しく話してやろう。魔王軍と一口に言ってもそれを率いる八大将はそれぞれで侵略の仕方が違うからな」


 エスケレスが賢者らしく知識を披露する。


 「サイカクのやり方はある程度の自軍の戦力が整うまで防衛に専念している。そして余分な戦力が出るようになるとその戦力だけを投入してくる。仮にその侵攻が失敗しても十分立て直しができるくらいの戦力を本拠地に残したままでな。だからわしがさっきあいつは前線に出てこねえって言ったのだ」


 「なんかセコイですね」


 「ああ、セコイ。だが、それだけに厄介だ。後先考えずに攻め込んでくるようならいくらでもつけ入る隙があるが、サイカクのやり方は気持ち悪いくらいに堅実だからな」


 「やつのやり方には我々も苦汁を飲まされています」


 イシンはいまいましそうに言う。守るならまだしも攻めるには難しい相手なのだ。


 「そんな奴が全軍で総攻撃をしてこようってんだ。もし事実なら相当の戦力を用意しているんだろう。普通ならかなりヤバい状況だ。普通なら。な」


 わざと含みのある言い方をするエスケレスに全員注目する。何か考えがあるらしい。


 皆の視線が集まったところを見計らって、


「運がよかったな。なんせこっちには今は勇者様がいるんだからな」


 普段は勇者に様付けしないエスケレスがニヤリとする。


 「勇者殿はそれほど強いのですか?」


 イシンの疑問にタダシは〔ほとんど実績のない俺を勇者と言われてもなかなか認められないよね〕と思うが、


 「いえ、勇者殿の強さを疑うわけではないのですが・・・」


 とイシンは思わずタダシの()()に反応してしまう。むしろイシンは今までの召喚された勇者から威力が大きすぎて味方を巻き込むような事をするのではないかと心配しているのだ。


そんなイシンが余計なことを言うのを遮るように、 


「タダシは強いのは強いが、それよりも重要なのは勇者にしかできねえ事がある事だ。サイカクを倒すには勇者にそれをしてもらうしかねえんだよ」

  

 そう言ってエスケレスはもう一度ニヤリとするのだった。

次回は 028 透明魔法 です。

・・・サブタイトルで出オチ感がありますね。

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