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025 ミーシャ再び 

 「あれがツキノワですか」


 遠目に見えてきたツキノワは城塞都市の名の通り四方が高い壁で囲まれていた。


 「ああ、そうだ。城門での手続きは普通なら少し時間がかかるが、わしがいれば大丈夫だろう」


 「ツキノワは大きな都市ですから人の出入りも多くてかなり混雑するんです」


 エスケレスたちはポーラ王国の要職にいるのでこの辺は顔が利くらしい。


 やがてタダシ一行はツキノワの城門の前近くにたどり着くが、特に混雑している様子は見られない。

 

 「変ですね」


 レインが少し警戒するようにエスケレスを振り返ると、


「わしが様子を見てこよう。勇者たちはここで待っていてくれ」


 とエスケレスはタダシ達を残して一人で城門に向かっていく。元々タダシ達を残して一人で行くつもりだったがちょうどいい口実ができたと思ったのだ。


 エスケレスが城門にいた兵士に二言三言言うと、兵士は慌てて奥に入っていくと上官である男を連れてきていた。その男と少し会話した後にエスケレスは兵士を連れてタダシとレインの元にもどってくる。


「こいつが案内してくれることになった。いいか、勇者の動向は国の最高機密だ。さっき言った通りにしてここで見たことは一切もらすんじゃねえぞ」


 とあらかじめ説明した兵士に釘をさすのを忘れない。エスケレスいわく「勇者の方を見るな。見るにしても足元を見ろ。首より上を見たら場合によっては記憶操作をするからな」と。

 

 すこしビクビクしている兵士の先導でタダシ一行は城門の裏手にまわると、そのままツキノワの中心部にある城に秘密の通路を使って案内される。できるだけタダシを他の者に見せない配慮だ。

 

 城に入るとすぐに小部屋に案内された。これもエスケレスの指示通りだ。


 タダシ達がそこでしばらくくつろいでいると一人の美少女が入ってくる。


 「タダシ様。ご無事でなによりです」


 上品に頭を下げたのはポーラ王国の王女であるミーシャその人だった。


 「ミーシャ姫。お久しぶりです」


 タダシは落ち着いた様子で答えているが、〔しばらく見てなかったけど、やっぱり、ミーシャ姫ってかわいいよなあ~〕と()()が出ている。


 それを見てミーシャは頬を薄く染める。本当は飛び上がるほど嬉しいのだが、タダシの()()には反応しないようにエスケレスに強く言われているので抑えているのだ。


 表面的には冷静に対応しているくせに、本心ではミーシャに会ったことでテンションを上げていて、しかもそれがミーシャに伝わってしまうのがタダシの()()のたちの悪いところだ。


 (こんなの絶対好きになってしまいます!)


 この男運の悪い姫は完全にタダシにメロメロになっているが、それを抑えて威厳を持った声でタダシに語りかける。


 「勇者の鎧を手に入れたとききました。順調に旅が進んでいるようで安心いたしました」


 「勇者の鎧の事を知っているのですか?」


 そう答えながらもタダシの頭上には〔ミーシャ姫はかわいいなあ・・・〕と浮かんでいるのを見てミーシャはにやけそうになるが何とか我慢する。


 「ええ。エスケレスから時々通信魔法で旅の様子を聞いていましたから。他にもオークの群れを退治して村を救ったり、勇者の証を手に入れた話もききました。本当にタダシ様は素晴らしい勇者様です」


 ミーシャは自然に褒めているつもりだが、はたからみたらその好意が丸出しだ。


 さらに言えば(私の事を普通にかわいいと言ってくれる。こんな勇者様がかつていたでしょうか・・・)と感動している。


 召喚した勇者に頑張ってもらうためにミーシャは心から勇者たちに尽くしてきたのだが、それがあざとい、胡散臭い、と裏表のある嫌な女扱いされてきたのだ。


 中にはかわいいと言ってくる者もいたが、そういう者は露骨に肉体関係を要求してくるだけだったのだ。

 

 もっともミーシャに触れる前に元の世界に強制送還されていたが。そんなミーシャが純粋に自分を可愛いと思ってくれるタダシに惚れるのも無理はない事だった。


 「姫様はいつここに来られたのですか?」


 タダシの質問にミーシャはハッとして我に返ると、淑やかな口調で答える。 


 「三日前です、私は転移魔法で来たのです」


 〔転移魔法?そんないいものがあるなら俺たちもそれで移動すればよかったのに・・・〕と今まで徒歩で移動していた事にタダシは合理的な若者らしい不満をもつ。

 

 「前にも言ったが補助魔法は自分自身に使えねえんだよ。普通はな。転移魔法も補助魔法の範疇に入るからミーシャも他のやつに魔法をかけてもらってここにきてるんだよ」


 エスケレスの解説に〔え?俺の考えが顔に出ていたのかなあ〕とタダシはその考えを頭上に出している。


 「ですから私も帰りはこのツキノワの魔法使いに転移魔法をかけてもらうのです」

 

 ミーシャはそれに気づかないふりをして付け加える。


 「それだったら俺たちも他の人に転移魔法を使ってもらえば良かったんじゃないですか?」


 今度は声に出して疑問を言うタダシ。どうせエスケレスに見抜かれるなら直接言った方がいいと思ったらしい。

 

 「転移魔法はそんなに便利なものでもねえんだよ。こうやって拠点間で使うのは問題ないが、いろんな所を旅するのには不向きだな。

 王城からの旅立ちの時なら王城の魔法使いに頼めばいいだろうが、その後の場所でわしがタダシ達を転移させたとしたらわしが一人その場に残される事になるだろ。術者本人には使えねえんだからな。

 まあ、タダシは補助魔法である身体強化を自分自身に使えるから、術者本人にも使えるかもしれないが、転移魔法は一度行った事のある場所にしか転移できねえから、この世界を旅したことのないタダシにはあまり意味のねえ魔法だな」


 「そうなんですね。魔法っていっても万能ではないんですね」


 エスケレスの説明にタダシも納得している。


 「しかし、転移魔法を使ってまで姫がここにいるって事は何かあったのか?」


 ミーシャはその魔法力の高さから戦闘に参加することが多々あるが、基本的にはポーラ王国の中心部にある王城にいるのだ。


 エスケレスの問いにミーシャは顔をこわばらせて答える。


 「はい。実は八大将の1人サイカクがツキノワに総攻撃を仕掛けてくると予告してきたのです」

 

 「そりゃあ・・・面倒な事になったなあ」


 いつも適当な顔をしているエスケレスも険しい顔になっている。レインも同様だ。


 どうやら八大将サイカクはかなり厄介な相手の様だった。


 そしてタダシもよくわからないまま真剣な顔つきになっていたが、その頭上には巨大な三角形が浮かんでいるのを見て、


 (勇者様、それはサンカクです) 


 と全員が心の中でツッコミを入れていた。

次回は 026 ポーラ王国五人衆 です

しばらく週一回土曜深夜更新になります。

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