024 城塞都市ツキノワ
「あの、レインさん。こんなもんでどうでしょうか?」
「うむ、くるしゅうないぞ、タダシ様」
タダシがレインの肩をもみながらご機嫌をうかがうと、レインは鷹揚にうなずいている。ただ、偉そうにしながらもタダシをしっかりと様付けで呼んでいるところがレインらしい。
しかし、その様子は完全に従者と主人のそれだ。いつもと立場が逆転しているが。
この二人がなぜこんな事になっているかというと、しばらく前に時を戻さなくてはいけない。
*
数時間前・・・。
街道を歩きながらタダシはエスケレスに質問していた。
「ツキノワってどんな町なんですか?」
ポーラ王国の城下町以外のこの世界の大きな町を知らないタダシはこれから訪れる城塞都市ツキノワに興味津々だ。
もっとも城下町も城から眺めていただけで出歩く事は禁止されていたので実質的にこの世界の町を見るのは初めてだと言っていい。
「ポーラ王国第三の都市で、南部の都市では一番大きいな。魔王軍に対抗するための城塞都市としての機能もあるから王都に次いで兵士も多く軍事力も高い。店や様々な施設も揃っているし、この世界にある一般的な物は全てあると言っていいだろう」
エスケレスの説明に「へえ、大きな町なんですね」とタダシは答えながら、もちろんいつものように他の事を考えている。
〔様々な施設・・・なんだろう。やっぱり異世界では定番のエッチなお店とかもあるんだろうか・・・〕と頭上に浮かぶ。タダシも思春期の男子なのでついついそんな事を考えてしまうのだ。
それを見たレインが険しい顔をしているとも知らずに、
「店ってどんなものがあるんですか?」
と『様々な施設』には興味がないような顔をしてエスケレスにきいている。
もちろんその頭上には〔まず店の話からきいてから、それから自然に様々な施設の話に持っていこう〕とアホな計画を立てているのだが。
「武器屋や防具屋、道具屋はもちろん錬金屋や魔法道具専門店もあるぞ。その他の店もその辺の町とは段違いの数があるな」
タダシの計画をあれで知っていながらあえて店の話しかしないエスケレス。あくまで自分から話をふらせようとしている。
「ちなみに施設はどんなものが?」
ついでのようにきいているタダシだが、あれでそれがメインなのはバレバレだが、
「図書館や美術館、博物館や歴史的に価値のある建造物もある」
エスケレスはわざとお堅い施設ばかりをあげて、タダシの残念そうな顔を見てから
「カジノもあるぞ」
とレインが怒らない範囲の施設を付け加える。レインの形相にエスケレスも少しひよった様だ。
「カジノですか」〔カジノかあ。バニーガールとかいるのかな?これもゲームでは定番だよな。なんだかんだでミーシャ姫からもらったお金はほとんど使っていないからちょっと遊んじゃおうかな~〕とあれが出ているの見てレインがくぎを刺す。
「カジノはダメですよ。勇者様」
〔勇者がカジノは倫理的にダメか〕とタダシは素直にあきらめかけるが、
「勇者様は賭け事に向いていませんから。絶対に負けますよ」
レインのさとすような言い方にタダシは少しムッとする。
同い年のレインはタダシにとって友達の様な感覚になってきているのでレインに対してはこんな素直な反応をするようになっていた。
レインの方も同様で相変わらずタダシを勇者として尊敬しているが、その認識は当初よりは少し変わってきており「勇者様は世間ずれしているところがあるから、手のかかる弟みたいです」とエスケレスに話していたことがある。
この場合、世間ずれしているというよりは異世界ずれしているという方が正しいかもしれないが。
ただ、その時のエスケレスは「そうだな」と短く答えていたが(お前さんの世間ずれも相当なものだがな)とこの身分の高い貴族出身の守護騎士も人の事は言えないと思っていたものだ。
そんなわけで頭ごなしに否定されたタダシは思わずレインに反発する。
「負けるとは限らないだろ。俺は結構カードゲームとか強かったんだから」
「じゃあ、私と勝負してみますか?一度でも勝ったらカジノで遊んでもいいですよ」
とレインもあおるような言い方をしてしまう。
「いいぜ。やってやろうじゃないか。真剣勝負だぞ。負けたからって後で手加減してたって言わないでくれよ」
タダシはあくまで自分が勝つつもりだ。
「そこまで言うのなら勝った方がなんでも相手の言う事を何でも聞くことにしましょう。その方が賭け事らしいですから」
「よし、わかった!」
その後タダシはレインからこの世界の代表的な賭け事で使われるカードゲームの説明を受けるが、レインが驚くほどタダシは飲み込みが早かった。
「つまりカード組み合わせて得点の高い役を作ればいいんだな?」
〔ちょっとルールは違うけど要はポーカーみたいなもんだな〕とどうやらタダシの世界にも似たようなゲームがあるようだ。
それにしてもその理解の速さは確かにタダシがカードゲームが強いと言っていただけのセンスは感じさせた。役もすぐに覚えたし、それを作る時の組み合わせ方もとても初心者のそれではなかった。
何のハンデもなければタダシは本当にこの世界の賭け事に強かったかもしれない。
実際、レインとの勝負が始まるとタダシは見事なポーカーフェイスでその表情からは何も読み取らせない。その表情からは。
しかし、その頭上にはタダシの考えがあれで全て表示されているのだ。
・・・結果、タダシはレインの肩もみマシーンと化したのだった。
*
「あー、そこそこ。いいですぞ。タダシ様」
いい調子で肩をもまれているレインは気づいていないが、タダシの頭上には〔なんか年の近い女の子の肩をもむのってなんかドキドキする・・・〕と出ている。
それを見たエスケレスは
(レインはいかがわしい店に勇者が興味を持たないか心配していたが・・・この程度でドキドキしてるようなやつなんだよ。こいつは)
と呆れるのだった。
次回は 025 ミーシャ再び です