022 次の目的
巨大だった勇者の鎧をある程度の大きさに仕上げたプッチ村長は今度はタダシの採寸を始めている。
「勇者様は今何歳ですかな」
「17歳です」
「ふむ、人族ではまだ成長する年ですな。少し大きめに調整しておきましょう」
「ありがとうございます」
そう答えながらタダシが〔なんか制服合わせ思い出すな〕と思っていると、
「これで完成です。この鎧を付けていれば勇者様の防御力は劇的に高まるでしょう」
とプッチ村長が誇らしげに大きさを調整し終わった勇者の鎧を見ている。
その様子を見てタダシはふと思いついたように
「レインとエスケレスさんの装備もここで揃えませんか?獣人たちは物質加工の魔法を得意としているなら掘り出し物があるかもしれませんよ」
と、軽い感じで提案しているが〔RPGとかしてるとついつい自分のお気に入りのキャラの装備を優先して揃えちゃうけど、実際に旅してる時に一人だけあからさまに優遇するのはマズイよなあ。しかもそれが俺自身って完全にヤバいやつじゃん・・・〕といろいろ考えての発言である事があれでわかる。
レインが返事をする前に、プッチ村長が張り切った様子で獣人たちに指示をする。
「そういう事でしたら早速村の商人たちに用意させましょう。皆、聞いたとおりだ。準備にかかってくれ。なーに、お代は結構ですので」
「いえ、そういうわけにはいきません。旅の資金は十分にありますので大丈夫です」
村長の申し出にタダシは凛として答えているが、その頭上に一瞬〔ラッキー!・・・いやいやダメダメ!〕と浮かんでいたのをエスケレスたちには見えていたのだった。。
*
タダシ一行が装備を整えるときいて獣人たちは広場に即席の店をひろげている。
それぞれが鎧や盾などの自慢の品物を並べてタダシ達にアピールしている。どれも一見して普通に人間の街で売られている装備より高性能の物であることが分かる。なにしろ勇者様一行の装備だ。いい加減なものでは相応しくないと考えている獣人たちも気合を入れているのだ。
それこそ普段は売りに出していない物もでているのか、中には埃をかぶっているような年代物もあってタダシ達は目移りしてしまうが、レインはある店の前で立ち止まる。
「ここがいいんじゃないですか?」
レインが指差す店にはやたら年季の入ったのぼりが出ており、なにやら人間の文字で書いてある。
当然この世界の人間の文字なのでタダシには読めないが、最近『勇者』の単語は覚えたのでそこだけは読める。
「これ、なんて書いてあるんだ?」
嫌な予感がしながらレインにタダシがきくと、
「これは『勇者ポイント10倍セール実施中!!』と書いてあります。ここで決定ですね!」
レインが鼻息を鳴らしているのをタダシは〔勇者ポイント・・・〕と少し引いた顔で見るが、
「私の店で選んでいただけるのですね!」
と狐の獣人が嬉しそうに近づいてきたので〔ここにするかあ。まあ、どこでもよかったし〕となんとなく決めてしまう。
そんなタダシのあれを読むことができない狐の獣人は自分の店が勇者一行に選ばれた事がよっぽど誇らしいようだ。
きいてもいないのに店先に飾っていたのぼりを指して、
「実はこののぼりは我が家に代々受け継がれてきた由緒正しきのぼりなのです。我が家の言い伝えでは勇者様を引き寄せる力があると言われていたのですが、正直眉唾ものだったのです。しかし、まさにその通りだったわけで私も驚いているところです!」
と店主の狐の獣人は心底嬉しそうにもみ手をしながら説明してくる。
肩をすくめながら話しかけてくるその様子はいかにも商人と言った感じだ。
「ちなみにこののぼりには何と書いてあるのですか?人族の文字で書いてあるのはわかるのですがその意味までは伝わっていないのです。私も今まで大事にしまっていたので出すのは初めてでして・・・」
遠慮しながらも期待の眼差しで訪ねてくる店主にタダシは、
「・・・『勇者に奉仕します』そんな意味の事が書いてありますね」
少し目をそらしながら答えるが、狐族の店主はタダシの気まずげな様子には気付かないで、
「おおっ、さすがは我がご先祖様!商人ながら勇者様のお役に立つという志をしっかり持っていたのですね!私ももちろん勇者様に良いものを極力お安くお譲りして奉仕させて頂きますぞ!」
とコンコンと興奮している狐の店主を暖かい目で見るタダシの頭上には〔う、嘘はいってないよな?意訳しただけだし・・・〕と狐の店主の興奮具合に焦っている様子が出ている。
だが、狐の店主の言葉には嘘はなかったようでレインの鎧と盾は「これがこんなに安くていいんですか?」とレインが驚くほどの値段で提供してくれた。
守護騎士であるレインの装備は元々かなり高価なものだったが、獣人の魔法で作られた鎧はそれを超える性能を持っていたのだ。店主いわく「市場に出回ることはないレベルの装備」ということなので普通なら金を出しても買うのは難しい代物なのだ。
「エスケレスさんはどうしますか?」
「わしはいいよ。重い装備をつけると動きにくくてしょうがねえ」
「でしたらこちらの胸当てなどどうでしょうか?胸当てなので動きを阻害しませんし、獣人魔法で軽さを調節していますので防御力のわりにすごく軽いですよ。もし、目立つのがおいやでしたらローブの下にでも装備できますし」
と店主は抜け目なく勧めてくる。どうしても勇者一行に役立ちたいという気持ちが強いらしい。
その様子にエスケレスも「じゃあ、それをもらうよ」と苦笑しながら答えるのだった。
*
レインとエスケレスの装備を整えていよいよタダシ達は次の目的地を決める事にした。
「次はどの勇者様の装備にしますか?」
「ここからだと今度は剣か盾だな。どっちも同じくらいの距離にあるな」
レインの問いにエスケレスが答えているとタダシが口を挟んでくる。
「それなんですが・・・装備を集めるよりも魔王軍を倒す事を優先しませんか?」
〔確かに装備を集めると俺自身は強くなれるけど、本当にそれでいいんだろうか。その間に魔王軍と戦って早く世界を平和にした方がいいんじゃないかな〕
タダシは獣人たちに勇者のとしての活躍した話を期待されたときに、自分はそれほど勇者らしいことをしていない事に改めて気付いたのだ。
戦歴としてはオーク軍団を倒しただけだ。
それだけでも今までの勇者に比べると被害を出さずに平和に貢献しているのだがタダシはそう思わないらしい。
〔俺は勇者として自慢話をしたいわけじゃない。・・・いや、ちょっとはそういう気持ちあるんだけど。でもそれ以上に皆の期待にこたえたい。ん?でもこれってやっぱり自慢したいのかな?とにかく俺は異世界に来て勇者だって言われても浮かれていたんだ。もっとちゃんと考えないと〕
エスケレスたちに言われるままの道筋を通って来た事に疑問を抱いたのだ。
だがそんなタダシのあれを見て
(いえ、タダシ様ほどこの世界に来て浮かれていない異世界人はこれまでいなかったんですが)とレインは思い、
エスケレスは(やっぱりこのままじゃあ、こいつは死んじまうなあ・・・バカ真面目過ぎる)とタダシの責任感の強さを心配する。
エスケレスはため息交じりに、
「勇者よ。あせる気持ちはわかるがわしの見立てでは現状のお前さんの強さじゃあ八大将とどっこいどっこいって所だ。その鎧の性能も含めてな。それでも人間の中じゃあ破格の強さだが、八大将も色んなタイプがいる。相性が悪ければ最悪一対一でも負けるだろう。やつらもバカじゃねえからお前の存在が脅威になれば八大将が複数で来ることもあるだろう。そうなったら今のままじゃあまず勝てねえぞ」
諭すように言われてタダシは
「・・・強くならなくてはならないんですね」
「ああ。そして強くなるために一番手っ取り早い方法が勇者の装備集めだ。遠回りに見えて一番の近道だ」
「そうですね。わかりました」
〔確かに修行なんかで強くなるよりも装備で強くなるほうが早いか。そう簡単にレベルアップなんてできないよな〕
と納得している。
タダシのその様子を見てレインも決意する。
「私も強くなります!」
「そうだな。せめてレインも八大将1人と対等に戦えるくらいにはならねえとな。タダシは八大将の半分と同時に戦えるレベル。それが魔王と戦う最低ラインと言ったところだろう」
エスケレスのダメ出しにレインがふと疑問に思う。
「あの・・・エスケレスさんは?」
「わしはおっさんだからそんなに強くなる余地はもうねえよ。お前たちが強くなるしかねえな」
エスケレスは平気な顔で答えている。
〔エスケレスさんは正直だなあ〕というタダシのあれを見てレインは(エスケレスさんを正直だと思うなんて・・・初めてだわそんな人)と少しあきれている。
そんな事を思われてると知らずにタダシは話を次に進める。
「ところで装備集めですが・・・剣の方がやや近いように見えますが」
控え目な表現でタダシは言うがその頭上には
〔絶対剣だろ!防具ばっかり揃えるよりも先に伝説の武器!けーん、けーん!)
と分かりやすくその主張が出ている。
どうせ勇者装備を集めると決まったからには剣がいいらしい。
「・・・剣からですかね」
「そうだな、剣から行くか」
いつものあれを見たことでレインもエスケレスもなんだかホッとしたのだった。
一章は以上で終わりです。
次回は 登場人物紹介 一章まで です。
その次から2章が始まります。