021 獣人の魔法
歓迎の宴をしていたタダシたちの目の前に突如として出現した鎧。
『本物』と漢字で書かれた立札まで一緒に出てきたのでこれが勇者の鎧で間違いはないのだろうが、指摘したようにタダシには大きすぎた。
というか人間には大きすぎるのだ。
現れた勇者の鎧は鎧というよりはほとんど小さな家くらいの大きさがある。
〔歓迎の宴ってこの鎧を歓迎していたって事か。それにしても・・・。何しているんだろう?〕
タダシが疑問に思っているのは鎧が出て来てからの獣人たちの行動だ。
出現した巨大な勇者の鎧にまるでアスレチック遊具の様に獣人の子供たちが我先にと群がっている。
よく見たらプッチ村長も参加していて、どうやら子供だけではなく獣人たち総出で勇者の鎧で遊んでいるようだ。
勇者の鎧は色んな飾りつけがしてあり、それがギミックのようになってこっちを押したらこっちが動くといった機能があるのだ。飾りの一つを獣人の一人が抑えると、反対側の飾りが動いてそこにつかまっていた獣人が歓声を上げて喜んでいる。
「楽しそう・・・」
レインは思わずつぶやいた後にタダシの方を見たら〔面白そうだな・・・〕とやはり興味を持っている。
一方、エスケレスは難しい顔で見ているので(エスケレスさんはおじさんだからなあ。こういうのはあまり向いてませんよね)とレインは失礼な事を考えている。
エスケレスは気乗りしないようだが、あれからも分かるようにタダシも遊びたそうなので、
「勇者様、私たちも・・・」
とレインがタダシを誘いかけたが、
「・・・あのなあ。あれは遊んでいるんじゃねえぞ」
ため息交じりに二人に冷や水を浴びせるのはエスケレスだ。
「おそらくあの鎧の寸法を測ってるのさ。それと鎧についている仕掛けの確認だろうな」
エスケレスは獣人たちの行動からそう読み取ったようだ。しかし、タダシはエスケレスの推察に納得できない。
「寸法を測るって、あの鎧はどうやっても俺には装備できませんよ」
178cmあるタダシは17歳の高校生2年生にしては背が高い方だが、とてもではないがこの鎧は装備できない。
そんなタダシの声が聞こえたのかプッチ村長が勇者の鎧の上から声をかけてくる。
「心配はいりません。我らに任せてもらえば問題ないのです。我らの魔法を使えばタダシ様に合うサイズにできるのです。この魔法こそが我らが先代の勇者様にこの鎧の管理を任せられた最大の理由なのでしょう」
「そういえば獣人たちは物質加工の魔法に長けていたな。人間との交易でもそういった工芸品を取引しているし」
プッチの言葉から思い出したようにエスケレスも説明してくる。
「そういう事です。この大きさで鎧の仕掛けを確認した方が細かく見ることができますからしばらくお待ちください。この勇者の鎧には敵の攻撃を受け流す様々な機能が付いているようです」
加工技術に優れている獣人たちは勇者の鎧には仕掛けがあるのをすぐに見抜いて、それを確認するために鎧に飛びついたようだ。
「しかし、サイズは小さくなっても物質の重さは変わらねえはずだからタダシが装着したら重さで動けなくなるんじゃねえか?」
エスケレスの当然の疑問に、
「その辺は魔法ですからな。サイズを変えても重さは丁度良く仕上げる事ができるのです」
当然のように答えるプッチ。
〔いやいや、さすがに都合よすぎないかな?魔法って言えばなんでも通るなんて・・・〕とタダシの頭上に浮かぶが、
「魔法なら仕方ねえな」
「魔法なら仕方ないですね」
とこっちの世界の二人がすぐに納得しているのを見て、
「魔法なら納得です」
とタダシもしたり顔で軌道修正している。この世界の常識を知らないタダシが勇者として的外れの意見を言わないようにエスケレスたちはこうやってあれを見ながら密かにステルスアドバイスを送っている。
ただし、この方法は獣人たちのようにタダシの文字が読めない相手にだけ使える手だ。
この先、同じ文字を使っている人間相手になってくるとこの手は使えない。
(まあ、獣人ほど人間は勇者に強い憧れを抱いていねえから多少常識外れでも大丈夫か。あいつらよりよほどましだからな)
素行の悪かった今までの勇者もたまには役に立つなとエスケレスは思うのだった。
次で一章のラストです。 次回は 022 次の目的 です。
次回更新は水曜日ではなく土曜日になります。