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020 歓迎の宴

「これがニセモノか。賢者のわしでもわからなかったのに、勇者はよく見抜いたなあ」


 エスケレスは偽物の鎧をポンポンと叩きながらしみじみと言っている。


 タダシがこの鎧をニセモノだと見抜いた理由を()()で知っているくせにエスケレスは茶番をはじめようとしていた。


 「本当になんとなくわかったんですよね、これは違うって」


 「勇者の勘ってやつか?それがなんとなくでもわかるってのが、真の勇者って事だよなあ。」


 「真の勇者って・・・俺なんてまだまだです」


 「おいおい、謙遜するなよ。まあ、その控えめな所も勇者のいいところだな。すごいのに偉ぶらないなんてなあ」


 「そんな事ありませんよ」


 エスケレスにおだてられてタダシは少し困った顔をしている。


 その様子ははたから見たら普通に照れているように見えるが、その頭上に出ている文字には〔・・・べっ、別に悪い事してないよね?俺?ほら、勇者のイメージって大事だよね?だって「いやあ、実は俺の国の言葉でニセモノって立札に書いてあったんですよー」って言うよりは「勇者の直感でわかった」って言う方がみんなの勇者像を壊さないですむし。・・・でも、実際は嘘なんだよなあ。こうやって嘘に嘘を重ねていくとどんどん取り返しのつかない事に・・・どーしよ〕とその文字が読める者(エスケレス、レイン)には少しどころか、タダシがめちゃくちゃ追い詰められているのが丸わかりだった。


 そんな真面目に考すぎるタダシの苦悩を見かねてレインが助け船を出す。


「エスケレスさん、余計な話はそれくらいにして本題に入りましょう。私たちは勇者様の鎧を受け取りに来たのですから」


「いいところだったんだがなあ」

 

 本気で残念そうに言うエスケレス。


「守護騎士殿は勇者様に厳しいですな。少しくらいはほめてもいいのではないですかな」


 事情を知らないプッチからしたら、勇者を手放しでほめていたエスケレスをレインが甘やかさないようにと諫めたように見えたようだ。事実はエスケレスがタダシをからかっているのをレインが止めただけなのだが。


 「いえ、確かにこんな事に時間をつかっている場合ではないですから。プッチ村長。本物の勇者の鎧はどこにあるのですか」


 〔助かった~。レイン、ナイスプレ―!〕とタダシは話を切り替えている。


 しかし、プッチは少し言いにくそうに切り出してくる。


 「・・・実は勇者の鎧はここにはないのです。こうやってニセモノを飾っているのも先代の勇者様からの指示ですが、我らも本物を見た事がないのです」

 

 「どういうことだ?」


 プッチの言葉にエスケレスが疑問の声を上げる。


 「本物の勇者の鎧を引き渡す前にしなければならない事があるのです」


 「なんですか?それは?」


 タダシの質問にプッチは神妙な顔をして一言で答えた。


 「歓迎の宴です」


                        *


 夕方、獣人の村の中央広場には宴の準備が整えられていた。


 主賓であるタダシ達の前には様々な料理が並べられているが、真ん中に作られた祭壇の上にはそれ以上に捧げものが所狭しと並べられている。

 

 さっそくプッチが歓迎の宴の説明をしてくる。


 「我らの予言にこうあるのです。勇者の鎧を呼び出すためには歓迎の宴をせよ。そして歓迎の宴が最高に盛り上がったときに勇者の鎧が現れるであろう、と」


 〔また、予言か〕とタダシは思う。どうも先代は予言を残すのが好きらしい。


 「最高に盛り上がったら出てくるって変な鎧だな」


 エスケレスは遠慮のない感想を言っている。


 「そもそも最高に盛り上がるってどうやってするんですか?」


 レインの質問にプッチは軽い感じで答える。


 「なに、案ずることはありません。勇者様にこれまでの苦難の冒険を話して頂けたら、きっと我らは盛り上がる事間違いなしです。我ら獣人は冒険が好きなのです。つまり勇者様が鎧を受け取るのにふさわしい冒険をされていれば簡単な事なのです」


  〔苦難の冒険?そんなのあったかな・・・〕とタダシが思っているとはを知らずにプッチは話を続ける。

 

 「鎧と言えば防具の中でも最高峰ですからな。兜や盾よりも防御力は高く、勇者様の身の安全を一番守るのは鎧です。その鎧を受け取りに来たということは勇者様はそれ相応の冒険をされてきたはず。その中の話を一つ二つして頂ければ簡単に鎧を出現させるだけの盛り上がりをこの宴に呼び込む事ができるでしょう」


 どうやら鎧という防具の中でも重要なものを先代勇者から任された事に獣人たちからしたら、鎧を取りに来るくらいだから勇者の魔王討伐に進んでいるに違いないと思っているらしい。


 そこには勇者の鎧を守っているというひとかたならぬプライドを感じる。


 ただ単に近かったからという理由で最初に鎧を探しに来たタダシ一行としては耳が痛い話だ。


 「冒険の話ですか・・・」


 〔冒険って言ってもオークたちと戦った事くらいしかないんだよな〕とタダシの頭上には唯一の戦歴であるオークたちの戦いしか浮かんでこない。


 「オーク軍団の話をするしかねえな。あれが一番盛り上がるだろう」


 他には何もないと知っているくせにエスケレスは無責任に煽っている。


 「そうですね。あれが一番盛り上がると思います」


 レインも悪気なくタダシの話のハードルを上げている。


 「おおっ、それほどの活躍の話ならきっと勇者の鎧も出てくるでしょう。さっ、勇者様。早速始めてください」


 かわいい黒目を輝かせるプッチにせかされて〔だ、大丈夫かな・・・〕と思いながらタダシはオーク軍団との戦いを話し始めるのだった。


                     *


 「盛り上がってますねー」


 「盛り上がってるな」


 レインとエスケレスは興奮のるつぼと化した獣人たちを見ていた。


 「出てますねー」


 「ああ。めちゃくちゃ出まくってるな」


 レインとエスケレスはタダシの頭上に『オーク軍団との戦い』の画像が出ているのを見ていた。

 

 タダシが話し始めた時はそうでもなかったのだが、話が進んでいくにつれてその頭上にはオークたちと戦ってた時の様々な場面が浮かんできたのだ。タダシも思い出しながら話しているからついつい頭に浮かぶらしいのだ。


 獣人たちはその画像を食い入るように見ている。話だけでも面白いのだが、映像付きなのが特にウケているのだ。


 「()()があると確かに面白いですね。演劇みたいです」


 「実際の風景だしな。勇者の冒険譚としては最高だろう。おっ、オークをタダシが切り倒したぞ」


 完全に見る側に回っているレインとエスケレスだ。


 タダシとしてはなぜこんなにウケているのかわからないが〔とにかくこの勢いで話をすすめるだけだ〕と思って話を続ける。


 そしてタダシが頭上にオークキングの首を斬り飛ばす場面を浮かべたその時、まさに獣人たちの盛り上がりは最高潮に達して、タダシの目の前に鎧が出現した。立札付きで。


 思わず全員静まり返る中でタダシは鎧を見る。

 

 〔うん、確かに今度のには『本物』って書いてあるな。でも、これ・・・〕とタダシは心の中で思いながら後半は口に出して言った。


 「大きすぎない?この鎧」


 そう、その鎧のサイズは明らかにタダシには大きすぎる物だった。





  

 


 

次回 021 獣人の魔法 です。

一章もあと少しです。二章に入る前に登場人物紹介を挟む予定です。

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