019 勇者の鎧
タダシたちの会話をひとしきり聞いたプッチは考え深げにうなずいている。
「ふむ、人族の方には勇者の印が見えないのですな。しかし、それならどうしてこの方が勇者だとわかったのですかな?」
と、エスケレスにたずねているが、それは不審に思っているというよりは単純に疑問に思っている事をきいたという感じだったが、
「異世界から召喚したからな。異世界から召喚したらみんな勇者なんだよ」
こともなげに答えるエスケレスの言葉にプッチは少しひっかかったようだ。
「それはさすがに乱暴すぎるのでは。異世界から召喚されたからといってその者が必ず勇者になるとは限りませんぞ」
勇者とはそんな簡単になれるものではないと常識的な事を言っているプッチだが、エスケレスにすぐに否定される。
「そんな事はねえな。獣人たちだって勇者の頭上に勇者の印が見えただけで、さっき会ったばかりのタダシを無条件で勇者だと認めただろう。召喚された者を勇者と認める事と、勇者の印が見えたら勇者だと認めるのは同じ事だろう」
一見、論理的に見えるエスケレスの言い分に「それは・・・そうですな」とプッチも認めざるえない。
プッチがエスケレスに言いくるめられているのを見てレインは、
(またエスケレスさんが屁理屈を言ってる・・・)と白い目で見ている。さきほど、祖先にあらぬ性癖を植え付けられた事をまだ恨みに思っているのだ。
しかし、〔へえ、なるほどねえ。確かにそうだよな。条件があえば勇者になるっていうなら獣人の条件も、エスケレスさんの条件も同じことだよね。エスケレスさんの話はわかりやすいなあ〕とタダシが素直に感心しているのを見て、レインは(私がひねくれているだけなのでしょうか)と自己嫌悪する。
そんな風にレインが悩んでいても素知らぬ顔でエスケレスは続ける。
「まあ、タダシは正真正銘の勇者だよ。勇者の印はわしたちには見えないが、試練のほこらで勇者の証をもらってるからな」
「いえ、その点については疑ってはいないのです。勇者の印がありますし」
そう言ってプッチは定期的に出ているタダシのあれを見る。
タダシが勇者ならプッチは伝えなくてはいけない事があるのだ。
「勇者様、あなたがここに来た目的は勇者の鎧ですね。我々は今までこの日のために勇者の鎧をお預かりしていたのです」
「やはり勇者の鎧はここにあるんですね!」
タダシは興奮を抑えるように言いながらも〔・・・勇者の証ってなんとなく胡散臭かったけど、本物だったんだなあ〕と、ようやく勇者の証が本物だと実感できたらしい。勇者の思念は適当だったし、もらい方ももらい方だったのでありがたみがいまいちなかったのだ。
「はい。先代の勇者様が我々獣人にその管理を託されたのです。さっそくご案内いたしましょう」
プッチはそう言ってとタダシ一行を村の中央部に連れていく。
「こちらです」
プッチに案内された建物は獣人たちにとって神殿の様な役割をもっているようだった。
木材で出来た建物の中の中央部に鎧が置かれており、その周りにはお供え物がたくさんしてあり、いかにも神聖な物として扱われているようだ。
その隣には木の立札があり何か文字が書いてある。
エスケレスは獣人たちの文字の知識もあったので似ていると思ったが、どうも獣人の文字とも少し違うようだ。
(わしにも読めねえ字か)
エスケレスが立札を注視している事に気づいたのかプッチが解説してくる。
「この文字は先代の勇者様が書いたものをそのまま写したものです。我々にもなんて書いてあるのかはわからないのです」
「へえ、勇者が書いたのか」
自分が読めなかった文字に注目しているエスケレスと違って、レインは素直に鎧を見ている。この辺は二人の性格の違いが出ているのだろう。
「これが勇者の鎧なんですね。さすがに立派なものですね」
勇者の鎧はかなり古いものなのだろうが、獣人たちがこまめに手入れをしているのか、まるで新しいもののように輝いている。
「まあ、確かにそこらにある鎧よりはマシみたいだな」
エスケレスもようやく鎧を見て、ひねくれた言い方で褒めている。
しかし、タダシは鎧と立札を見比べるとプッチに確認する。
「・・・これ、ニセモノではないですか?」
タダシの言葉にプッチはそのまんまるの目を見張る。
「おお!さすがは勇者様!確かにこれはニセモノなのです。勇者の鎧を狙うやつらに対する目くらましだったのですが、一目で見抜かれるとはさすが勇者様です!」
「勇者様、よくわかりましたね!」
レインはタダシが勇者らしいことをしていることに喜んでいる。
「いえ、なんとなくそんな感じがしたんですよね・・・」
とタダシは勇者としての直感でわかったかのような言い方をしているが、その頭上の勇者の印には〔だって、ここに漢字で偽物ってハッキリ書いてあるんだよなあ〕と出ている。
どうやら勇者の鎧の隣に立ててある立札にはタダシの故郷の言葉で『偽物』と書いてあるようだった。
次回は 020 歓迎の宴 です