01 勇者召喚!
勇者タダシが魔王討伐の旅の途中でオークの群れからとある村を救った日から約一ヵ月前。
ポーラ王国の王宮内の召喚の間では魔王を倒す『宿命の勇者』を異世界から召喚する儀式が行われていた。
「姫様、今度の召喚は上手くいくといいですね」
守護騎士のレインの言葉に召喚の儀式を進めていた王女ミーシャは黙ってうなずくが、その次のレインの言葉には黙っていられなかった。
「この間の『俺、なにかやっちゃいましたあ』は酷かったですもんねえ・・・」
「それを言うのは止めて!思い出したくないの!」
前回呼び出した勇者の話を出されてよほど嫌だったのか、ミーシャは高貴な姫らしからぬ金切り声を上げる。
「すみません」
レインも素直に謝る。確かにあの勇者の話を出したのは失言だった。
いろいろあって元の世界に無理やり帰還させた勇者だったが、危険だからダメだと言っていることをことごとくやって『俺、何かやっちゃいましたあ』としれっと言う姿にはいまだにミーシャは夢でうなされている。
「あれも酷かったよな。『俺を追放しろ!本当はめちゃくちゃ役立ってるけど、その功績に気付かないで無能だからと罵声を浴びせて追放しろ!あとハーレム!』と『理不尽な理由で勇者としての身分を剥奪して、俺を一般人として行動させろ!あとハーレム!』。どちらもわざわざこちらから呼び出したんだからそんな事をするわけがねえのに、どうしてもそうしろと言い張ってたからなあ」
賢者エスケレスが余計な事を言うが、ミーシャはその美しい額に青筋を立てながらも今度は無視だ。この賢者は知識はあるがどうも人の神経を逆なでするところがある。
「・・・いでよ!勇者!この世界を救うため来たれ!できれば普通の勇者!変な事言わない人!おもしろオリジナリティなんていらない!とにかく真面目な感じに魔王討伐を進めてくれる普通の勇者!」
気を取り直したミーシャが召喚の呪文の最後に自分の願望を交えながら唱えると、魔法陣から一人の少年が現れる。
「あれ?ここは・・・」
周りを見回す少年はミーシャと同じくらいの十代後半に見える。黒髪黒眼で特別男前というわけではないが、清潔感のある顔立ちをしている。
「初めまして勇者様。私はポーラ王国の王女、ミーシャ。ここはあなたにとっては異世界になる世界です。そしてあなたはこの世界を救うために召喚された勇者というわけです」
ミーシャの言葉に少年は驚きを隠せないが、意外にも取り乱したりしないでこちらの話をきいてくれるようだった。
だが、それだけでは全く安心できない。最近の勇者は自らの置かれた状況自体はすんなり受け入れるものの、そこから素直に魔王討伐の旅には出ない。
なんだかんだと理由をつけてこちらの提案を無視して、好き勝手な事をして、世界のバランスを崩壊させて魔王軍以上の混乱をこの世界に与えるのがお決まりのコースなっているのだ。
特にこの少年と同じような服を着た異世界からの召喚ではその傾向が強い。
(この受け入れのはやさ・・・。今回も外れかしら・・・)
ミーシャは内心びくびくしながらタダシに説明をはじめるのだった。