018 勇者の印
タダシを慕うように集まっている小動物たちという予想外の獣人たちの姿になごんでしまったレインだったが、
「勇者様、いったいこれはどういう事なんですか?」
と我に帰って問いかける。それに対してタダシも困惑したように答える。
「俺にもよくわからないんだ。ちょっと挨拶だけして、まだ名乗ったわけでもないのにいつの間にか獣人たちが大勢集まって来たと思ったらこんな状態になっちゃんだよ」
いかにも困っているという風にタダシは肩をすくめながらも、
〔でも、かわいいな。犬派と猫派ってときどき聞かれるけどあれってなんの意味があるんだろうか。正直どっちもかわいいんだが〕とタダシの頭上に文字が出るのを見て更に獣人たちは頭を低くする。
どうやら獣人たちはあれに反応しているとみて間違いないようだ。
獣人たちにはタダシの頭上の文字の意味は分からないからこうなっているが、〔獣人かわいい〕となっているタダシの本音が伝わっていたらここまで畏怖していたかどうか。
かしこまっている獣人たちに今度はエスケレスが話しかける。
この調子ではタダシが話しかけたところでなかなか獣人たちは話せないだろうと思ったのだ。
「わしは賢者エスケレスだ。言葉は通じるんだろう?誰かこの状況を説明する者はいねえか」
ひれ伏している獣人たちを見回すように言うと、一人の獣人が立ち上がる。
「私はこの村の村長でプッチと申します」
プッチと名乗ったのは赤いリボンをちょんまげの様に付けた獣人で、さきほどエスケレスが村長だと言っていた獣人だ。
〔ヨークシャーテリアみたいだな。村長〕とタダシの頭上に浮かぶのを見て、村長は一瞬びくっとするがすぐに落ち着きを取り戻して確信めいた言い方で
「この方は勇者様ですな?」
タダシを真っすぐにまんまるの目で見てくる。
その様子にタダシとレインが〔かわいい〕(かわいい)と同時に思うのを無視して、エスケレスは話を進めていく。
「なぜそれを知っている?」
エスケレスの問いに村長は可愛い外見に似合わない雰囲気で厳かに語りだす。
「われらに伝わる古い予言にこうある。世が乱れしとき、それを救う偉大なる勇者あらわる。その者、頭上に大いなる印を戴いていると」
村長の言葉にタダシは思わず自分の頭上を見上げるが当然何も見えない。
「何か見えますか?」
タダシは怪訝な顔でエスケレスにたずねるが、
「何も見えねえな。なっ、レイン?」
「え、ええ」
エスケレスに突然ふられたレインはタダシの頭上を斜めから見るような感じで答えている。
(きっとあれの事ですよね?あれが大いなる印ですか・・・)とレインは疑問に思っているのが顔に出る。
その様子にタダシが少し不審を覚えたところで、「ウホン!」とエスケレスが咳払いをしてタダシの気をそらすと、わざとらしく腕を組見直して考え深げに、
「獣人だけに見える特殊なものじゃねえのか?どんなものかは知らんが勇者の印っていうくらいだからすごい立派なもんなんだろうなあ」
と白々しくうなづいている。
「そうですか。でも、レインは何か見えてるんじゃあ・・・」
さすがにそう簡単にはごまかされないタダシだったが、エスケレスはもっともらしく続ける。
「レインは少しだけ獣人の血が入っているからな。レインのひいひいひいばあさんが獣人なんだよ。もしかしたらかすかに見えているのかもな」
「なるほど」
と納得するタダシの頭上には〔このタイプの獣人と結婚して子供作ったのか・・・レインのひいひいひいじいさんはなかなかのつわものだなあ。レベルたかいなあ。そりゃあ、そんな性癖をもったひいひいひいじいさんがいるとは知られたくないよなあ〕とレインに対してあらぬ誤解を抱いている。
「ちょっと、エスケレスさん!」
(勇者様が私の祖先をハイレベルな変態と勘違いしているじゃないですか!)とレインは抗議をするが、
「わるいな。レイン、秘密を話してしまって」
と悪ノリするエスケレス。
「レイン、俺はそういうのもありだと思うよ」
と言いながらもタダシは完全に見た目は小動物である獣人たちの姿を改めて見て〔レインのひいひいひいじいさん・・・・すっげえなあ〕とあれが出ているのを見てレインは頭を抱えるのだった。
前回の後書きでサブタイトルを 勇者の鎧 にしていましたが間違いです。
次回が 019 勇者の鎧 になります。すみません。