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015 魔王軍八大将

 オークの群れに狙われていた不幸な村はどうするべきか迷っていた。


 自分たちの村の近くまで来ておきながらなかなか攻めてこないオークたちに対して、守りを固めて戦うべきか、必要な物だけ持って逃げるか。


 騎士団に助けを求める事も考えたが、一番近い領主町でも3日はかかるのでまず間に合わない。


 若者たちは戦う事を選ぼうとしていたが、長老にはわかっていた。例え村の若者たちが命を懸けて戦ってもあれだけのオークの群れには敵わないと。抵抗むなしく屍を晒すだけだ。


 あれはただの魔物ではない。曲がりなりにも集団を作った魔物だ。素人の若者が武器を持ったところで敵うような相手ではない。


 これまで暮らしてきた村を放棄することに若者たちは躊躇したが、長老は命を惜しんだ。老い先短い自分の命ではない。無鉄砲だが村を大事にしている若者たちの命を惜しんだのだ。


 若者たちも長老も村を大事に思っている事は同じだったが、なかなか結論が出なかった。


 だが、村を遠巻きにして見ていたオークたちが騒ぎ出したのを見て、もはや一刻の猶予もないと長老は頭を地面にこすりつけるようにして皆に避難を促した。納得してもらえなくてもいい。とにかく生きてさえいればいいという長老の思いに皆、避難の準備を始めた。


 しかし、いよいよ村から脱出しようとしたその時に、タダシ達が現れてオークの脅威は去ったことを告げた事で村中がひっくり返るような勢いで歓喜に包まれた。


 もちろん村を救ってくれた勇者一行を長老たちが最大限にもてなしたのは言うまでもない。勇者の頭から何かでている、と思いながらも。

 


 

                         *



 翌日、タダシが再び勇者の鎧のある場所を目指して村を出発したそのころ、魔王城の一角にある『千魔の間』に魔王軍最高幹部の八大将が集結して・・・いなかった。


 「なんで君しか来ていないんですかね」


 八大将の一人であるエイサイの問いかけに


 「さあな。みんな忙しいんじゃないのか」


 同じく八大将のゴウユウがどうでも良さそうに答えている。


 そう、ここにいるのは八大将のうちたった二人だけだ。これでは二大将になってしまうが現実に二人しか来ていないので仕方ない。


 エイサイは絶大な魔力と知力を誇る智略タイプの魔族で、一方ゴウユウは魔力自体はさほどではないが、抜群の身体能力とその頑強さを生かした接近戦闘を得意とするタイプだ。


 性格も戦い方も全く違う二人だが、妙に馬が合うのかこのようにエイサイの招集を他の連中が無視している中でゴウユウは律義に来ていた。


 「せっかく僕がいい事を教えてあげようと思ったのに・・・」


 見た目が幼い子供にも見えるエイサイが落ち込んでいるのを慰めるように、巨人であるゴウユウは頭をなでているがエイサイはそれを鬱陶しそうに払いのける。


 (ゴウユウは悪い奴ではないが僕を子ども扱いするのが困る)とエイサイは文句を言おうと思ったが


「それで、いい事ってなんなんだ?」

 

 とゴウユウが聞いてくれたので


「オーク軍団がやられたらしいんですよ」


 嬉しそうに答えたエイサイの情報に対してゴウユウは「なんだそんな事か」とつまらなさそうに答える。


 オーク軍団は半魔王軍の中ではましな戦力だが所詮は正規軍とは違う。どうせ勝手な事をして人間たちに手痛い反撃にあったのだろうくらいにしか思わなかった。


 「あの考えなしの豚どもにはいい薬だ。で、どのくらいやられたんだ。30匹くらいか?それともカツドンかトンジルあたりがやられたのか?」


 カツドンとトンジルというオーク軍団の幹部二人の名前を出すゴウユウだがエイサイは静かに首を振る。


 「いえ、文字通りやられたのです。全滅です」


 「全滅!?トンテキのやつもやられたのか?」


 「ええ。オークキングのトンテキもやられました」


 淡々というエイサイだが、ゴウユウはトンテキの個人の強さを知っているので驚きを隠せない。オーク軍団自体もバカの集団だが決して弱くはない。


 「あいつらはバカだけどそれなりに強いぞ。どこの軍だ?現状でオーク軍団を全滅させるだけの規模の軍隊を動かす余裕のある人間の国が存在するとは思えないがな」


 八大将が人間たちの各地方を同時に侵略している今は魔王軍と人間の勢力は拮抗しているが、わずかに魔王軍が押している状態だ。余分な行動をする人間側の国はないはずだった。


 「どこの国も軍隊を動かした形跡はないようです」


 「だとしたら・・・まさか『勇者』か?」


 「恐らくそうでしょう」


 歯切れの悪いエイサイに、


 「確証がないのか?」


 と問いかけるゴウユウに、エイサイはよくわからないといった表情で答える。


 「なにしろ人間側に被害がでていませんからね」


 「そりゃおかしいな」


 『勇者』の話をしているのに人間側に被害が出ていない事を訝しがる魔王軍の幹部たち。


 召喚される『勇者』は人間たち(の一部)にも迷惑な外来種だと思われていたが、魔王軍からも自分たちだけではなく人間側にも被害を与える諸刃の剣と認識されているらしかった。

 

 「最近でも勇者召喚をしているのはポーラ王国くらいか。全然しつけれてないけどな」


 ポーラ王国はペットをよく逃がしてしまう飼育下手の飼い主のようなものだと思われていた。


 「ポーラ王国のミーシャは案外したたかですからね。『勇者』の被害が人間側に出たとしてもこちらにも被害が出るので抑止力になると思っているのでしょう。まあ、あの賢者エスケレスの入れ知恵かもしれませんが」


 エイサイはエスケレスの名前を言うときに意味ありげに語気を強めている。


 そんなエイサイの様子をゴウユウは(こいつのエスケレスが嫌いは相変わらずだな)と思いながら


 「もし本当に『勇者』なら・・・面白くなってきたな」


 心底嬉しそうに笑っていたが、


 「何も面白くありませんよ。強い敵が出てきて喜ぶ神経がわかりませんね」

 

 とエイサイには嫌な顔をされるのだった。

 

 読者はまだ知らない本編に影響しないムダ知識シリーズ①

 

 オーク軍団のフルネーム

 幹部はヒレ・カツドン、アカミソ・トンジル。  オークキングはロース・トンテキ。


 次回は 016 獣人の村 です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オーク軍団のフルネーム!良いですねー。笑って読みましたよ。 村の長老も「余計なことを言わない」分別があって良かったですね。下手したらエスケレスの魔法で処理(口止め)されたでしょう。 [一言…
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