表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/112

014 オークキング

 「いったいどうなっているんだ!たかが人間一匹に何を手間取っている!」


 この軍団の主であるオークキングは荒れていた。


 こちらが有利な夜になって村を襲う。『一分の隙も無い完璧な作戦』を立てたはずなのに全軍が魔法のクモの糸に覆われたかと思うと、いきなり現れた一人の人間によって軍団は混乱の極みに達していた。


 強靭な肉体を持つオークがたかが人間一人にここままで翻弄される事などあり得ない事だが、どうやらかなり特別な人間らしい。


 剣も魔法もかなりのレベルで使いこなしているその身のこなしは、遠目に見ても人間の中では飛びぬけているのがわかる。


 「こうなったら奥の手を使う!犠牲を恐れては勝利は掴めないのだ!」


 どこかで聞いたような独裁的なセリフを言うオークキングは『王の号令』を使う気になっていた。


 『王の号令』はオークの王たるオークキングのみが使える技でその咆哮は配下のオークたちを盲従させることができる。どんなに混乱していても『王の号令』を使えばたちどころにその命令を忠実に果たす死兵となるのだ。


 もっとも、命令を果たすためには生死を顧みないようにもなるので、単調な動きになりどうしても犠牲が多くなりすぎてしまう。


 だが、その代りに仲間を犠牲にする事も厭わないので何人かの特攻で動きを封じて味方もろとも敵を殺すといったやり方もできるのた。

 

 「お前たち、準備をしろ!」


 オークキングは大きく息を吸いながら反り返ると、側近二人にその背中を支えさせて『王の号令』を使用するための体勢を整える。


 最大限に息を吸い込んで、配下を死に向かせる咆哮を今まさに放とうとしたその瞬間にオークキングがバランスを崩してひっくり返る。


 「バカども!なぜしっかり支えていない!」


 と側近二人にその怒りのぶつけるがすでに二人は物言わぬ屍となっていた。


 「『号令』は使わせないわよ」

 

 側近二人を倒したのは女騎士で人間の基準で言えばかなりの美少女だ。

 

 (エスケレスさんの言う通りになったわ。性格は悪くてもさすがは賢者ですね)

 

 エスケレスはオークキングが追い詰められたら『王の号令』を使う事を予測していたので、タダシがオークたちを引き付けている間にレインをオークキングの元に向かわせていたのだ。


 オークキングに『号令』を使わせないようにするためにまずは支えている部下を倒して『号令』を阻止する。それがレインに与えられた使命だ。


 「貴様、殺してくれる!」


 憤怒の表情でオークキングは巨大な戦斧を構えている。


 「こっちのセリフだわ」


 レインはエスケレスに「無理そうだったらオークキングとは戦うんじゃねえぞ」と言われていたにも関わらず長剣をオークキングに突き付ける。

 

 一見レインが無茶をしているように見えるが、これはエスケレスの指示も悪かった。


 エスケレスはオークキングとは無理に戦うなと言いながらも「タダシ一人では限界が来るだろうから、『号令』を止めたらできるだけ数を減らすのを手伝うんだぞ」とも言っていたからだ。


 (どうせ倒すなら強い奴からの方がいいよね)


 レインはそう思ってオークキングに立ち向かうことにしたのだが、すぐにその見積もりの甘さを後悔するのとになった。


 (強い・・・!)


 レインは今まで普通のオークを倒した経験は何度もあったが、オークキングは別格だった。他のオークよりも一回り大きな体躯をしているにも関わらず、その動きは俊敏で振り回している戦斧は一見無造作に見えて意外と隙が無かった。


 何よりその戦斧の威力が桁違いで、受け止めるのはまず無理だ。


 そうなるとレインの防御方法は避ける以外なく、回避の選択肢が狭まれている。


 剣の腕ではわずかにレインの方が勝っているが、身体能力ではオークキングが優位に立っている。いや、レインにはエスケレスによって身体能力強化の魔法がかけられている事を考えると、まともな状態ではレインの手に余る相手だ。


 守護騎士というポーラ王国有数の実力を誇るレインでさえ、半魔王軍のオークキング相手に苦戦するのがこの世界の実情だった。


 戦斧から距離をあけたレインが苦し紛れに魔法を放つが、火炎玉が直撃してもオークキングの強靭な皮膚に阻まれて目くらましになる程度のダメージしか与えられていない。


 (こいつを早く倒して勇者様の助力に行かなくてはいけないのに!)


 こうしている間にもタダシは限界に近づいているだろう。初めは不意の襲撃者に混乱していたオークたちも立て直してくるだろうし、いくらタダシが強くても100匹近いオークを一人で倒すのはさすがに無茶だ。強い弱いではなく単純に疲れるだろう。


 レインは焦るが、互いに相手を倒すための決め手には欠けたまま戦い続けていく。


 だが、その均衡状態はあっけなく崩れた。


 ここに来るまでに倒したと思っていた一匹のオークがまだ生きており、這いつくばりながらもレインの足に手をかけたのだ。


 レインはすぐにそのオークにとどめを刺すが、その隙を見逃すオークキングではない。


 体勢を崩していたレインにオークキングが戦斧を振り上げたその時、

 

 「レイン、大丈夫か!」


 まさに勇者のタイミングで現れたのはタダシだ。 


 オーク軍団を相手にしていたタダシの登場にオークキングは一瞬動きを止めて周りを見渡すが、軍団で立っているのは自分だけになっていた。


 「し、信じられん。我が軍団を一人で倒したというのか?」


 驚愕するオークキングに、タダシは、


 「そうだ!後はお前だけだ。覚悟してもらおう!」


 と勇者らしく格好良く決めているが、その頭上には


 〔しんどい〕


 という巨大な文字が表示されている。


 「なんだ!?」


 そのおかしな現象に動揺したオークキングはオーク軍団の全滅を見た時以上にあっけにとられる。


 レインも(あっ、出ちゃってる)と一瞬気をとられるが、今まで慣れ親しんだ()()なだけにオークキングほどは平静を失わずにすぐに我に返る。そしてこれがこの戦いの勝敗を分けた。


 「くらいなさい!」


 気合と共にレインの剣が戦斧を振り上げて隙だらけのオークキングの右腹に深々と突き刺さっている。


 「きさ・・・」


 ザンッ!


 『ま』を言う前にタダシの剣が怒りと苦痛の表情のままのオークキングの首を斬り落とす光景に、少し前にこの場にたどり着いていたエスケレスは


 「どーいう倒し方なんだよ・・・」


 と目が点になるのだった。

次回は 015 魔王軍八大将 です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 『有無を言わせない』サポートでは無くて『あれを言わせない』サポートなんですね! さすが【真面目に訓練したまともな勇者】で、オークの群れを殲滅するのもチート頼りで無くて、好感度MAXです! …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ