012 オーク軍団
タダシがオークの群れを目視できるところまでたどり着いた時には、オークたちが狙っているであろう村の入り口も見えていた。
もはや一刻も猶予がないように見えたが、タダシにはまず木陰に潜んでオークたちの様子を伺う冷静さがあった。タダシの場合は木陰に潜むという選択が隠れるという点で正しいのかという問題はあるのだが。
〔やっぱり、かなりの数がいるなあ。探知魔法で見た時も思ったけど、案外統率がとれている。集団で行動することに慣れているんだろうな〕
さっそくいつものあれを頭上に出すタダシ。
もし、この時タダシの方をオークたちが見ていたら気付かれてしまったかもしれないが、タダシの気配の消し方は完璧なのでたまたま誰もそっちを見ていなかった。そう、勇者タダシの気配の消し方は完璧なのだ。ただ頭の上から変なものが漏れているだけで。
タダシは少しずづ場所を移動しながらオークたちの全容を探る。
〔これだけいると闇雲に突撃したら何匹か討ち漏らすかもしれない。村も近いし、被害を出さない一番の方法を考えないとな〕と、さんざん外れの勇者を引いてきたこの世界の住人が見たら大喜びそうな事を考えている。
〔少数で多数を倒す。ここは奇襲しかないな!〕とタダシは決心している。
奇襲・・・相手にバレないように先制攻撃を仕掛けることだ。この勇者にはあまり向いているとは思えない戦法に思えるが、本人にはあれが出ている自覚はないので当然上手くいくと思っているのだ。
〔だけど、一人で奇襲するとなるとよほどうまくやらないとな。もちろんオークたちがこれ以上村に近づくようならすぐに仕掛けないといけないけど〕
最善の方法をとるためにタダシは気配を消したまま様子を探っているが、あれを小出しにしていたので気付かれるのは時間の問題に思えた。
*
(勇者様、早まってなければいいけど)
タダシが奇襲を考えていた頃、それを追いかけるレインは気が気ではなかった。
タダシが駆けだしてからすぐに追いかけたのだが走る速さが全然違うのですぐに引き離されてしまった。結局、追いついて来たエスケレスに身体強化魔法をかけてもらって、探知魔法でだいたいの位置を教えてもらって(エスケレスでも探知できる距離まで来ていた)走っていた。
身体強化をかけたレインでもタダシが本気で走れば追い付くのは難しい。
実際にはそれほど長い時間ではなかったがレインにはかなり長く感じられた。
10分ほどしてようやく見えたタダシの頭上にいつものあれが出ているのを見て、レインは(あっ、ダメだった・・・)と思わず絶句するが、
(ん?よく見たら・・・ぎりっぎり見えてない!|奇跡的に木の枝にうまくかぶってるー!ラッキー!)とオークたちからは見えない角度でタダシからあれが出ているを確認して安堵する。
「勇者様」
レインはタダシを刺激しないようにそっと声をかける。
レインの気配に気づいていたタダシは驚くこともなく「レイン。来てくれたのか」と言いながらこれまで観察したオークたちの様子を説明する。
説明している間はあまり余計な事を考えずにすんでいるのかタダシからあれは出ていない。
そうこうしているうちに今度はエスケレスが姿を現す。身体強化をかけていないにも関わらず、それなりの時間で走ってきたこの賢者は身体的にも優れているらしい。
意外と早く追い付いたエスケレスが息を整える間もなくレインにきいてくる。
「バレてねえんだな?」
「ええ。偶然にも木の陰に隠れていましたから」
エスケレスとレインの会話を聞いてタダシは一段と頭を下げる。
(そうだけど、そうじゃないんです・・・)とレインは言いたかったがそこはぐっとこらえて、
「勇者様。お一人で行くなんて酷いじゃないですか。確かに私たちは反対したかもしれませんけど、あなたを一人で行かせるくらいなら反対しません。私たちはあなた一人を危険な目に合わせたりはしませんよ」
声は小さいが強い意志を感じさせる言葉でタダシに語り掛ける。
「そういうこった。わしらは仲間なんだからな」
レインに比べてエスケレスはあっさりした感じで言うが、その言葉には嘘はないようだ。
そしてオーク軍団にどう仕掛けるか作戦を話し合う事になったが、エスケレスが「まず初めに大事なことを言っておく」ともったいぶって、
「やるからには一匹も逃がさないで全滅させるぞ」
と宣言する。
もちろんエスケレスはタダシのあれを見たモンスターを生かしておけないという意味で言っているが、
「そうですね、逃がすわけにはいきません!」〔逃がしたら村に被害が出るかもしれないからな〕とタダシのあれが出ているの見て、レインは思わず「勇者様!」と叫びそうになるのを何とか抑えて深呼吸すると諭すように、
「・・・勇者様。作戦について思うことがあったら全て口に出して言って下さい。作戦に少しでも疑問を持たれたら後々に支障がでますから」
とタダシに余計な事を頭の中で考えないように仕向けるが、
「わかった。思っている事は全部言うよ」と言っているそばから
〔なるほど~。確かに疑問は残さない方がいいよな〕とタダシの頭上に浮んだ文字が奇跡的に枝や葉っぱで隠されているのを見て
「勇者様。わざとではないですよね?」
とレインはつい突っ込まずにいられなかった。
ブックマーク、評価、感想、レビューありがとうございます。週一回更新の予定ですがモチベーションが上がってなんとなく週2回更新になってます。
次回は 013 はじめての戦い です。