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098 魔王は…

 魔王軍対人間軍の戦闘が佳境を迎えるなか、勇者タダシ一行はオークに扮してレインを連行しているセイジュウロウを目印に透明魔法で姿を消して魔王城の中枢部に入り込んでいた。


 「あと、どのくらいですかオクジュウロウさん」


 「誰がオクジュウロウさんだよっ!」


 声をひそめてきいたレインに思わず、セイジュウロウは大きな声で返してしまう。


 「しっ、声が大きいです。ここは敵地ですよ」


 自分が大声を出させた原因の癖に真剣な顔で叱ってくるレインに、セイジュウロウは苦虫を嚙み潰したような顔で反論する。


 「…少々騒いでも大丈夫だよ。思った通りここの魔族の大半は出払っているみたいだからな。もうすぐ『力の間』に着く。たぶん魔王はそこにいるだろう」

 

 こんどは少し声を抑えているが、セイジュウロウが言うように拍子抜けするぐらい魔王城の警備は緩いものだった。ポーラ王国に魔王軍の全軍が集結しているといった表現はあながち大げさではなかったらしい。


 やがて遠目からも他の部屋の扉とは明らかに違うとわかる魔術的な文様がびっしりと刻まれている扉の前に着くと、セイジュウロウは立ち止まる。

 

 「ここが『力の間』だ。この扉の向こうにおそらく魔王がいるだろう」


 「なるほど、確かに他とは雰囲気が違うな」


 いつの間に姿を現したのかタダシがおどろおどろしい扉を見ながらしたり顔で言うと、


 「そうか?見掛けはスゴイがこの扉からは魔力はほとんど感じないぞ。この魔力はこの中にいる魔王の魔力が漏れ出しているだけだろう」


 とシンエイは見た目に騙されないできちんと魔力を感知している。


 「俺もそう言いたかったんだ」


 〔マジで?…確かにそうかも。しかし、この状況でもそんな精密に魔力を探知するなんてシンエイは落ち着てるなあ…〕


 と頭上でだらだらと言い訳しながらもタダシは堂々としている。


 そんな二人の様子に、呆れたようにセイジュウロウはため息をつく。


 「はあ~。緊張感のない奴らだな。言っておくが魔王はマジで強いからな。そういうノリはここまでしておけよ」


 すっかり保護者気取りのセイジュウロウに釘を刺されてタダシ達はさすがに気を引き締めた顔になる。


 「わかっています、みんな準備はいいな?」


 タダシは全員が黙ってうなずくのを確認して『力の間』の扉を開ける。


 そこには魔王がいた。八大将のセイジュウロウや一度会ったことのあるレインだけでなく、一瞬でやられたタダシも、まだ会ったことのないシンエイでさえそいつが魔王だとわかった。あまり特徴のない顔をしているがその絶大な魔力によって嫌でもその強さが理解できるのだ。


 「久しいな。勇者タダシよ。それにお供の女騎士。そこの男は確か新たに八大将になった者だな?確かセイジュウロウと言ったか。あと一人、見慣れる者がおるが…」


 「初めまして魔王。俺はシンエイ。勇者の新しい仲間ってところだ」


 魔王の言葉を遮って軽口をたたくシンエイに対して魔王は遮られた事を気にする様子もない。むしろ少し嬉しそうだ。


 「お前も勇者同様になかなか楽しめそうだな。よかろう、余も少々退屈しておったところだ。早速遊んでやろう」


 「待て、少し話を…」


 魔王の特殊能力を封印するために時間を稼ぎたいシンエイが語り掛けるが、「要らぬ。ゆくぞ」と魔王は問答無用で魔力弾を2発放ってくる。


 タダシはそれを棒状に変形させた『勇者の剣』で左右に弾くと、「こうなったらやるしかない!シンエイ、頼むぞ!」と一気に魔王に接近していく。


 魔王は飛び込んできたタダシの『勇者の剣』の一撃を手のひらに魔力を込めて受け止めて、そのまま握りしめる。普通の武器ならこのまま使用不能になるところだが、タダシは素早く『勇者の剣』の長さを変えて魔王の握っている部分を消して再度攻撃している。


 「ほう?」


 魔王はそれに多少驚きながらも魔力障壁を部分的に展開する事で防いでいる。その反応を見ると魔王は魔法だけでなく、接近戦も相当できるようだ。


 「セイジュウロウさん!『毒蛇の群れ』いきます!」

 

 「おうよっ!」


 タダシに呼びかけられてセイジュウロウも魔法で援護をし始める。


 『毒蛇の群れ』はタダシの『踊る毒蛇』の魔法部分をセイジュウロウが担当する協力技だ。タダシは魔法を使わない分、棒術に専念でき、さらにタダシよりも魔法に優れるセイジュウロウが魔法を放つことでその威力は比較にならなほど高まっている技だ。


 合わせるタイミングが難しいが、特訓にとってそれは完ぺきなものになっている。


 しかし、その『毒蛇の群れ』でさえ、魔王にはほとんどダメージを与える事はできない。


 魔王の手をすりぬけてタダシの棒は何回か当たり、セイジュウロウの魔法も魔力障壁をの隙間をかいくぐって何発か当たっているが傷つけるには至っていない。


 (くっそ、マジかよ!普通の魔族なら直撃したら一瞬で蒸発するはずの魔法だぞ!?)

 

 棒も魔法も絶対的な魔力量が違い過ぎるために効果がないのだ。


 セイジュウロウと協力してなんとか魔王と渡り合っているタダシだったが、決して互角ではなかった。タダシは常に全力で後先の体力の事を考えないで戦っているが、魔王はまだまだ余力を残した状態で戦っている。


 最初の魔力弾の威力からもわかるようにここでは魔王も森で使ったような派手な攻撃魔法を控えているようだ。全力を出してしまえば魔王城ごと破壊してしまうからだろう。


 (あいつ、怖くないのかよ。マジでスイッチはいると人が変わるな)


 いくら魔王が全力を出せないとはいえ、果敢に接近戦を挑んでいるタダシにセイジュウロウは舌を巻く。


 こちらの攻撃はほとんどダメージを与えられてないが、魔王の攻撃をタダシが受けたてしまったらおそらく一撃で致命傷になるだろう。それだけの魔力があの両拳には込められているのだ。


 封印作業に入っているシンエイは別にして、レインはタダシと共に接近戦を挑みたいところだが、戦いの次元が違い過ぎるのでとてもではないが共闘できないのだ。


 かといってセイジュウロウの様に強力な魔法を素早く連発できるわけではないので、ほとんど何もしていないに等しい。しかし、魔王相手にはこれがこの世界の人間の出来る事の現実なのだろう。

 

 魔王の特殊能力を封印するために解析に専念しているシンエイの助力が望めない以上、タダシは危険を冒してでも一人で攻め続けるしかない。


 だが、そのタダシにも限界が来た。ついに魔王の拳を避け損ねて壁際まで吹き飛ばされる。


 「ぐはっ!」


 「タダシ様!」


 すぐには動けそうにないダメージを負ってしまったタダシにレインが駆け寄り、せめてその身を盾にしようとする。

 

 「くっそ!僕が相手だ。こっちにこい!」

 

 セイジュウロウは無駄だとわかっていても雨のように魔法を連発するが魔王は完全にそれを無視してタダシに向かってゆっくりと歩いていく。


 「まだなのか?!」

 

 「まだだよ!」


 セイジュウロウの催促にシンエイもあせりながら怒鳴り返す。


 (どうする?あと少しで解析が終わるはずだが、途中でやめて俺も助けに入るか…?しかし、このチャンスを逃すわけには…)


 ここまで進めてきた解析を放棄するのをはためらわれる。あの魔王を5分以上足止めできていた。こんな好機は二度とないだろう。それに解析をやめても魔王が弱体化できない以上結果は変わらないはずだ。


 シンエイがためらっている間に魔王はタダシを確実に殺せる距離まで近づいていた。しかし、そのタイミングで魔王はある提案をしてくるのだった

次回は 099 違和感 です。

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