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097 祖父と孫たち

 人間軍の左翼でカノンは八大将の一人と対峙していた。

 

 「ふっ、美しい人よ。あなたとは戦いたくない。どうか降参して欲しい。あなたのように美しい人を傷付けたくない。私は一見ただの美男子ですが、実はとてつもなく強いのです。怪我をする前に早く降参する事をお勧めします」


 髪をかき上げながらカッコつけているのはナルシスト八大将のゴンパチだ。


 (あー、ここの担当はこいつなわけね。話には聞いていたけど実際に目にするとキツイわね。それにしても異世界転生者はこっち側のも含めて本当に変な奴しかしないのね)


 うんざりした顔をしながらもカノンは槍を構える。


 カノンにしてみればタダシもセイジュウロウも変な人なのだ。


 すぐに戦闘態勢に入ったカノンを見て、ゴンパチは顔をに手を当てて大げさに嘆きはじめる。


 「ええっ?まさかこの私と戦うつもりなのですか?ああ、何と言うことだ!愛し合う二人が敵と味方に分かれて戦わないといけないなんて!これぞ悲劇!忌まわしい運命!」


 下手な演劇を思わせる派手なアクションで苦悩しているゴンパチは隙だらけだが、カノンはまだ手を出さない。


 (特殊能力の予備動作か?それか単純にこちらの油断を誘っているのか。バカのふりをして騙せると思っているとしたら私も舐められたものだ)


 真面目なカノンには想像もできないのだが、ゴンパチはただのバカだった。


 この動作はゴンパチの特殊能力にぜんぜん関係なく、100%無駄な動きなのだ。


 だが、そうとは知らないレインは強敵にする対応を始める。

 

 (どんな能力か知らないけど『先見』を使えばそのバカな動きに隠された本当の動きも見えるのよ…って『先見』が使えない?まさか能力を封じられたの?)


 相手の未来の動きを予測する『先見』を使って見ても、やはりゴンパチはバカな動きを続けているように見える。


 今までの戦いで特殊能力を封じるタイプの特殊能力があるのは知っている。


 このナルシストもその手の能力者なのかとカノンは推測するが、もちろんゴンパチはそんな能力などもっていない。というか実はゴンパチ自身もまだ自分の特殊能力を知らないのだ。


 ゴンパチは単純に召喚された異世界人の特性として身体能力が上級魔族並みで強いだけなのだ。

 

 カノンが『先見』をちゃんと使って戦えば一瞬で決着がついたはずのこの戦い、ゴンパチが馬鹿過ぎたために少々長引く事になりそうなのだった。



                     *




 右翼のゴーレムの発生地帯に着いたジュウベイは『魔力食い』でゴーレムを次々に無効化していく。


 (いつもだったら魔力切れの心配をするところだけど、今はこれがあるもんね)


 以前タダシが透明魔法を使っていた際に持たされていた魔力を回復するポーションをジュウベイはもらってきているのだ。


 魔力切れの心配がなければ『魔力食い』の威力はすさまじくあっという間にリキマルのゴーレム作成スピードを追い抜いてゴーレムを一掃している。


 「とりあえずこれで振り出しにもどったかな」


 ジュウベイが一息ついているところに憎しみを持った視線を感じて振り向くと、刺青だらけの男がこちらを睨みつけている。

 

 「ガ、ガキぃ、やってくれるじゃねえか!」


 悔しそうにうめいている八大将リキマルに、


 「あんたが八大将?」


 とジュウベイは気安く話しかけている。


 その余裕のある態度が気に入らなかったのか、


 「ああっん?舐めてんのか?ガキだからと思って手加減していていたが、こうなったらマジでやってやるぜ。後悔するなよ!そのかわりは魔法禁止な!男同士、拳で勝負だ!」


 力こぶをつくって威嚇してくるリキマルだが、ジュウベイは冷ややかに話しかける。


 「…もしかして、魔力切れなの?」


 ジュウベイのように魔力回復ポ―ションをもっていなければ、あれだけゴーレムをパカパカ作っていたら魔力切れになってもおかしくはないのだ。


 「ちっ、ちげーよ!俺はお前のためを思って魔法禁止にしてやってんだよ!俺様の強力な魔法はあぶねえからな!でも、殴り合いだからって、痛かったり、怪我をしたらすぐに降参しろよ!絶対に我慢とか無理とかはすんなよ!そういうのは後で取り返しがつかない事になったりすっから!」


 図星をつかれてあせりながらも少年であるジュウベイの身をめちゃくちゃ心配してくるリキマル。


 「…あんた意外にいい人なの?」


 「はあ?俺はワルだよ!いや、今は正義か!人間が悪だから!ふざけんなよ!なめんじゃねー!俺は怖ええんだからな!」


 顔を真っ赤にしてオウム並みに乏しいボキャブラリーで反論してくるリキマルを見て、(とりあえず危険はなさそうな相手だな)と思うジュウベイなのだった。




                       *

 


 (やはり押されておるのは中央だけか。我が孫たちもまあまあ頑張っておるようじゃの)


 ヒョウゴは八大将と互角に戦っている?孫たちに満足しながら飛翔魔法で上空から人間たちがやられているのを観察している。


 反魔王の魔族の中でも異例なほど人間に肩入れしているヒョウゴとはいえ、自身の身の危険を全く顧みずに人間を助けるほどお人好しではない。むしろ孫たちがここまで人間たちに味方していることに驚いたくらいだ。


 まずは遠目で見て八大将たちの実力を見極めようとしているのだ。


 「なるほどな。あれはなかなか珍しい能力じゃのう」


 魔王軍中央で無双しているサブロウとその周りの人間たち、そして魔族兵たちを見ながら考え深げにつぶやく。


 「しかし、なんちゅう業の深い能力じゃ。あいつはわしが相手をしてやるとするか」


 ヒョウゴは飛翔魔法を解除してサブロウの目の前に降り立つ。 


 「若いの、それくらいにしておくんじゃな。お主のしておることはあまり褒められたものではないぞ」


 空から降りてきたじいさんにいきなり難癖をつけられたサブロウだったが、さして驚く様子もなく笑顔で答える。


 「え~、僕なんか悪い事していますかあ?ちゃんと正々堂々と戦ってますけど」


 「正々堂々が聞いて呆れるわ。お主ほどド汚い特殊能力は珍しいわい」


 「どういう意味ですかあ」


 ヒョウゴの毒のあるセリフに少しカチンときたのか笑顔を少しゆがませるサブロウ。少しずつ怒りがわいているのが見て取れる。


 「すぐにわかる。わしと戦えばな」


 「仕方ないですねえ。おじいさんを攻撃するのは気が進まないんですけどぉ」


 そう言いながらサブロウはその幼い顔からは想像できないほどすさまじい殺気をヒョウゴに向けている。


 (それがおのれの本性かい。ジュウベイとそう大して変わらぬ年なのにずいぶんとえげつないのう)とヒョウゴは思いながらも、


 「それじゃあ始めるとするかの」


 おもむろに両手に魔力弾を発生させたヒョウゴはサブロウに向かって解き放つ。


 「はっ、こんなもの…うわっ、マジっ、やめろって…っつ!」


 最初の2発までは余裕で受けていたサブロウはヒョウゴの連発魔力弾をすぐに受けきれなくなってあっけなく直撃を受けて吹っ飛ばされている。


 文字通り一瞬で決着がついてしまい、だらしなくのびているサブロウを見下ろしながら、


 「やはり勇者タダシよりは数段落ちるか。わしが初めて戦った時でさえ、勇者は魔力弾だけでは仕留めきれなかったからのう」


 ヒョウゴは改めてタダシの強さを思い出してふと感慨深い気持ちになる。そして、タダシの顔を思い出したことでサブロウにとどめを刺す気がなくなってしまう。

 

 「とりあえず殺さないでおいてやろう。しかし、意識がなくとも能力は発動しておるかもしれんから一応人間のおらんところに飛ばしておくか」


 そうつぶやいて魔導縄でグルグル巻きにしたサブロウを自分の住んでいた森に転移させる。


 サブロウの特殊能力は自分の周囲の人間(この世界の人間に限る)を著しく弱体化させるというものだった。


 この能力のおかげで八大将としては並みの戦闘力しかないサブロウがポーラ王国5人衆やアデリー相手に無双できたというわけだ。


 他の場所ではそれなりに戦えている人間軍がやたらにサブロウの周囲の者だけ魔族兵に一方的にやられているのを見てヒョウゴはそれに気づいたのだ。


 「さて、あと3人だが…。カノンとジュウベイの相手はこのまま任せるとするか。あの程度の者なら自力で倒せなくては困るからのう。わしは頭をやるとするか」


 この戦いを終わらせるべくヒョウゴは魔王軍の総司令官であるゲンゴを狙いに行くのだった。

次回は 098 魔王は… です。

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