表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
728/744

15 半分の女神

 今のままではそれほど遠くない未来に当代シャンタルも、そして次代様も短い人生を終える、マユリアははっきりとそう言った。


「ちょ、ちょっと待ってよ。それはちびシャンタルがマユリアになれなくて、そんで次代様がシャンタルになった後でマユリアになれなかった時の話だよな? それはその糸の端ってのをうちの仲間のシャンタルが握ってるからだ、そういうこと言ったよな」

「ええ、その通りです」


 マユリアは今度はベルと向かい合って答える。


「その糸の端ってのをうちのシャンタルが持ってるんだったら、当代はシャンタルになれてないってことになるよな? そんじゃあ血の穢れってのも関係ないんじゃねえの? 次代様もそうだ、本当にシャンタルになってないんなら、普通の女の子のままだったら、二人ともそういうの関係ないように思う」

「そうだよな、そうなるよな……」


 アランが妹の声に救われたように、続けてマユリアに質問をする。


「あなたが言うようにシャンタルのつなげてきた糸、端っこが届いてないなら当代は、こんなこと言いたくないがシャンタルってのはそれこそ名ばかり、普通の女の子ってことになりますよね。だったらそういう影響はないんじゃないですか。それにマユリアになれないのなら、交代もなしでいい。そうでしょう」


 アランが暗闇の中に見つけた一筋の光をたぐるように言い、その通りだと言ってほしくて紫の女神に同意を求めたが、黒い瞳がそっと閉じられ、無言でそうではないと告げていた。


「そうではないのです」


 女神がアランの希望を打ち砕く。


「なんでです。当代はちゃんとしたシャンタルじゃない、名ばかりのシャンタルだってあなたさっき言いましたよね。だったらそういうことは関係ないでしょう」

「そうではないのです」


 マユリアが繰り返す。


「確かに当代はシャンタルとしてのお力をお持ちではあられません。ですが、シャンタルになるべくお生まれになった方、これは理解できますよね」

「託宣で次のシャンタルだと言われて生まれてきたってことですか」

「その通りです」


 言ってほしくてもらえなかった言葉をここで聞くことになった。


「託宣によって選ばれ、シャンタルになるべくこの世に生を受ける、そのことがすでに半分はシャンタルであるということなのです」

「半分がシャンタル?」

「そうです」


 マユリアがもう一度確認するようにそう言った。


「つまり、お生まれになられたことで半分、交代の時に糸の端を受け取ることでもう半分を得て、シャンタルを受け継ぐということなのです。ですから完全ではないからといって普通の人とも違うのです。シャンタルたるべきお方はシャンタルの運命(さだめ)から逃れることはできません」

「なんだよそれ……」


 アランが息をつまらせるようにつぶやいた。


「生まれてすぐに親から引き離されて神様だ神様だって持ち上げられて、託宣ができないってがっかりされて、そのことで悩んで悩んで苦しんで、その上に神様の悪い部分だけおっかぶされて短い命が運命だってか……」


 ぶつぶつと呪文でも唱えるように一気にそこまで言い切ると、アランは次の声を張り上げた。


「そんなひでことあんのかよ! そんな運命受け入れられるわけねえだろが!」

「兄貴!」

 

 アランがまるでトーヤのように感情を爆発させている(さま)に、ベルも思わず声を上げる。


「そこまで出来損ないみたいに言うなら、今すぐあの子を普通の女の子に戻してやれよ! そんで親のところへ戻してやれ!」

「ええ、ですから方法はあると先ほど申し上げたのです」


 マユリアはアランの怒りをさらりと受け流すとそう言った。


「思い出してください、申し上げたはずです」


 確かに皆聞いていた。


『ではどうしてなりきることができなかったのか。それはおそらく、糸の端を握っておられるお方がいらっしゃるから』


 誰も何も言わず、自然とその視線が一人の人物に集まる。


「つまり私がいるからってことなんだね」


 シャンタルがいつものようにゆったりと、謎解きの答えを思いついたかのように軽やかに答える。


「ええ、その通りです」


 マユリアの答えには何か粘度の高い蜜が含まれているような響きがあった。だがその蜜にはさらに何か暗いものが含まれているのを感じさせる。


「じゃあ、当代を助けるために私が何をすればいいのか教えてくれる? もしもできることがあればお手伝いしないことはないし」

「おいシャンタル!」

 

 ベルには分かった。それは決していいことではない。シャンタルを傷つける、いや、そんなことよりももっともっとどす黒い何かが鉤爪(かぎづめ)を伸ばし引き寄せようとしているということが。


「だめだ、何もするな!」

「私がそうすることで当代も次代様も大丈夫になるかも知れないんだよ、聞いてみるだけは聞いてみるさ」

「おい!」

「ねえ、教えてくれるかな」

 

 シャンタルはベルの言葉をさらりと流し、紫の女神ににこやかに尋ねる。


「糸の端を放してくださることです」

 

 マユリアはさっきはトーヤたちに言った言葉を今度はシャンタルに向けて発した。


「手を放してくだされば、糸は収まるべきところに収まります。そうすればご当代も次代様も、なるべくしてご自身の道を進まれることになるでしょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ