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14 この後の話

 正殿では中央に女神であるマユリアを配し、周囲をトーヤたち人が取り巻いて話を聞いており、一人の師に弟子が交代で質問をするような形になっている。今はアランが名ばかりと言われた当代、小さなシャンタルを通常のシャンタルにする方法があると教えを説かれていると言っていいだろう。


「あります、方法は」


 マユリアはもう一度言い聞かせるようにアランに言った。


「知りたいですか」


 知りたいに決まっている。だが、この甘い囁きに本当にのっていいのだろうかとアランは答えを口にするのを戸惑っている。


「あるなら教えてくれよ」


 トーヤがアランを追い越してマユリアに言った。


「あんたはさっき当代が名ばかりのシャンタルで、なるにしても名ばかりのマユリアになるって言ったよな。だったらちゃんとしたシャンタルにしてやって、その続きにちゃんとしたマユリアにしてやってくれ。ちゃんとしたマユリアができりゃ、あんただって遠慮なく人に戻れるってもんだ。女王なんてのにこだわるこたぁなくなるだろうが。後に続くもんがいねえって言うかも知れねえけど、状況が変わりゃ次に続くもんが生まれる可能性も出てくる。そうじゃねえか?」

「確かにそういうこともあるかも知れませんね」


 マユリアは説法相手をアランからトーヤへと変更したようだ。


「限りなく低い可能性ではあっても可能性は可能性です。ありえることだと思います」

「そうだろ?」


 トーヤがふふんと愉快そうに言って返した。


「その前にもう一つ聞いておきたいことがあんだけどな」

「なんでしょう」

「可能性の話の続きだ。可能性が可能性じゃなくなって、当代が一人前のシャンタルになれなくて、一人前のマユリアになれないとする。その時は当代はどうなる。その後に続く次代様は」


 マユリアが困ったような顔をして黙った。


「へえ、あんまりいいことじゃねえような顔してんな。まあいい、どうなるのか聞かせてくれ。知っておく必要があることだろうが」

「……分かりました」


 マユリアは一つ軽く目を閉じ、小さく一つ呼吸をするともう一度目を開けてトーヤをじっと見つめた。


「これまでに前例のないことですので、そうではないかと思うとしか申し上げられません。これもあくまで可能性の話だと思って聞いていてもらいたいのです」

「分かった、可能性の話だな。そうなる可能性が高いだろうということだ」

「そう思っていただけると助かります。もしも当代が今のままの状態であられるのなら、シャンタルを次代様にお移ししてマユリアになられることは叶いません」


 マユリアはまたきっぱりと言い切った。


「それはなんでだ」

「そもそもそのお身の内に、慈悲の女神シャンタルをお宿しではあられないからです。先ほども申しましたが、当代は託宣により次代様としてお生まれになられました。託宣に間違いはございません、本来ならばシャンタルになられるお方であることは間違いがのないこと。それは次代様とて同じことです。ですが当代は本当の意味でのシャンタルではあられなかった、シャンタルになりきることができなかった、それゆえ名ばかりのシャンタルと申し上げたということです」


 この言葉にアランがくっと奥歯を噛みしめた。


「ではどうしてなりきることができなかったのか。それはおそらく、糸の端を握っておられるお方がいらっしゃるから」


 マユリアはそう言いながらシャンタルに、トーヤたちの仲間であり自分の次のシャンタル、黒のシャンタルに視線を向けた。


「その糸の端を放していただけたら、もしかすると当代の御手(おて)に流れていくやも知れません」

「それは分かった。けど、今聞いてるのはそうじゃなく、今のままだと当代と次代はどうなるかってことだ」


 トーヤがマユリアの言葉を遮る。


「そうでしたね。ただ、そのようにならぬようにするためには、このような方法があるのだと知っておいてもらいたかったのです」


 マユリアがゆるやかに視線をアランに移した。


「アランが、そしてトーヤがわたくしに尋ねてきたことの答えを先にお答えいたしました。そして次の問いについてです。このままではご当代と次代様がどうなられるのかということをお話しいたしましょう」

「それだ、一体どうなる」

「血の(けが)れ」


 トーヤの問いにまずマユリアはその一言を口にした。


「女性は成長するとどうしても血の穢れに触れることになります。そのためにお命を縮めることになるでしょう」


 このことはトーヤたちも当代と次代のこの(のち)のことを話し合っている時に出てきたことだ。


「もしもその時が来たら、当代は、次代は一体どうなる……」


 低く這うような声でアランが聞いた。


「正確には分かりません。前例のないことだからです。ですが、これだけは分かります。血の穢れに触れる度にご当代も次代様も穢れを受け、積み重ねることになる」


 まるで死刑宣告だとアランは思った。


「そのたった一度が大きく働くのか、それとも小さな積み重ねが次第にお体を(むしば)むことになるのかそこまでは分かりませんが、どちらにしてもお二人には、その後の長き年月(としつき)をお望みになることは難しいであろうと思われます」


 死神の血に濡れた剣が、アランの小さな友達に振り下ろされる音がした。

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