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 7 配置換え

 ルギはトーヤが持つ剣を何の感慨もない表情で見下ろすと、


「よかろう」

 

 とだけ答えた。


「よし、じゃあ聞きに行くか。ベル」

「お、おう!」


 ベルはずっとすぐそばでトーヤとルギのやり取りを聞いていたが、ピクリとも動けずにいた。トーヤに名を呼ばれ、張り詰めた空気を吹き飛ばそうとするかのように元気に答える。


「これ持っとけ」

 

 トーヤが指し示したのは神官長が持ってきただろう婚姻のランプだ。


「分かった」


 ベルはいつものように普通の顔でトーヤからランプを預かるが、それが普通の物ではないのも承知だ。


「おい、このことに関係したやつ集めてくれ。聞こえてんだろ?」

 

 ここ、シャンタルのお出ましの時のバルコニーに今いるのはトーヤとベル、そしてルギの三人だけだ。だがトーヤはその二人ではない誰かにそう声をかけ、かけた途端にすっと三人の姿はバルコニーから消えた。




 場所は変わって神官長室。奥の部屋では二人の国王がそれぞれ侍医に付き添われてまだ眠っている。応接にはキリエをかばってケガをしたセルマがまだ意識を失ったまま倒れており、キリエとフウが付き添っていた。近くにミーヤとアーダも控えている。

 

 入口近くには放心状態のヌオリがへたりこんでおり、その近くでライネンが無表情の座り込み、そのさらに隣でやはりタンドラも無表情で立っていた。


 入口のすぐそばにはアランが立ち、三人を見張りながら外からの侵入者にも意識を向けている。


 そしてもう一人、銀色の長い髪、美しい褐色の肌、深い深い緑の瞳を持つ精霊のような人が床の上に座り、まだ意識を取り戻さないセルマに治癒魔法をかけ続けていた。


 シャンタルはふと空間に意識を向けるようにくいっと首を上げて、


「どうしようかなあ」


 と一言つぶやく。


「なんだ、どうした」

「セルマに何か」

 

 アランとキリエがそれぞれにそのつぶやきに反応した。


「いや、トーヤだよ。本当に簡単そうに言ってくれるよね。先に送っておいたけど、こっちはどうしようかな」


 悩むような言葉とは裏腹に、のんびりした口調。それでも少し考えてはいるようだ。


「うん、こうしよう」

「わっ!」


 シャンタルの言葉と同時に、縛り上げられたゼトが部屋の中に突然現われ、さすがのアランが思わず声を上げる。


「きつく縛られてかわいそうに、ちょっと待ってね」


 シャンタルがそう言ってゼトを縛っている縄に軽く触れると、縄のあちらこちらがぷつりと切れて、あっという間にゼトは自由になった。


「やっぱり捕まってましたか」


 アランの「やっぱり」という言葉にゼトがムッとした顔になるが、捕まっていたのは事実なので何も反論できない。


「あのね、ちょっと私たちは行かなくちゃいけないので、この人たち見ててくれるかな」

「え?」

「この三人、一応動けないようにはしておくけど、気をつけてくれていたら助かります」

「うわっ!」


 シャンタルの言葉と同時に、ただ一人立っていたタンドラが声をあげてその場にへたりこんだ。


「大丈夫、ちょっと力が入らないようにしただけだから。あっちの人たちは出られなくしておくだけでいいか」


 そこにいる者には何がどうなったか分からなかったが、神官長室の反対側にある給湯室、そこにいるヌオリたちの仲間が出られないようにシャンタルが結界を張ったのだ。中で身を潜めているので、出られなくなっているとは知らないままだが、もしも出ようとしても出られないので、その時は混乱することだろう。だが今は下手に拘束したり、ヌオリたちのように体の力を奪って刺激するよりも、そっとそうしておくのが一番いいとシャンタルは判断した。


「またルギから何か言ってくると思うから、それまでお願いするね」

「私からもお願いします」

「わ、分かりました」


 目の前の不思議な力を持つ美しい人と、すぐ近くにいる侍女頭にも頼まれ、ゼトは理由も分からないままヌオリたちの見張りを承諾するしかない。


「アラン、トーヤが呼んでる。だからこのまま飛ぶよ。キリエ、そうだな、置いておくわけにいかないからセルマも一緒に。ミーヤもアーダもフウも」


 その言葉と同時にシャンタル、アラン、キリエとミーヤ、アーダ、そしてセルマの姿が神官長室から消え、ヌオリ、ライネン、タンドラと、新しくその三人の監視役に任命されたゼトの四人が応接の中に残された。


「一体何が起きたのだ……」


 タンドラが座り込み、力が入らない体でそうつぶやいた。


「なんだかは分からないがおかげで俺は助かった。そして本来の衛士の務めを果たさせてもらえそうだ。隊長が戻られるまで、ここからは一歩も出さないからそのつもりでいろ」


 ゼトはさっきまでアランがいた場所に移動すると、どっかりとあぐらをかいて座り、不動の姿勢を取った。




 姿を消した者たちは、全員神殿の最奥の正殿に集まっている。


「これで全部か」

「うん、今はこれでいいかなと思って」

「そうだな、また事が進めばその時呼べばいいだろう」

「外の人で呼べない人もいるしね」


 トーヤとシャンタルがさも普通に言葉を交わしているが、これは決して普通の状態ではない。バルコニーにいた三名と神官長室にいた七名が一瞬で正殿に移動し、そしてそこには高貴の紫に身を包まれた美しき女神がいた。

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