4 シャンタルの復活、アランの活躍
トーヤがシャンタルを助けたことで、神官長が「黒のシャンタル」の死を確認することはできなかった。神官長が戻った時、正殿はもぬけの殻で、その行方が分からず神官長の方が呆然と立ち尽くすことになる。
シャンタルが命を失った後の正殿の続きはこうだった。
戻って来た神官長にアランが詰め寄り、ちょっとした揉み合いになる。もちろん、アランの手にかかれば神官長など子どもと同じ、マユリアに会わせろという言葉に従う振りをした神官長はアランを神官長室に誘導する。
神官長室に入ると二人の国王が亡くなっており、さすがに冷静なアランが一瞬そちらに気を取られた隙に神官長が、
「この者がマユリアに会わせろと私にこのようなことを! ほおっておいてはマユリアが危険です!」
と言ったことからルギが剣を抜くことになり、その結果、ルギは初めて人を手にかけ、それがアランということになってしまった。
おそらく、ここから始まりこれ以降、ルギは何もためらうことなくその剣を振るい続けることになったのであろう。マユリアが望む限り、永遠に。
トーヤが正殿に降りたことから、シャンタルとアランの命は失われぬことになった。すでに二つ、大きく道は変わった。
だが、今変わったからと言ってもこの先また路線が戻る可能性も大きい。だからこそ今が重要だ。小さな積み重ねの一つ一つで少しずつ角度を変え、破滅へと進む道を変えることもできるはず。トーヤはそう信じている。信じていなければやってられない、そういう気持ちも大きかったが。
トーヤはアランを見送ると、ミーヤとアーダにも神官長室に行くようにと言った。
「キリエさんが侍女を呼ぶはずだ。動ける若いもんが行った方がいいだろう。フウさんはそこの御仁の世話にいてもらった方がいいしな」
少しからかうような口調で言うと、ミーヤが少しホッとした顔になり、
「アーダ様」
と声をかけ、二人で正殿を飛び出していった。
キリエは自分が呼ぶ声が聞こえてミーアとアーダが駆けつけたのだろうと思っていたがそうではない。二人の国王が生きていようがそうではなかろうが、キリエは侍医を呼ぶ。生死に関わりなく必要なことだ。そのために二人を走らせた。
この次はおそらく、その二人の国王のことだが、
「こればっかはシャンタルが目を覚ましてくれんことにはどうにもな」
そういうことだ。
シャンタル次第では二人が助かる可能性がある。そう思ってはいたものの、シャンタルはなかなか目を覚まさない。トーヤは見た目だけは冷静に、だが心中はじりじりしながらシャンタルの復活を待った。
別に二人の国王に特別な想いはない。だが、この二人が生き残ることはは、この国の先に大きく関わることであり、マユリアの野望が潰える可能性を高めることにもなる。
まだか。トーヤに次第に焦りの色が出てきた頃、
「大丈夫、すぐに行こう。歩いて行ってては間に合わないよね」
いつものようにのんびりとそう言う声がした。
「シャンタル!」
「気がついたか」
「もう時間がない、このまま行くから」
その言葉と同時に正殿にいた五名、シャンタル、ベル、トーヤ、そしてフウとセルマが一緒に神官長室へと移動した。
「トーヤ!」
驚いたミーヤの呼びかけにトーヤが、
「よお、待たせたな」
と軽く手を上げて余裕を見せながら答えるが、
「トーヤ、今はそういうことしてる場合じゃないから。いくら私でも命がなくなった人を助けることは無理なんだからね、ちょっとどいて」
と押しのけられてしまった。
次の瞬間、部屋中に温かな何かが満ち、その場にいる全員に降り注いだ。
瀕死の状態にあった二人の国王、その国王に付いていたキリエとルギ、大急ぎで侍医を呼んできたミーヤとアーダ、連れてこられた侍医、神殿から一瞬にして移動した五名が温かな光と空気に包まれる。
光る石に命をもらったシャンタルはトーヤの心を読み、二人の国王を助けるため、自分が起き上がるよりも早くここに飛んだ。おかげで二人の国王は命をつなぐことができた。
本当にギリギリだった。もしも歩いて移動していたら、おそらく二人とも助かりはしなかっただろう。シャンタルの不思議な力があってこその奇跡だ。
シャンタルが意識を取り戻し、奇跡を起こしている間、アランは当代をヌオリから守り、小さなシャンタルと共にバルコニーから荒れ狂う民たちに声をかけて鎮め、親御様に当代を預けてからゼトと共にヌオリを尋問した結果、急いで神殿にと戻ってくるという大活躍をしていたのだが、戻った途端に今度はトーヤによってルギに投げつけられた挙げ句、神殿前で流れ込んできた民たちを捕縛するというさらなる大活躍をさせられることになった。
「まったく、どうなってんだよこれは」
アランが文句の一つでもトーヤに言ってやろうとした時、
「しまった、そっちが先か!」
トーヤが今度はそう言って神殿内に駆け戻ったもので、その後に続いてまた神官長室へと戻ることになった。
「ったく、どんだけ人のこと走らせれば気が済むんだよ、え!」
そう言いながら駆け込んだ部屋の中では、確保したはずのヌオリの手によって、新たな血が流されており、新たな人間が二人増えていた。




