22 トーヤの道
4歳から7歳まで、トーヤは半分浮浪児として生活し、同じぐらいの年頃の子どもたちの頭のようになっていた。今でこそ標準体型のトーヤだが、その頃は成長が早かったのか年齢より体が大きく、頭の回りも早いので、自然と他の子どもを引っ張る立場になっていったのだ。
「あのトーヤってガキはどうしようもねえよ。やたらとはしっこいから捕まえるのもままならねえし、かといってここには手を出しちゃいけねえってのはちゃんとわきまえてやがるからよ、それ以上どうしようもできねえ」
「ありゃあ、先行きどうなるのかね」
大人顔負けのことをしでかすもので、はずれ者と言われる男たちからすらそう言われ、半分呆れられ、半分怖がられていたような子どもであった。
7歳の時、あることから戦場稼ぎになろうと決めて町を出て、一番近くの常に戦争になっている前線に初めて行った。多くが戦場に取り残された子ども、家族を亡くして行き場がなくなった子どもたちの居場所だったため、外者で新参者のトーヤは最初のうちは受け入れられなかったが、トーヤも安穏と育った子どもではない。戦場ではないが、毎日命を削るようにして生きてきたのだ、なまじの相手に負けるようなこともない。そのうち一部の子どもたちを率いてその集団の頭になり、今度はちょっとした有名人になっていった。
トーヤが他の戦場稼ぎの子どもたちと違うのは、戻る場所があったということだ。その点は恵まれていた。大部分の子どもたちがほとんど戦がなくなる冬になっても行き場がなく、寒さや飢えのために命を落とす季節、トーヤは町に戻って今度はディレンの船に乗ることになる。
大抵は戻るのを待ち構えるようにしていたミーヤに言われてのことだが、戦場稼ぎよりは安全な小遣い稼ぎぐらいの考えで大人しく船に乗った。そうして船乗り見習いとして船での経験を積み、その経験はまた戦場稼ぎとして生き延びるための手段の一つとなった。
ミーヤがトーヤに船に乗るように言ったのは、できれば戦場に行かせたくなかったからだ。海の上だって決して安全ではない。だがそばには信頼するディレンもいるし、少なくとも命のやり取りをする現場よりは安心だ。船での経験を積んで戦場から離れてくれれば、そう考えて必死に海の上に追い立てたのだが、その意に反するように、トーヤはなんと、もうすぐ12歳という若さで年をごまかして傭兵になってしまった。
「あまり無理しないで、危ないことしないで」
ミーヤはしばしばそう言ってトーヤが戦場に行くのを嫌がったが、トーヤは早く一人前になりたくて、かなり無茶をやっていた自覚もある。
「俺は、ミーヤを楽にさせてやりたかったんだよ」
光だけが聞いている空間で、思わずトーヤの本音が漏れる。
きっとミーヤはトーヤのその気持ちも分かってくれていた。だからこそ、大事な息子の気持ちが分かるからこそ、ただただその身を案じ、無事であるようにと願うしかできなかったのだ。
父を知らずに産まれ、4歳で母も亡くしたトーヤにとって、姉でも母でもあるミーヤだけが世界の全てだった。素直にミーヤが大切だと口に出したことはない。なぜだかそういうことは言えなかった。だから、お互いに口には出さなくても、ミーヤとディレンが深く想い合っている、単なる娼婦とその旦那の関係ではないと知って、ディレンに負けまいと戦場稼ぎから傭兵への道を辿った部分もあったし、親の愛情を奪い合う兄弟のような感情をディレンに持っていた部分もあった。
それでも、きっかけはなんであったとしても、そういう生き方が自分には合っている、そうも思っていた。自分で選んだが道の先に「死神」という二つ名をもらうことになり、どんな戦場でも生き残ることになったのは自分に合っていた道だからだと納得していた。
その道を突き詰めたら、いつかミーヤを自由にしてやりたい。あまりに幼すぎて母親には何もしてやれなかった。その代わりというわけではないが、自分がミーヤをつらい生活から解放してやるのだと、その思いから必死に死神であり続けたつもりだったが、ミーヤは儚くこの世を去ってしまった。
トーヤは何もかもやる気をなくし、馴染の娼館の馴染みの女の部屋に転がり込んだが、それとても自分の意思ではなかった。しばらくの間、あれほどミーヤを取られたと憎らしかったディレンの宿で考える余裕もなく一緒にいたが、ディレンが仕事で出港するのにトーヤを心配した顔を見ると頭にきて、自分には行く場所がある、一緒にいる女もいると見せつけるために連れて行き、その流れで長期滞在することにした形だ。
ディレンはトーヤを心配してくれていたが、実は自分のことでやはり精一杯だったと船の中での告白で知った。ミーヤがいたあの町から逃げ出し、その間にトーヤが姿を消したことを知って自己嫌悪の挙げ句、シャンタリオ行きの船の船長になり、その結果、トーヤと運命を共にすることになった。
「全部、俺が自分で選んだ道の先にあったことだ。俺はそう思ってたんだがな、それをなかったことにしろ、今度はそう言われてるわけだ」
トーヤは暗く自嘲した。




