15 トーヤが見たもの
「それは、あの場所でしょうか」
ミーヤがトーヤをじっと見つめて聞いた。
「そう思ってもらっていい」
あの場所、女神シャンタルが光によってトーヤたちを呼び集めたあの不思議な空間に、どうやらトーヤは一人で呼ばれていたらしい。
「そこである人と会って色んなことを見てきた。けど、何を見てきたかを全部言うわけにはいかねえ。正直、言えるもんでもないしな。言えるのはやっぱり八年前と同じ、実際にそこまでたどり着いたこと、それだけだ」
八年前にトーヤはラーラ様に答え合わせだけをするだけではなく、全部ぶっちゃけてくれないかと言って笑われたことがあった。
「散々っぱら言われたよ、時が満ちたらってな。今、そのことを嫌ってほど分かった気がする。とりあえずいくつかはなんとかなった、そこだけは道を間違えてなかったと思う。けど、この先はもうどうなるか分からん。キリエさん、あんたらもずっとこんな気持ちだったんだよな」
キリエはセルマを膝の上に抱えたまま、何も言わずにじっとトーヤを見つめた。その無言にトーヤは同じ気持ちを感じ取る。
「てなことで、詳しいことは言えねえし、俺にもまだどうなるか分からんことばっかで説明もできねえんだが、見てきたことと変わってたこともあってちょい戸惑ってる」
トーヤはそう言ってキリエの膝の上にうつ伏せに倒れているセルマを見た。
「まさかこの人がキリエさんを庇うとは思わなかった。俺の見たのはキリエさんが斬りつけられるところだけだったからな」
「私もまさかセルマが私を庇ってくれるとは思いもしませんでした。憎まれている、恨まれているとばかり思っていましたから」
「そうだよな、フウさんならともかく」
と、ベルもセルマを見ながら言う。
「フウさんでもなかった。斬られてたのはキリエさんだった」
「じゃああの時、そのことを知ってて、それで先にバルコニーに行こうとしてたってことか?」
アランの質問にトーヤが少し苦い顔になり、
「ああ」
と短く答えた。
「バルコニーでバカ息子たちさえ押さえてしまえば危険はない、そう思ったってことなんだな」
「そうだな」
トーヤがちらりと視線を投げかけてきたので、ライネンにはそれが自分たちのことだと分かったが、なんとも理解できない話の内容から、何も言えずにいた。
「お友達ばっかと思ってた仲間に神官がいるとは思わなかったから、こいつらを神殿に入れなきゃそれでなんとかなると思ってた。おそらく隠し通路でも使ったんだろう、そうでもないと見落とすなんてことはしない」
「確かに誰も中には入ってない。俺も気をつけてたしそれは間違いない」
「それは確かだ」
さっきから一言も話さずにいたルギもそう言う。
「おまえたちは一体なんなのだ! さっきから聞いていたらなんとも理解のできないことばかり! 一体どんな目的があって我らの邪魔をする!」
ライネンがトーヤを睨みながら言う。
「一体何の話をしているのだ!」
「その前にこっちも確認しときたいことがある。あんたらは隠し通路を通って神殿に入ったで間違いないな」
「その通りだ、それがどうした! それよりもこちらの聞いていることに答えよ! 何の話をしている! なぜ陛下と皇太子は無事なのだ!」
ライネンは今はもう感情的になって、疑問をただぶつけるしかできないようだ。
「いや、確認しただけだ。あの時、もしも他の方法を使って神殿に入ったとしたら、それを知っておきたかった。間違いなく神官が知ってる隠し通路を通った、それを確認できたら結構だ。そんで、あんたの質問だがな、申し訳ないが何も話せん。あんたらはそれが運命だと思って素直に受け止めてくれればそれでいい。それから国王たちのことは、そこのバカ息子がやったんじゃないってことも分かってる。運命が変わってなければだがな」
トーヤはタンドラもライネンも、そしてヌオリも歯牙にもかけないという風に、淡々と事実だけを告げる。
「可能性としては、あんたらが思ってたように二人の国王の両方が死んでた道もあった。だが、今はそうじゃない道を通ってる。そうとだけ思っててくれ。それ以上のことは説明できねえし、しても意味がない。時ってのは、過ぎてきてできた道だけしかねえんだよ。どうこう言っても、今、この時しかない。二人は生きている、そんで、あんたらの企みは失敗した、それを認めるこったな」
トーヤは何の感情も含まずに淡々とライネンに言い聞かせる。そのことでかえってライネンはまっすぐにその言葉を受け止められたのだろう、何も言わずに少しの間トーヤをじっと見ていたが、やがて、
「失敗、したというのか」
と、ポツリと言って、すぐそばで気を失っているヌオリをやはり感情のない目で見下ろした。
「失敗をしたということは、我らがこれまでやっていたことはどうなる。そして我らはこの先一体どうなるのだ」
「さあなあ、そこまでは俺もよく分からん。ただ、人間はな、なんだって自分でやったことは自分で責任を取るしかねえんだよ。そのことを誰かのせいにするわけにはいかねえ。それをよく考えて、この先どうするか決めるんだな」
ライネンはトーヤの言葉を聞き、それが事実であるということを黙って受け止めていた。




