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12 魔法の網

「魔法の(あみ)だよ」


 ベルが、そう言いながら自分より大きな男どもを手際よく縛り上げていく。


「うまいな」

「まあな」


 おそらく戦場ではそういう役目も果たしていたのだろう、衛士たちよりもよっぽど手早くくるくるとひもをかけては縛り上げ、


「ほい、一丁上がり」


 と、ころがしては次にかかる。


「ところで魔法の網って?」

「文字通り魔法で網を張ってあって、俺たちの手を逃れたやつらはそこにひっかかって失神してます」


 今度はアランが作業の手を止めずに言う。


「だから三人で仕留めた数よりも、そっちの方が多いんじゃないですかね」

「へえ、なんか漁みたいだな、便利だ」

「そうだけど、こういう魔法疲れるから」


 と、一人だけ手を止めて座り込んでいる生成りのマントの人物がそう言った。


「よし、とこれで終わりだな。今度はバルコニーのバカ息子どもの方に行くか」


 と、トーヤが立ち上がった時だ、


「え、今のなんだ?」


 一番神殿の入口に近いところにいたベルがそう言った。


「しまった、そっちが先か!」


 言うなりトーヤが走り出そうとして、


「あんたらは王宮へ行ってくれ、あっちはまだ大混乱だろうから」


 ボーナムたちを追い払うように言い、仲間たちに合図をして走り出した。事情を知らない者をできるだけ入れたくはない。


「王宮へ頼む」


 ルギもトーヤと同じ判断でそう言った。


「分かりました。おい、行くぞ」

 

 神殿の中で何かあったらしいとボーナムも気づいたようだが、ルギの言葉で衛士たちを(ひき)いて王宮方面へと走り出す。シャンタルが仕掛けていた魔法の網はもう撤去されていたようで、衛士たちはすんなりと廊下を東へと駆け抜けて行った。


 場所は二人の国王が倒れていたのと同じ神官長室だ。その中から声が聞こえてきた。


「セルマ! どうして!」


 キリエだ。


 一番にたどり着いたトーヤが扉を押し開くと、中でセルマが血を流して倒れており、それをキリエが支えていた。キリエがセルマの右肩のあたりを押さえているが、その手の隙間から血が吹き出し続けている。


「そ、その女が悪いのだ! 邪魔をするから!」

 

 そう言っているのはヌオリだ。返り血だろうか、その右頬には血糊がべったりとついており、右手には血が付いた剣を持っている。見たところヌオリがセルマを斬ったようにしか思えない。


「おまえ、キリエさんに斬りつけただろう」

「え!」


 トーヤはつかつかと近寄ると、剣を持って震えているヌオリの手から剣を取り上げた。


「それをセルマがかばった」

「なんで知ってる!」

「るせえよ!」


 トーヤは言うなりヌオリを殴りつけ、ふっとばされたヌオリは壁にぶつかって失神した。急いでタンドラとライネンが駆け寄る。


「見せて」


 生成りのマントをかぶった人物がキリエとセルマに駆け寄り、両手をセルマに向けてさわさわと優しくさするようにした。その手から何か優しくて柔らかな空気のようなものが降り注ぐのを、部屋にいた者たち全員が感じる。


 キリエが押さえていた手から吹き出す血が止まった。


「セルマ、しっかりしなさい!」


 キリエが声をかけるが返事はない。


「まだだよ。ちょっと傷が深いね、もうちょっと待って」

 

 生成りのマントの人物が同じ作業を続けているその横で、他の者たちがそれを見つめているのをいいことに、タンドラとライネンはヌオリを連れ出そうとしていたが、そんなことがうまくいくはずもない。


「おい、待てよおっさんら、どこ行こうってんだよ!」


 まず最初にそう言ったのはベルだ。


「行かせるわけねえだろ」


 アランが三人の前に立ちはだかると、ルギがその隣にすっと並び、


「一体どのようなことがあったのかお聞かせ願おう。本当にヌオリ様がセルマ殿に刃を向けられたのか」

「ああっ、こいつ!」


 ルギの言葉にかぶせるように、タンドラとライネンが答える暇もなくベルが今度はこう叫んだ。


「こいつ神官だよ! ダル、ほら、あん時につけて来てた」

「え? あ、ああ!」


 言われてダルもやっと思い出した。バルコニーから叫ぶタンドラを見て、どこかで見たことがあると思いながらも思い出せずにいたのだ。


「うん、確かにそうだ。あの時付いてきてた三人のうちの一人だ」


 ベルがアベルと名乗ってダルに接触した時、リュセルスの街で三人の不審な男に後をつけられた。ベルがちょっとしたことを仕掛け、その時に顔を確認している。


「神殿で見たことある、間違いない」

「神殿だと」

 

 ベルの言葉に今度はタンドラがじっとベルを見て、


「おまえ、中の国の侍女! いや、あの時の子ども!」


 と驚いて叫ぶ。


 今のベルは髪を短く刈り上げ、そして色も黒く染めてその名残が残っている。よくよく見るとアベルだと分かるが、半分侍女のような服装をし、髪もずれかけているがまだベールで半分覆われているため、タンドラはどちらにもすぐには気がつかなかったようだ。


「認めたよな、おまえ神殿からの間諜(かんちょう)だ! ってことは神官長の手先だな!」

「そうなのか?」

 

 最後の一言はライネンだった。


 ずっとライネンはタンドラの素性を疑ってはいた。一体何が目的で、どんな得があってこんなことに手を貸すのかと不思議だった。


「そうか、神官長のために動いていたんだな」


 ならば納得だとライネンはじっとタンドラを見つめた。

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