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11 神殿前の攻防

 本来ならば今頃はマユリアと現国王の婚儀という、思えばよく分からないが神聖な儀式が執り行われているはずだ。シャンタル宮を守るはずの衛士たちすら中に入らぬように言い渡されているというのに、こんなにたくさんの人の声、しかも穏やかならぬ声がするとはどういうことだ。


 ダルが靴音を気にしながら、それでも急いで神殿へと向かうと、そこには思わぬ光景が広がっていた。


「トーヤ!」


 思わず姿を隠していたはずの親友の名を呼ぶ。


「おうダル、いいところに来てくれた。手伝ってくれ」

 

 トーヤはいつものように明るく言うが、とても楽しそうに手伝うなどという状況ではない。


 ダルの目に入ったのは、さっき一緒に神殿の入口から入って王宮へ向かったのと同じような人の群れだ。どうやらヌオリの仲間たちは、神殿入口だけではなく、その後で前の宮の入口の鍵も解錠したらしい。そこから入って神殿前を過ぎて王宮方向へ向かおうとしているのだろう。


 それを阻止しているのはトーヤとアラン、それからマントのない正装のルギ、そして生成りのマントを被ったシャンタルらしき人物と、頭にはベールを巻き上半身は「中の国」の侍女らしき服装だが、下はズボン姿という、なんとも不思議な格好のベルもいた。どうやら上に履いていたスカートの部分が邪魔で脱いで捨てたようで、廊下の隅に絹のような生地が落ちていた。


 トーヤとアランはおそらくダルが調達した模擬刀、ルギはさすがにマユリアに下賜されたという例の剣を使えないからだろう、素手で暴徒と化した民たちを止めている。

 もちろん全員を止められるわけもなく、三人の横をすり抜けてくる人間がいるが、シャンタルの横を通り抜けようとしては見えない壁にぶつかって倒れていく。何かの魔法を使っているようだ。ベルはその倒れた人間の足を引っ張って、トーヤたちの邪魔にならないように横にどけている。その姿がおかしくて、こんな状況なのにちょっとだけダルは笑えてしまった。


「外で一体何があった、おまえ見てきただろ?」


 トーヤは模擬刀で迫ってくる男たちを軽くあしらいながらダルに聞いた。何しろ相手は戦いの経験などない素人たちだ、戦いの専門家である傭兵や警護隊隊長に叶うわけもなく、ひょいっと横にはたかれて倒れたところを押さえられ、以前ダルもやられたように気を失わせられていく。だが、何しろ頭に血が上っている集団には怖いものなどないらしく、その状況を見ても後から後から行く手を阻む三人に飛びかかっては倒されてを繰り返し、逃れた者はシャンタルの網に引っかかる。


「何しろきりがないんですよ、いくら俺たちでもいつまでもこんなこと、続けてられません」


 アランも相手を薙ぎ払いながらそう言った。


「ダル、前の宮の入口の扉を閉めてきてくれ。鍵はボーナムとゼトが持っているはずだ」


 ルギも素手で向かってくる相手をひっくり返しながら月虹隊隊長にそう言う。


「分かった、新手(あらて)が入らないようになんとかしてくる」


 ダルはそう言うと下に降りるのではなく、前の宮からバルコニーに上がる階段へと向かった。今から鍵を探して来るより、持っている人間に上から声をかけた方が早い。その判断からだったのだが、向かっている途中から入って来る人間が途絶えたのに気がついた。もしかしたら外にいるボーナムが気がついて止めたのかも知れない。

 あの人は有能な人だ、そのぐらいの判断はしてくれたかも知れないとダルが方向を転換し、人がいなくなった廊下を前の宮の入口方向に向かうと、果たしてあちらからボーナムと数名の衛士が駆けて来るのが見えた。


「ダルさん!」

「ボーナムさんこっちです。神殿前でルギたちがみんなを止めてます!」

「隊長が!」

「とりあえずこちらを止めるのを手伝ってください」

「分かりました」


 数名の衛士も追いついてトーヤたちと一緒に対応することになった結果、神殿前になだれ込んできた者たちはすべて捕縛することができた。


「王宮の方は王宮でなんとかしてもらうしかないだろうな」


 衛士たちと一緒になって暴徒を縛り上げていたトーヤがそう言うと、


「ボーナム、ここが終わったら王宮の手伝いに行ってくれ」


 と、発言を否定するように即座にルギが命じたため、トーヤがちっと聞えよがしに舌打ちをした。


「あの、ひもです!」


 ミーヤとアーダがどこからか暴徒たちを縛るためのひもを手に入れてきた。


「ミーヤたちもいたのか」

「ええ、アーダ様と二人、ひもを探しに行ってました」


 ミーヤが何の用途のものかは分からないが、しっかりしたひもの束を一番近くにいたダルに渡した。


「これで倒れてるのを縛ればいいんだな?」

「ああ、頼む」


 トーヤが自分も手近に倒れている者の手を後ろ手に縛り上げながら答え、ダルも倒れている者を傷つけないように縛る作業に取り掛かったが、ざっと見ただけでも百人ぐらいが意識を失って倒れていることに目を丸くした。


「それにしても、これだけの人数を三人だけで止めたのか?」

「いや、こいつの力が大きいな」

 

 トーヤが首でくいっと生成りのマントの人物を指して言った。ボーナムたち衛士もいるのであえて名前を出さなかったようだ。

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