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30 最終目的

 タンドラにも今の状況が本当に分かっているわけではない。まず、本当に国王、それも仮にも国王と名乗る二人が共に亡くなったのか確認もしていない。あくまでヌオリがそう言っているだけだ。


 それにタンドラの目的も言ってみれば国王の復権ではない。

 

 タンドラは元憲兵で「協力者」が今度の蜂起(ほうき)のために集めた仲間の一人であるという触れ込みだが、元々信仰心が厚く衛士になりたかったものの憲兵に回されたという過去がある。その結果やはり神に仕えることこそ我が人生と神官になることを選び、その道の先で出会った神官長に心酔(しんすい)する者だ。


 つまりタンドラの最終目的も国王の復権ではない。はっきり言ってしまうと国王が誰であれ、たとえば国王がいない国になったとしても、神官長が評価され、この国になくてはならない方だと知らしめれば、神官長が思うような国になればそれでいいのだ。

 おそらくこの高家(こうけ)の子弟たちも同じであろう。心の底から前国王を尊敬し、その方にぜひとも国の頂点にいてほしいと願う者はないはずだ。誰が国王であろうとも、自分たちの家が国の中枢(ちゅうすう)(にな)えればそれでいい。


 その点ではタンドラとヌオリたちの利害は一致している。だから国王が生きようが死のうがそれは関係ない。その目的を遂行してもらわねば困る。


「みなさんは前国王陛下のためだけに、今度のことに参加なさったのでしょうか? たとえ自分が踏み石となり、命をかけて、または失っても陛下を元の王座にお戻しするため、そのためだけにこれまでのことをなさってこられましたか?」


 タンドラの問いかけに誰も答えることはない。黙ったままのヌオリたちにタンドラが続ける。


「はっきり申し上げますが、みなさまがお望みなのはご自分の家の復権ですよね? 皇太子に重用(ちょうよう)されるラキム伯爵家やジート伯爵家が力を持つのは納得できない、元のようにご自分たちこそが力を握りたい。そうですよね?」


 あからさまな言い方に全員が不愉快そうな顔になるが、タンドラは構わず続ける。


「つまり、国王がいようがいまいが、ご自分たちの目的を達成できればそれでいいのです。違いますか?」


 違わない。だが、あまりにはっきりと言われてしまうと返答に困るというものだ。


「本当にお望みなのは、国王の復権ではなくみなさまのお(いえ)の復権だ、そうでしょう?」


 ライネンは必死に訴えかけるタンドラに少し驚く。これまでずっと冷静に、淡々と物事を引っ張ってきたタンドラには多少の薄気味悪さを感じていた。


 以前、ライネンはタンドラに今度のことに参加するにあたり、タンドラがどのような希望持っているのかを聞いたことがあるが、その時にはこう言っていたのだ。


『あるとすれば、正しいことを正しく、あるべきことをあるように、そうあってほしいとの気持ちのみです』


 正義のために命までかける。そう言い切るタンドラに背筋が寒くなるのを感じ、まるで人ならぬ者のように思った。


 だが今この男は決して口にはしなかった本当の望みを叶えるために必死になっている。それは自分たちのように我が家の復権などという見えやすいものではないが、やはりその心の奥には何か最終目的があり、そのためにここで手を引かれては困る、そういうことなのだろう。


 ライネンはタンドラも人であったとほっとすると同時に、ならば目指す先は違ったとしても、同じ道を進む仲間として信頼できる。そう思った。


「タンドラの言う通りだ。ここでやめてどうする」


 きっぱりと言い切るライネンに、ヌオリが驚いて顔を上げた。


「そうだ、私たちの目的は陛下の復権ではない。復権していただいて、その力を借りて自分たちこそが元の位置に戻りたい、そうであった。ではたとえ陛下がおられなくなったとしても、まだ目標は残っている。そうではないか?」


 ヌオリはライネンの変貌(へんぼう)に言葉が出ない。これまでずっと自分の意思などなかったようなライネンが、まさかそんなことを言い出すとは。


「いいか、時間がない。もうすぐ陛下の亡骸(なきがら)が発見される。あの傭兵が神殿に走ったからな。こちらもすぐに動かなくては」

「動くって、い、一体どうするんだ」

「そうだな、とにかくこちらが()することを考えねば」


 仲間の問いにライネンは一瞬考え、


「陛下を(あや)めた犯人を捕まえる。そのようなことが何かないか。例えばあの傭兵を犯人に仕立て、我らが捕まえる、そんなことではどうだ」


 ライネンの言葉に仲間たちだけではなくタンドラも、そして捕まっているゼトも驚いた。あまりに突拍子(とっぴょうし)もない提案に誰も言葉がないが、すぐにライネン自身がそれを否定した。


「いや、あの男には陛下を手にかける理由がない。ならば、世間にばらまいた噂のように、皇太子が陛下を殺めようとして陛下が返り討ちにした。その方が筋が通るな。ヌオリ、現場には君以外に誰かいたか?」

「い、いや私だけだ」

「ではそれでいこう。陛下はヌオリが駆けつけた時にはまだ息があった。そしてヌオリにお言葉を残された」


 これがずっと自分の後を付いてくるだけしかできなかったライネンなのか。ヌオリは目を丸くして人が変わったような幼馴染を見つめるだけしかできなかった。

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