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27 ヌオリの行方

 ダルたちが危惧していた「消えた一団」はもちろんライネンたちが引き連れた一部の集団だった。主な民たちはそのまま前の宮まで通しておき、残りの貴族たちを中心とした一部の者たちが群衆から抜けたのがそれだ。一般の民たちとは違い、王宮や神殿、シャンタル宮の構造も多少は理解している上にタンドラがいる。タンドラは神官長の意に沿って動いている子飼いの者で、ある程度の抜け道にも精通しているため、そっと姿を隠せたのだ。


「こちらから入りましょう。この民たちの一団が行ってしまったらそっとこちらへ」


 タンドラはそのうちの一つの抜け道から、二十名ほどの一行を何度かに分け、目立たないように前の宮の中に引き入れた。


「この階段を上がってすぐ近くに皆様の部屋があります。少し人数は多いですが、宮の客室は広い、なんとかなるでしょう。しばらくその中に隠れていてください。その間に私はヌオリ様や陛下のことを調べてきます」

「頼む」

「ここは神殿から前の宮に続く隠し通路です。外に声が漏れてはいけませんので、お静かにお願いいたします」

「分かった」


 一行はタンドラの案内で隠し通路の暗闇の中をそっと進み、ある場所まできた。隠し通路の中は、あちらこちらから外の光が細く入ってきて、夜はさすがに灯りがないと闇の中だが、今ぐらいのまだ早い時間に歩くのには、それほど不自由しない。それに今の時間、婚儀が終わるまでは部屋の中から一歩も出るなと言われていることは幸いだった、細い隙間から覗いてみても、誰も人の気配はない。静かに出れば誰にも見つからずに元の部屋に入れそうだ。


 階段を上りきり、外に出る隠し扉の前まで来ると、誰かがやってくる気配がした。タンドラの合図でライネンたちは息を殺して静かにしていたが、その前を通りがかった人を見ると、思わず声を上げそうになった者もいてひやりとした。


 ヌオリが衛士と薄い色の髪の若者に挟まれて、前の宮の客室がある廊下を東に向かって歩いて行った。顔つきは不愉快そうだが、特に声を上げることもなく、黙って連行されているとしか思えない様子だ。


 三人はさすがに壁の中に人が潜んでいるとは思わないようで、何事もなくそのまま進むと、衛士が鍵を開け、ある部屋の中に入ってしまった。ライネン一行は暗い隠し通路からその動きを全部見ていた。


「入った部屋も分かりましたし、ヌオリ様のこと今は置いて、とりあえず部屋の中へ。全てはその後です」

「分かった」


 貴族の子弟たちはタンドラに言われ、急いで元々ヌオリたちにあてがわれていた部屋の中に入った。二十名のうちの一部は元々この部屋にいた者だ、鍵も持っているので何の苦も無く室内に入れる。


「少し狭いな」


 元々十二名が滞在できるだけの広さのある部屋だが、確かに成人男性が一度に詰め込まれると多少窮屈に感じないことはない。だが、この状況でもそんな文句を口にする者がいたことにライネンは苛つく。


「文句を言うな。それよりタンドラ、さっきのは」

「ええ、分かっています。ヌオリ様は神殿から出て来られた後、あの者たちに捕まったのでしょう」


 そうとしか思えないが、一体何があったのかまでは、ここにいる者たちには全く分からない。


「もしかしたら、あの部屋でヌオリ様に拷問なんてことは」


 タンドラの言葉に部屋中の者が顔を見合わせた。


「まさか、バンハ侯爵家の継嗣(けいし)にそんな真似ができる衛士などいるはずが」

「衛士はそうでしょう。ですが、もう一人の男はどうです」


 アランが傭兵であることはライネンたちも知っている。「中の国から来た貴婦人」には二人の傭兵が付いており、どちらも若いながらかなりの遣い手だという話だった。


「金のために戦場で人を手にかけるような仕事をしている男ですよ、ないとは言い切れないかと」


 ライネンたち貴族の子弟から見ると、傭兵などという存在は兵と呼ぶのも不相応、ならず者、荒くれ者と同義語に等しいと言ってもいい存在だ。タンドラに言われ、あらためてその言葉が現実のものとして重みを持った。


「もしもヌオリ様が今度のことを白状してしまったら、たちまち皆様は王権の転覆を狙う反逆者となりましょう」

「まさかそんなこと!」

「いや、ないとは言えない」


 誰だって追い詰められればかわいいのは我が身だ。特にヌオリは自尊心が高くその傾向が高い。バンハ家の者は特別で、その他の者には価値などないと考えている。自分が助かるためなら理由をつけて、他人に責任転嫁することぐらいやりかねない。


「ヌオリを取り戻さねば」

「だけど、あそこにはあの男がいるんだぞ」

「なんとかあの男だけでも出ていってくれないものか」


 衛士だけならば後はどうとでもなる気がする。だが野卑な傭兵に弱みを握られてしまったら、それこそ大変なことになる。


「人数でかかればなんとかならないか」


 確かに数だけ見ればこちらは二十名、あちらはアラン一人と言っていいだろう。だが、戦闘にかけてはあちらに明らかに利がある。


「なんとかあの男だけあの部屋からおびき出し、その間にヌオリを助け出すとはいかないのか」


 ライネンたちはヌオリのためではなく、自分たちのためにヌオリを救い出す方法を考えていた。

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