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26 消えた一団

 アーリンは自分が漁師だと言い切ったダルの姿に眩しいほどの誇りを感じ、もう何も言えなくなった。もしかしたら、自分も何かあの王宮衛士たちと同じ間違いをしていたのではないか、そんなことを思いながら。


「だから、そんなことはどうだっていいんだよ。俺は自分の前にあることでできること、やらないといけないことをやるだけのこと。それには漁師だの月虹兵だの関係ないんだ」


 アーリンは馬上にあってもひょろっと細長く、なんとなく見た目では頼りなさそうに見えるダルに、本当の芯の強さを見た気がした。


「隊長」

「なに?」

「やっぱり俺、隊長のこと尊敬します!」


 アーリンは前のように憧れでキラキラした目ではなく、今はしっかりとダルという人間を正面から見つめながらはっきりとそう言った。


「な、なんだか分からないけど、今はそういう場合じゃないからとにかく急ごう!」


 ダルはいつものちょっと照れ屋の若い漁師の顔になってアルを急がせ、アーリンもそんな隊長を見て同じようにジェンズを急がせて後ろに続いた。


 二人が前の宮近くに着いた時、すでに最初の嵐は収まって、衛士たちが広場から民たちを静かに追い出しにかかっていた。


「ここもどうなってるんだ」

「俺、ちょっと聞いてきます」


 今度はアルがジェンズから降り、一番近くにいた衛士に様子を聞きに走った。衛士たちは門のところにいた王宮衛士とは違い、月虹兵の腕章を着けたアーリンに丁寧に説明をしてくれた。


「分かりました」


 ダルはアーリンから説明を聞いて驚きはしたが、中に残っている者たちのことを考えればそのぐらいのことはあるだろうと納得をした。


「それで一時的には落ち着いたってことか」

「一時的なんでしょうか」

「うん。だって考えてもみてよ、シャンタルのお姿を見てお声を聞いたのはほんの一部の人だけだろ、その人たちの話を聞いて気持ちを収めてくれる人も多少はいるだろうけど、その他の大部分の人はそれだけで納得してくれるとは思わない。それに、だったら自分にもお声をいただけるんじゃないか、そういう考えで宮へ来る者もいるだろうしね」

「そうか、そうですね」


 アーリンもダルの説明に納得する。


「だから根本的な解決にはならない。中にいる人もそれが分かっているだろうから、今頃は次の手を打ってるはずだけど、何をどうしようとしてるんだろう」

「隊長」

「何?」

「隊長はその中の人のこと、シャンタルにお出でいただくようにと考えた人のことをよく知ってるんですね」

「やりそうな人に心当たりはあるけど、でもどうしてそうなったかまでは今の状態では分からないからね」


 ダルはまずトーヤのことを考えたが、今、トーヤがそうしてエリス様の振りをして当代をお連れになるとはちょっと思えなかった。


(だとしたらシャンタルか。いや、当代が懐いていらっしゃるのはアランだ、アランの可能性が高いのか)


 そうは推測するが、やはりどういう経緯でそうなったかまでは分からない。ダルは神殿の中で起こったことまでは知らないからだ。


「そういえば隊長」


 考え事をしていたダルにアーリンがまた声をかけてきた。


「衛士の人が言ってたんですが、広場に集まった人たちを街に返している時に、なんだか王宮の方からまたたくさんの人たちが来ていたように思ったんだそうですが、気がついたらその人たちは消えていたって言うんです」

「なんだって」


 ダルはてっきり、王宮から来た群衆はみんな広場からリュセルス方面に出されたのだとばかり思っていたが、そうではない可能性が出てきた。


「もうちょっと詳しく話を聞きたい」


 ダルも急いで今度はその場を取りまとめていたボーナムに話を聞きに走った。


「実は私はその後ろから来た一団というのを目にはしていないんです。部下の一人が新しい集団が王宮の方から来ていると報告をしてきたんですが、その後で広場に入ってきた人数が聞いていたよりは少ないようには思いました。その部下にもう一度確認はしたんですが、何しろ王宮から神殿を通り過ぎてこちらに向かっていたもので、細長く伸びていたから正確な数までは分からないとのことでした。そこで様子を見に行かせようと思っていたところ、お二人が来られたのでそれで終わりだったのかと思っていたんですが」


 ボーナムはダルを月虹隊隊長としてよく知っている。ずっと年上で、それに貴族出身でありながらダルとも対等に話をしてくれるできた人物だ。隊長であるルギをよく支え、地味ではあるが実力も認められ、隊員からの信頼も厚い。


「じゃあ、後ろに続いていた人たちが消えたって可能性もあるってことですよね」

「もしもまだ続く人間がいて、王宮の方に帰ったのではないとしたら、その可能性はありますね」

「こちらに来る途中はほとんど誰にも会いませんでした、隊長と二人だけでした」


 アーリンもそう証言する。


「だということは、広場に到着したのが全員だったということでしょうか。そうではないとするともしくは……」

「ええ、そうなりますよね」

 

 ボーナムの言葉にダルも頷く。


「消えた一団ということがあるということですか」


 二人の言葉の続きをアーリンが口にした。

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