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24 援助要請

 前の宮の広場は当代シャンタルのおかげで一応興奮を収めることができたが、シャンタル宮の外ではそうはいかなかった。リュセルスの街のいたるところで小競り合いが始まり、あちらこちらでは数人での乱闘にまで発展している。


「こら、やめろ! やめないか!」

「おい、憲兵だけでは足りない、月虹隊も呼んでこい! できれば衛士や王宮衛士にも頼んでくれ!」


 今日の婚儀と明日の交代のために大部分の憲兵が招集されていたが、それだけでは足りずに非番の者にまで追加で呼び出しがかかった。だがそれでもまだ足りず、急ぎ月虹隊本部に憲兵から連絡が入り、それは西の本部にいたダルにも届いた。


「月虹隊はそういう部隊だ、憲兵から援助要請が入ったら駆けつけるのは当然。非番の者にもそう伝えて、出られる人には可能な限り出てもらって。それから東の本部には俺が行って来るからここはナルに頼んだ」

「分かりました」


 月虹隊副隊長、ミーヤとリルの同期で今は外の侍女となったノノの夫ナルは、留守を引き受けてダルを見送った。


 ダルは人が集まっているシャンタル宮に近い北からあえて距離を取り、海岸に近い南に回ってから東に折れて愛馬のアルを走らせる。八年前、当代マユリアから下賜された元神馬のアルは、まるでダルの気持ちを読んだように一心同体で走り抜ける。


 東の月光隊本部もやはり同じような状態で、こちらにはちょうど若手しかいなかったので、ダルが駆けつけてホッと安心していた。


「隊長、どうしましょう」

「落ち着いて。憲兵隊から援助要請が来たんだ。今日、非番の人で出てこられそうな人いるかな」

「えっと、今非番の者を調べます!」


 急いで名簿を調べていると、一人の若い隊員が飛び込んできた。


「隊長、僕にできること何かないですか!」


 アーリン。月光隊の隊員見習いで、ダルに憧れるリルの親戚の少年だ。今日は非番なのに街の騒ぎを見て顔を出してくれたらしい。


「アーリン、来てくれたのか。助かるよ」


 ダルの言葉にアーリンはぱあっと顔を輝かせた。


「憲兵隊と協力して人の整理をする。すでに揉め事も起こっているから、大きな事件にならないように気をつけないと」

「はい!」


 ダルはアーリンたち東の本部にいる若い月虹隊員に「くれぐれも気をつけるように」とくどいぐらいに言い聞かせ、それぞれの持ち場を振り分けた。


「憲兵隊からは街の北に多めに人を配置してほしいって。俺も走ってみて思ったけど、南には人が少ない。みんな争いながらも宮に進もうとしてるみたい」

「宮にってなんで?」


 アーリンが一人の見習いの言葉に不思議そうに言う。ダルはおそらく自分の知っている理由のためだろうとは思うが、そのことは隊員たちに話せない。そこに触れずに、できるだけ隊員と民の安全を守れるように動かないといけないと言葉を選ぶ。


「やっぱりみんな婚儀が気になるんじゃないかな」

「でも、行っても見られないって話じゃないですか。マユリアも国王陛下もお出にならないということだし」

「いや、それだけじゃなかったですよ」


 横から別の隊員見習いが話しかけてきたが、隊長の話の腰を折ったと思ったのか、それだけ言ってから「あっ」という顔になって口を閉じてしまった。


「いや、いいから話してみて。何があったのか聞きたい」

「そ、そうですか? あの、俺はリュセルスの西寄りの北を通ってきたんですけど、そこでこんなことを言ってる人たちがいたんですよ」

「なんて?」

「前の王様が今の王様をどこかに隠してたんですが、ひどいことをしたらマユリアが悲しんで婚儀はなくなる。でも婚儀さえ終わったらもう生かしておく理由はなくなるから、婚儀の前にお助けするんだって」

「え、それ本当?」


 アーリンが驚いて大きな声を出した。


「そんな話になってるのか」


 ダルも聞いたことがない話だった。


「隊長は宮のことよく知ってますよね、前の王様が王宮から逃げ出して宮に助けられて(かくま)われてるって話、本当ですか?」

「いや、そんな話は聞いたことがないけど」


 正確にはおそらくそのことだろうという話は聞いたことがある。宮に不審者が入り込んだといって、あっちこっちを捜索していたことがある。それがおそらく国王のことだろうという話はしていたが、そんなことを話すわけにはいかない。


「街では今の王様が親不孝でひどい人間だって言う人と、今の王様は立派な方で、前の王様の身勝手があまりにひどくて、見かねてやむを得ずそうしたんだって人がぶつかってました」

「え、俺は前の王様はご病気で、それで御譲位なさったって聞いたけど」

「俺もそれも聞いた、けど違うって言うんだよな」

「ええー、どっちなんだろう。隊長、どっちか聞いたことありません?」

 

 見習い二人はやはりダルなら何か知っているのではないかと水を向けてくる。


「だから宮に出入りできてるからって、俺みたいなもんにまで、そういう話はされないから。それよりも、準備ができたら街に出るよ。くれぐれも無理したりケガをしないように気をつけて。憲兵と協力して大きな揉め事にならないように」


 何がどうであろうとも、今ダルにできるのはそれだけだ。

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