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19 修羅場の部屋

 アランが急いで部屋に戻った時、部屋の中はまた違う修羅場になっていた。


「なぜラーラ様を前の宮の侍医に見せたのです!」


 シャンタル付きのネイの声だった。そういえばアランがシャンタルたちと一緒に部屋を出た時はネイがシャンタルに付くことになっていたのに、ヌオリを追って来た時には当代とラーラ様の二人だけだった。そしてそのすぐ後に戻ってきたのは最初に付いてきた侍女三名だ。手にお茶とお菓子を持っていたところから、奥宮からシャンタル用のお茶を運んで来たものだと思われる。


 おそらく、当代が飲みたいと言ったのかネイが思ったのかまでは分からないが、ネイは一度奥宮に戻り、今日の当番侍女たちにシャンタルにお茶をお持ちするようにと指示をしたのだろう。ラーラ様とお二人だし、短時間と判断したのだろうが、その短時間に思わぬことが起こってしまったということだ。


 ヌオリを取り押さえてすぐに三人の侍女がお茶とお菓子を持って戻ったので、アランはすぐに侍医を呼ぶように、できるだけ早くと指示した。そのために慌てた侍女がすぐ近くの侍女たちの対応に当たる侍医を連れてすぐに戻ったのだが、それがネイには気にいらなかったらしい。


「ラーラ様がどのようなお方か知らぬわけではないでしょう! まだそれだけの任にはない者に、畏れ多くもラーラ様のお体を触らせるなど言語道断です!」


 ネイの剣幕に三名の侍女はこれ以上ないほどに身を縮こまらせて真っ青になっている。


「お言葉ですが」

 

 部屋に入るとアランはひょいっと三人の侍女の横から顔を出し、ネイに話しかけた。


「あの時、ラーラ様は頭を打って意識をなくしてました、どこのどんな医者じゃなく、できるだけ早く診てくれる人が必要だったので、この人たちのやったことは間違いじゃないと思いますよ」


 ネイはアランの言葉にキリエとも似た無表情に浮かぶ怒りを隠しはしなかったが、少し上から下を見るような視線になり反論する。


「あなたはラーラ様がどのようなお方が知らぬのでそのように言えるのです」

「いえ、知ってますよ。先代のマユリア、今のマユリアの前のマユリアで、その前のシャンタルですよね」


 アランの言葉にネイは一瞬ほんの少しだけ驚いた顔になったが、すぐに元に戻り、


「そうでしたね、あなたは託宣の客人の知り人(しりびと)でした、知っていてもおかしくはない」


 と言った。


「ええそうです。その客人から聞いて全部知っています、全部ね」


 アランの何かをにおわせる言い方にまたネイは少しムッとした。このあたりが侍女頭よりちょっと甘いんだなとアランは思う。


「いくら元神様でも今の体は人ですよね。だったら医者が誰であろうとも、少しでも早く診てもらうのが重要です。それでラーラ様、どうです」

「お気がつかれました」

「それはよかった。だけど意識を失うほど強く打ってますから、しばらくは安静にして、少なくとも一日はねてた方がいい。ですよね?」

「え、ええ、その通りです」


 アランに声をかけられて侍医はおどおどと答えた。さきほどは部屋に走り込んだアーダに怒鳴りつけられるし、今度は診てはいけない方を診てしまったのだろうかと不安になっていたところだ。


「医者だったらいいでしょう、この人も立派な医者でしょう。それよりは急いで診てもらう方が重要です。それよりもわざわざ資格があるって医者を呼びに行って、手遅れになった方がいいですか?」


 アランはもう一度そう言い、さすがにネイも黙った。


「それでラーラ様はどうします? あまり動かさない方がいいと思うから、この部屋で寝たらいいんじゃないですか」

「ええ、そうしてもらえたらいいかと」


 侍医がホッとしたようにそう言う。


「私も様子を診に来やすいですし、他の者も交代で来られます」

「そうですか、ではそうしてください」


 ネイも侍医の意見を受け入れるようにしたらしい。


「話が決まればすぐ動きましょう。俺はちょっとこいつに聞きたいことがある。ゼトさん」

「なんだ?」


 いきなり名前を呼ばれてゼトが慌てて返事をする。


「こいつに話聞きたいんで、どこか他の部屋に連れてってもいいですかね」


 ゼトはアランに「こいつ」と呼ばれたヌオリを見て少し複雑な顔になる。


 今、目の前で手足を縛り上げられて猿ぐつわをかまされて情けない風体にはなっていても、相手は仮にも高位貴族の後継者だ。ただの衛士であるゼトにとってはなかなかに始末が悪い相手と言うしかない。

 ゼトはこのシャンタリオの民であり、今、この国に起こっている大きな事を知っているわけではない。どう動けばいいのか考えて困ったとしても当然だと言える。


「とりあえず、ここはラーラ様の病室にしてもらいますので、神殿からエリス様たちが戻ったらどこか他の部屋を借りたいんですが」


 アランは今のこの厄介事さえ落ち着けば、また平穏な日々が戻って来るかのようにゼトに言った。


「ゼトさんに説明しようにも、俺もちょっと分からない部分があるので、聞きたいことがあるんです。何しろラーラ様を突き飛ばした上にシャンタルを捕まえようとしてたんですが」


 その名を出されると弱い。ゼトはヌオリ詰問のために移動することを認めた。

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