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13 二つの国王派

 マユリアの婚儀のために不在のキリエの代行を務めるラスキアの命で、衛士たちはすぐに前の宮へと飛んでいった。シャンタル宮警護隊隊長のルギも不在のため、こちらは副隊長のボーナムと第一警護隊隊長のゼトが代理で指揮をとっている。


「これ以上民を入れるな! すぐにリュセルスに戻らせるんだ! 今日は民を宮に入れる準備はしてない、明日だ、明日の交代の日まで誰も入れるな!」

「はい!」


 ゼトが部下たちに指令を飛ばし、各々が配置に就いて民たちを押し留めるが、何しろ数が数だ、思うようには止められない。


「これより先には入るな!」

「ここに入れるのは明日の交代の日だ、今日はまだ入れない!」

「すぐに街に戻れ!」

 

 必死に声を枯らして言うが、群衆の声に押されて全く届かない。いや、聞こえているとしても聞くつもりはないと言った方が正しいのかも知れない。


 衛士の姿を見てややひるんでいた者たちも、他の者が引くつもりがないと見ると、一緒になってさらに宮の内側へと進んでくる。


「だめだ、あれだ! あの柱だ!」

「分かりました!」


 ボーナムの命で八年前にトーヤが部屋から見たあの柱、交代を見るために民たちを区切る柱用の木材を使って防御しようというのだ。明日のためにすでに前の宮の広場に準備されていた。

 衛士だけではなくラスキアからの命で庭師や下働きの男たちも一緒になり、急いで簡単な防御柵を設けるが、これ以上人が増えるとなんなく突破されてしまうだろう。何しろ元々が敵を防ぐための防御ではなく、礼儀正しく注意にしたがって並ぶ人を整理するためだけの目的の柱だ、強度もあまりない。あくまで性善説に従って人を整理するためだけの道具なのだから。


 それでも柱を倒して柵の代わりにしたことで、なんとなく人の流れはゆるやかになったように思える。本来、シャンタリオの、特に穏やかに過ごせるリュセルスの民たちは争いが得意ではない。そこに宮を守る衛士たちに必死に止められ、やや勢いが落ちたようだ。前に押して来る力は弱くなり、衛士たちも少しほっとしていた。


 だが押していた前への力は決して弱まったわけではなく、あふれた力は他の方向へと流れを変えていただけだった。


 王宮、神殿、そして前の宮をめざしていたのはヌオリたちと同じ前国王派だけではない。リュセルスの街でも現国王派との小競り合いはあったが、ここにきて本格的なぶつかり合いとなっていった。


 最初は本当に小さな小競り合いだった。前へ、前へ、前の宮へと進んでいた行列が止まり、並び合っていた前国王派の男と現国王派の男、その二人が進まなくなったことによるいらいらを互いにぶつけ合ったことからそれは始まった。


「何が前国王陛下の復権だ! 現国王陛下がどれほどご立派な方か分からないやつらのたわごとよ!」

「実の父親を手にかけようという天にも背く稀代の親不孝者、そんなやつに肩入れするのか!」

「そんな証拠がどこにある!」

「現に国王陛下のお姿は見えなくなってるじゃないか!」

「それはマユリアまで摘み取ろうというその不行状ゆえの自業自得!」

「ではその息子はどうなんだ、結局は無理やりマユリアと婚儀を行おうとしてるだろうが!」

「マユリアは若くてご立派な陛下との婚儀をこそお望みだ!」

「いいや、長い平和をお守りになった父王様のご人徳をこそ良しとなさっておられる!」

「あるもんか!」

「なにおう!」


 そんなことから二人がつかみ合いのケンカになり、それがみるみる広がっていった。


「父王様こそこの国の国王だ!」

「いいや、現国王陛下こそ!」


 二人の国王が神殿の中で瀕死の状態になり、先代「黒のシャンタル」の手によりなんとか命ながらえたと知らぬ民たちは、今はまっぷたつに割れて争いあっている。


 やっと人の波が弱まったとホッとしていた衛士たちも、もっと先で起きていること気がついた。ゼトを先頭に第一警護隊の衛士たちが流れてくる人たちを逆行し、騒ぎが起こっている場所まで到着する。


「おい、何をやっている! やめろ!」

「ここがどこか分かっているのか! 畏れ多くもシャンタルのお足元だ!」

「おい、やめろ!」


 衛士たちが必死に止めるが興奮しきっている民たちには届かない。あちらこちらでもみ合い、殴り合いが始まり、消しても消してもあちらこちらから火を吹くように争いの輪が広がっていく。


「やめろー!」

「どけー!」

「この野郎、やってやる!」

「なんだと、こっちこそ!」


 これまでリュセルスでは起こったこともないような騒ぎが起きつつある。しかも絶対の神であるシャンタルのお住まいであるその御前で。


 そしてその中にはこんなことを主張する者も現れた。


「シャンタルにお決めいただこうぜ!」

「そうだそうだ、どちらの国王が真に正しいこの国の王様か!」

「もちろん今の国王様に決まってる!」

「何を言う、父王様こそその人徳で長い年月この国を治められた方だ!」

「シャンタルにお聞きしよう!」

「そうだ、シャンタルならご存知のはずだ!」


 わあっとどよめきが上がり、一度は衰えていた前へ、前の宮へと進む勢いが復活した。民たちはひたすら前へ、前へ、シャンタルの御前へと進み出し、とうとう簡易的に作った防御は突破されてしまった。

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